ドール・ドレアス
書けた分を右から左へ、流しそうめんのように
「…………い、だい……か。おい!しっかりしろ!」
水の中にいるかのような感覚から、急に浮き上がったように意識が戻ってきた。
「ぁ……」
声を出そうに、喉が涸れて声が出ない。
体を動かそうにも、鉛になったように重く僅かに指先を動かせるくらい。
「おぉ……、意識が戻ったか。とりあえず水を飲ませてやる。ゆっくり、少しずつ飲めよ。」
そう言うと、鎧を着た大男は腰に下げた皮の水袋(?)の飲み口を口元に持ってきてくれた。
乾ききった唇、口内、喉へとゆっくり水が流れてき、助かったと実感した。
「よし、飲めたな。今は休め、目が覚める頃には今よりは楽になっているはずだ。」
その言葉を最後に、意識は途切れた。
夢を見ていた。
いつものように自室で目覚め、制服に着替えて、いつものように朝食を食べる。
学校に行こうとして、お母さんにごみ捨てを頼まれる。
カラス避けの網の中にあくびを噛み殺しながらゴミを捨てる。
いつものように……
「……、ここは。」
夢から覚めると、ベットに寝かされていた。
周りはレースのような薄い生地で囲われ、窓からの光を優しく受け止めている。レース越しに部屋を眺めると誰もいないことがわかる。
「そういえば、あの人に助けてもらったのか。」
これからどうするべきか、悩んでいるとコンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。
「は、はい!」
「失礼するよ、そろそろ目が覚める頃だと思ってね、スープを持ってきたよ。」
てっきり、助けてくれた人だと思って返事をしたが、現れた人物は違った。少し戸惑った様子を察したのか、ベッドの傍にある机にスープを置くと、まっすぐ立ち自己紹介を始めた。
「領都ドレアス所属、第1騎士団副団長ユーリス・レルモンド。まぁ簡単な話、君を助けた人の部下だよ。」
「そ、そう……ですか。」
「まぁ、まだ混乱してるだろうしお腹も空いてるだろう?」
言われるまで気付かなかった空腹に、お腹が鳴る。
「団長探してくるから冷めないうちにスープでも飲んで待っててね。その方がまだ話しやすいだろ?」
イタズラが成功したようなしたり顔のユーリスはそう言いながら部屋を出ていった。
グルルルル〜……
正直言って、スープはとてつもなく美味しかった。
空腹は最高のスパイスとはよく言ったものだ。
スープとしては温かったが、今の身体を気遣っての事だと理解出来た。
量的には物足りなかったが、我慢できないほどではないので我慢することにした。
「ユーリスから目覚めたと聞いたぞ!」
ガバッとドアが壊れるんじゃないかという勢いで大男が入ってきた。
「うむ、体調は大丈夫そうだな。どうだ、体は問題なく動かせるか?」
「は、はい。それは問題なさそうです。」
「自己紹介がまだだったな。わしはドール・ドレアス。」
「ドレアス……って、確か領都の名前じゃ……?」
「ん?あー、ユーリスのやつか。まぁ、簡単に言えばドレアス領の領主兼騎士団長よ。貴族の真似事は代官の息子に任せてるからわしに気を使うことは無い。」
「わ、分かりました……。」
「して、坊主の名前は?」
「僕は……、僕の名前は……」
「どうした?」
「す、すみません。どうしても思い出せなくて……。」
「ふむ、わしが見つける前に頭を強く打ったのかもしれんな。まぁよい、そのうち思い出すだろう。」
「すみません。」
「謝るでない、仕方の無いことよ。わしはこのまま坊主と呼んでもいいが、他の者が呼びにくいな。」
大男、もといドール・ドレアスは顎髭を指で撫でながら考え込み出した。
「いい事を思いついたぞ、坊主。どうせ新しい世界、新しい生活だ、自分で名を付ければ良い。」
「は?」
一話一話短くて申し訳ないです。頑張ります