初依頼、魔素の森①
老師と会ってから数日。
遂に冒険者として活動ができる。
王都近くの魔素の森での狩りが行われるに従って冒険者組合に依頼が来たのだ。
この狩りは約一週間行われ、騎士はその間、訓練として魔獣狩りを。
依頼を受けた冒険者は商人に下ろす素材の回収や、討伐証明部位や魔石集めになる。
またこの森では食用の魔獣肉も育ててあるため、依頼の数も種類もそれなりに多い。
魔素の森の依頼を受ける冒険者は自分たちにあったものを選んでいくことになる。この狩りは大体一〜二ヶ月に一度のペースで行われるある意味お祭りのようなものだ。
大通りには狩ってきたばかりの魔獣肉や冒険者向けの個人商店、仕入れに来た商人、任務を終え戻ってくる騎士と客も多く、商売をするものや露店をだすものも多い。
ハヤト達はパーティーとしての初めての依頼(ハヤト自身依頼を受けるのも初)。
王都と近くにある魔素の森とはいえ、徒歩で約半日程の距離はある。
冒険者組合出張所や解体屋も騎士団と共に森が見えるちょっとした丘に陣を置くことになる。
毎回使われる場所なので平時でも見張りとして騎士が駐屯することになっている。
故に小さい村のようになっている。
騎士とそれ以外では野営場所などを分けているので、物好きでなければ問題など起きることはまず無いと言えるだろう。
「こうしてみると野営といっても人の数がすごいね。」
「まぁ、ある意味お祭りだからね。冒険者からすれば稼ぎ時だし、商人とかは仕入れ、娼婦なんかも稼ぎ時って聞くわよ。」
「騎士たちからすれば数年に一度回ってくる野営訓練ですからね。一週間のうち二日は休暇となるので財布の紐も緩くなるのですよ。」
「こんな所で休みもらえればそうなるよね。僕達も早速依頼を見に行こうか。」
冒険者組合の出張所は冒険者たちに割り振られた場所の真ん中にある。
このために王都にくる冒険者も多く、昼時とはいえ出張所は人で溢れ返っていた。
「凄いね……、いつもこんな感じになるの?」
「んー、こうなるのは初日と二日目くらいかな。どんな依頼があるのか確認してるだけだし、物を持ってくればそれで依頼達成になるからね。毎回依頼書受理してたらそれこそ組合がパンクしちゃうから。」
「なるほど、ちゃんと考えられているんですね。」
「さすがにこのままだと気にがないわね、ちょっと職員に聞いてくるわ。」
そう言うとミリスは組合出張所の裏手に消えていった。
「なんかズルしてるみたいだね……。」
「冒険者足るもの、コネも必要になってくる時もありますよ。彼らはそれが無く、我々にはあったと言うだけです。」
「まぁ、ダリアが言うんならそうなんだろうけど。お、帰ってきたみたいだね。」
「お待たせ、今回は特に変わったものは無さそうだし、大体の依頼は覚えてるからその時その時に教えるわね。」
「それじゃあ行こうか!」
駐屯地から丘を降り、歩くこと十分。
森を囲う木の柵の門(簡素なものなので飛び越えようとすれば出来る)まで来ていた。
門には騎士が待機しており、組合書を見せると通してくれた。
「パッと見た感じ、普通の森だね。」
「気をつけてください、中には人や魔獣をも喰らう魔木がいますので。」
「ありがとうダリア、気をつけるよ。」
「この森は管理されてるだけあって、難易度的には中級くらいだから私達がいれば大丈夫よ。とりあえず、魔獣がいる奥へ向かいましょう。」
森に入ることおよそ十分程だろうか、すっかり周りは木だらけになり、道具を持っていなければ戻れないんじゃないかと思える。
「ここ、知らずに迷い込んだら出られる気がしないよ……。」
「魔獣も出ますし、戦いにばかり集中してると慣れていても方位磁針がないと迷いますからね。一度、想定訓練で方位磁針無しで三日間、魔素の森に入ったことがあります。」
「それってドレアス領での事よね?普通の騎士団じゃ有り得ないわね……。」
「仮にも魔素の森から国を護る団だから、これくらいで死ぬようじゃ役たたずとドレアス様が口酸っぱく言ってましたね。」
「やっぱり、ドールさんって凄い人なんだね。」
「でも実際、あの土地を治めながら魔素の森から溢れる魔獣を狩り続けることが出来るのはドレアス様含めても数えるくらいしか居ないからね。実力はもちろん、部下や民をまとめあげることの出来るカリスマ性は最低限必要でしょう。」
「……ん?」
「来ましたね、ハヤト様は魔法の準備を。ミリス」
「分かってるよ、周りは警戒しておくから初戦闘、頑張ってね。」
そう言うと逆手に短剣を構え、木と木の間に姿を隠した。
「それでは行きましょう。」
ダリアはアーミングソードと言う片手で扱える剣と、腕に装着された円形の盾を構え、魔獣がいるであろう方向へと歩き出す。
ハヤトはその後ろに続き、内魔力を練りいつでも魔法を発現できるように備える。
「っ!気付かれたかも。」
「正解です、恐らくイノシシでしょう。まずは私が突進を受け流してどこかの木にぶつけるので、怯んでる隙に魔法で仕留めてください。」
「よろしく頼むよ。」
数秒もしないうちに、鼻をひくつかせたイノシシの魔獣が現れた。通常のイノシシより大きく、牙も突き出ている。眼は紅く染まっていて、見るからにやばいとわかる見た目をしている。
「これは食用なんだよね……」
「行きますよ!」
魔獣がこちらを真っ直ぐに見すえ、急加速し突進してくる。
よく見れば魔獣は魔法を使っており、それによってスピードが上がっているとわかる。
魔獣はそのままダリアを盾ごと押し潰そうとするが、ダリアは半身で躱し、盾でいなす。
魔獣はスピードが早いがために泊まることが出来ず、近くにあった気に頭からぶつかる。
ドン!とぶつかる音と共に、バキベキと木がへし折れる音がする。
「っまじかよ!」
ハヤトは驚きながらも練り上げた内魔力を一点に集中して解き放ち、外魔力に干渉させる。
起こり得る現象は指先程もない細さの水の線。
それが真っ直ぐに魔獣の頭の真ん中を後ろから狙い撃つ。
「《水よ、その者を貫け!》」
まさにレーザーのように射出された水はなんの抵抗もないかのように魔獣の頭を貫き、穴を開けた。
魔獣が頭から木にぶつかり、怯んだ一瞬とはいえ見事な一撃と言える。
「お見事です、脳天を貫くとは。」
「ふぅ……。火を使えたら楽だったんだけど、確か食用でしょ?なるべく傷をつけない魔法はこれくらいしか思いつかなかったんだ。」
「これくらいの穴なら、むしろ剥製とかの方が高く売れるかもね。やるじゃんハヤトくん。」
「戻ってたんですね、ミリスさん。」
「周りに魔獣の気配しなかったし、早めに戻ってきたんだよ。それにしても、このサイズは一度戻らないと行けないね。」
ハヤトの冒険者としての初戦闘は見事な一撃で幕を閉じた。




