異世界事情
新しい世界、新しい生活……。
薄々気付いてはいたけど、やはりここは異世界と言うやつなのか。
もしかしたらこれってまずい状況なのでは?
「新しい世界って、どういう意味ですか……?新しい生活は理解できるのですが。」
「どうもこうも、坊主は異世界人の者だろ?」
「なぜ、そう思うんですか?」
「ふむ、そう警戒しないでくれ。まず、この世界にとって異世界人とは保護対象なのだ。危害を加えたりは決してせん。正当な理由なくそんなことをすれば、国際指名手配の上、一族郎党晒し首になるのが落ちだ。それが例え王族であろうと。」
「な、なるほど……?」
「それに、そこまで珍しいことではない。いや、珍しいのだが。坊主と同じ異世界人はそれなりにいる。過去にもそういった者達が残した文化や知識が残っている。そうだなぁ、わしが生まれてからこの世界に来た異世界人は10人は居たと記憶している。」
「そんなに……?」
「まぁ、多少の波はあるがな。どうだ、これで少しは安心してくれたか?」
「はい、疑ってすみません。」
「がはは、よいよい。誰にでも無警戒より、多少の警戒心は持っておかねばこの先振り回されることになるからのぉ!」
満足したようで、大笑いしながら大きな手で肩をバンバンと叩かれる。
正直かなり痛い。
「まぁそういうことだ。名前を自分で付けるなんて普通ならない事だ、かっこいいと思う名前や付けてみたい名前にするがいい。そうだな、晩飯の時に聞かせてもらおう。時間になったらユーリスに知らせに来させる。それ以外に何か用があれば机の上のベルを鳴らすといい。」
楽しみにしているぞ!と言いながら入ってきた時と同じようにドアを向こうに消えた。
なんというか、嵐のような人だ。
悪い人じゃないってのはわかるんだけど……。
「それにしても、名前かぁ……。」
日が沈み暫くした頃、ユーリスが迎えに来た。
「やぁ、そろそろ夕食の時間だから迎えに来たよ。」
「ユーリスさん、ありがとうございます。」
「じゃあ、着いてきてね。暫くはここに住むことになるだろうから食堂までの道覚えておいてね。」
「頑張ります」
予想より長い廊下とドアの数に思わずそう言ってしまった。
部屋は屋敷の西側の1階にあった。そこから屋敷の中央にある階段で2階にあがり2部屋目が食堂となる。
「失礼します。ユーリス・レルモンド、御客人をお連れしました。」
「ご苦労であった。」
ユーリスは案内し終わるとそのまま部屋から出ていった。
「お主も座るといい、食べながら今後の事も含めて話し合おう。」
どこに座れば良いか分からず困惑していると、給仕の男性が椅子を引いてくれた。
軽く会釈しながら席に着いた。
「なれない食事だとは思うが、マナーなど気にせず食べてくれ。我が領は鉱山が多くてな、血の気の多いものが多く、食べるものも肉食が多い。無理せず食べられる分だけ食べてくれればよい。」
体に気を使って貰えてるのであろう。肉が多いとはいえ、脂は少なく消化しやすいように工夫されているのが素人ながらにわかる。
その分、味の変化が乏しいというか、若者としてはやはりもの足らなさは感じる。
「そうだ、名前はもう決まったのであろう?」
「はい、一応。」
「では、教えてはくれまいか。」
ドールの口調の変化に疑問を覚えつつも、約束通り考えた名前を教える。
「ハヤト」
「ほう、ハヤトか。理由を聞いても?」
「理由という程のものはないんですが、思いついた中で1番しっくりしたのがこれなので。」
「うむ、もしかすると元の名前なのかもしれないな。自身で納得できるのであれば、それが良いだろう。」
「ありがとうございます。」
「では、それでこっちの世界の身分証を用意させよう。家名などはなくて良いのか?」
「えっと、こちらでは一般的にどんな感じなのでしょうか。」
「あぁ、そうだったな。それも踏まえて説明しよう。」
この世界では家名を持つものは基本的に貴族や王族、商会を持つ商人。
戦時では、褒美として家名が与えられる場合もある。
また、領地を持つ場合は領名が家名の前に付く。
ドールは領名こそあるが、家名はないので正確には貴族ではない。
そしてこのドレアス領はエルドラ王国にあり、ハヤトが発見された魔素の森と山脈を挟んで面している。
この魔素の森とは、魔獣という体内に魔石がある凶暴化した動物である。
ドレアス領の騎士団はこれを適時対処していくのが使命だそうだ。
エルドラ王国はこの世界中ではかなりの大国だそうで、同大陸にある帝国と過去に何度も戦争をしている。現在はちょっとしたいざこざ程度で済んでいるらしい。
また、エルドラ王国は過去にも異世界人が数多く保護されており、他の大国より文明として進んでいると。
しかし、元々この世界は魔法によって文明などが起こった為、異世界の知識なども魔法と組み合わせたり、応用することで受け入れられている。
そして魔法というのは先天的な才能であり、後天的に手に入れられるものでは無いとのこと。
魔法の才能を持つものは、それだけで重宝される。
異世界人に関しては世界を超えたことにより、何らかの影響で魔法を使えるという。
魔法は基本5属性、またそれを複合や応用による属性(正確な数は知られていないが雷、風が有名である。)、神に認められたもののみが使えるという光、邪なる悪が使うと言われている闇。
そして、この世界には五大天と呼ばれる魔法士の頂点、五人の魔導師がいる。
もしも仮に、戦場で彼の者達を見かけた場合、即座に逃げよと。