身元の証明
騒然とした一夜が明け、駐屯地は落ち着きを取り戻し始めていた。
かと言って警戒を解いているわけでもなく、騎士と冒険者の間でローテーションが組まれ、巡回と見張りを密にしている。これはダリアとミリスの身元が確認され、ある程度の地位にあるものが巻き込まれた為だ。
日が昇り、辺りが明るくなると狙撃手の手がかりと恐らく撃たれたであろう矢の捜索隊を結成された。
これはミリスが指揮を執ることになり、冒険者手動で行われた。
騎士団は森の捜索と警備の強化、ダリアは護衛と言い張りハヤトが拘束されている天幕の前で控えている。
時間にして正午になろうという時、ミリス率いる捜索隊が黒く塗られた矢が発見された。
毒などは検出されなかったが、森のある方角から撃たれものだと分かり、これによりハヤトが狙われたという証拠となった。
あとは身元さえ分かれば無事釈放と言うわけだ。
「失礼するよ、ハヤトくん。」
「いえ、大丈夫ですよ。隊長さん」
「先程、冒険者の捜索隊より君が狙われたと思われる矢が発見された。現状証拠としては君を解放してもいいのだが、一つ問題があってだな。」
「問題とは?」
「今朝一番に王都へと早馬を出した。君の身元を確認できる人物を出来れば連れてくるためにだ、そしてその者が今戻ってきてな。」
「誰も来れないとかですか?」
「いや、証人は来れるらしい。ハヤトくんは老師に弟子入りしているらしいな、驚いたよ。」
「最近のことですけど」
「そうか、それでその老師が来ても良いと仰って下さったのだが、その護衛にと近衛騎士からも何人か来ることになった。つまり、大事になってしまったということだ。」
「それは……、近衛騎士が王都を離れても大丈夫なんですか?」
「数人だからな、それは問題ない。だが、近衛騎士が王都を離れることは滅多いないのもまた事実だ。済まないが、あと数時間はここで我慢してくれ。」
「あー、あと数時間なら分かりました。その、一つだけいいですか?」
「なんだ?」
「僕のパーティーメンバーをこの天幕に出入りできるようにしてくれますか?話とか聞きたいので。」
「うむ、それなら問題なかろう。私の権限で許可しておく、ではまた後で来る。」
「失礼します、ダリアです。」
「入っても大丈夫だよ。」
「隊長から話は聞きました、まさか近衛騎士が出てくるとは。」
「まぁ、老師も来てくれるみたいだし。そういえばミリスさんは?」
「冒険者組合員として、狙撃手の捜索と捕縛依頼を組合にて発行中だとか。あとは騎士達と今回の狩りをどうするかも話し合っているはずです。」
「なんか、申し訳ないなぁ。」
「こればかりは仕方ありません。異世界人というのは、歓迎されますがその逆も有り得ますから。でもどうかご安心を、命に変えて私がお守りしますので。」
「ありがとう。でも、命はかけなくていいからね。もし僕を守って死んでしまったら、僕は悲しいし耐えられそうにないよ。」
「ありがとうございます。精進します。では、私は表で控えているので後程。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「老師、強行軍で申し訳ない。」
「よいよい、お互い暇ではない身。老体にはちと堪えるが弟子のためじゃ。それにお主こそ、出てきてよかったのかの?」
朝九時頃、早馬にて報告を受け、準備を整え出発する頃には十時頃となっていた。
そこから馬を飛ばし、駐屯地に着くのは十五時くらいになるだろう。
老師は一人で馬に乗れないため、騎手と二人乗りになる。これは老師が魔法で風を散らすことで、馬へと負担を軽減し、他の馬とスピードを合わせることが出来ている。
馬上で老師と話しているのは、近衛騎士団長ヘルメス・エル・アードゥル。
普通であれば護衛として外へ出るのは、仕える女王陛下のみだが今回は異世界人が絡んでいると知って彼自ら出てきた。
これは彼自らの意思でもあるが、女王陛下からの命令でもあった。
「異世界人絡みとあっては、それなりの立場があるものが行かねばなるまい。俺自身、会ってみたいと思うのもあるが。」
「ワシにはそっちの方が本音と聞こえるがの。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハヤトは近衛騎士が到着したと報告を受け、服装を整える。
ダリアとミリスはハヤトの後ろに立つ形になった。
「失礼するよ、老師をお連れした。」
「さすが異世界人と言ったところかのぉ、お師匠様と似て問題事に好かれているようじゃの。」
「老師、わざわざすみません。」
「よいよい、たまには外に出て運動せんとな。」
「うむ、その様子だと身元は大丈夫そうだな。申し遅れた、俺はエルドラ王国近衛騎士団、団長のヘルメス・エル・アードゥルだ。異世界人ハヤト、君と会えてよかったよ。話はドレアス卿からきいているよ。」
「ドールさんと、そうでしたか。異世界人のハヤトです。今は冒険者として活動しています。」
「なるほど、ドレアス卿はいい護衛をつけたようだな。」
「お初にお目にかかります。ドレアス第一騎士団のダリアと申します。」
「いいねぇ、例えどんな相手であっても護衛対象を守ろうとする意思。君がフリーなら我が近衛騎士団にスカウトしたいほどだ。」
「光栄です。しかし、しかし私は」
「あー、大丈夫。君にその意思がないのは充分わかっているよ。」
「申し訳ありません。」
「いいよいいよ。それよりもハヤトくん、少し老師と外の空気を吸ってくるといい。ずっとここにいたのだろう?」
「ふむ、そうじゃの。ハヤト、少し外で話そうぞ。」
「わ、分かりました」
ハヤトは老師に連れられ天幕の外へ出た。
「では君達に話しておかなければならないことがある。まずハヤトくんの事だが、今回暗殺者に狙われたことだが、我々王城の者としては魔導学院へと入学して欲しい。」
「それは、魔導国のと言うことですか?」
「そうだ。だが急に言って聞き入れられるとは思っていないし、学院の方も入学時期が既にすぎている。故に、来年度の入学を目処に動いて欲しい。これは王命でもある、それにあの国であればこの国よりも安全であろう。」
「冒険者組合としては、王命とあらば従います。」
「閣下」
「閣下はやめてくれ、気軽にヘルメスでいい。」
「では、ヘルメス様。私の護衛の任はどうなるのでしょう?」
「それは続けてくれていいよ。彼の補佐として学院へ行ってもいい。さすがに同じ学生としては無理だが、そこはどうにかしよう。騎士団も所属したままで構わない。」
「ありがとうございます。」
「これは女王陛下のお言葉でもあるが、働きに応じて報酬を出すのは当然のことだ。休暇とは言えないが、君も外の国を見て、聞いて、感じ、知るといい。」
「はっ!」
「うん、これであとはハヤトくん自身か。でもまぁ、てんぷれ?らしいし、嫌とは言わないだろうけどね。」




