魔道具士アイリーン
冒険者をするために必要なものを揃えるために、ハヤト達三人は組合が並んでいる大通りにある道具屋『魔道具屋アイリーン』に来ていた。
「ここの店主のアイリーンさんは元冒険者で帝国出身なのよ。だから結構幅広く商品を取り扱ってるわよ。」
「帝国出身?」
「えぇ、王国と帝国が仲悪いのは知ってるわよね?」
「はい、それくらいなら。」
「でも、冒険者は国際的な組織だからそこに蟠りはないの。それで帝国は冒険者の仕事がかなり多いから冒険者も集まるってこと。しかもこの国では騎士がやってる魔獣退治は全て冒険者任せだからより実用的な道具や武器の開発が盛んなのよ。」
「なるほど、でもこの国ではそこまで必要では無いんでしょ?」
「まあぶっちゃけそうだけど、冒険者足るもの準備しておいて損はないわ。いつ依頼でこの国を出ることになるかもわからないしね。」
「でも、僕達は揃えれるだけのお金は多分持ってないですよ?」
「あー、まだこっちに来てばっかりだったね。それはこっちが何とかするわ。」
「え?良いんですか?」
「まぁ、これから受ける依頼料の中から分割で返してもらうけど。」
「ああ、それなら安心ですね。正直、異世界に来て借金って言うのは……ね?」
「ふふふ、まぁそれもそうね。文化が違うと何されるかわからないし。でも、そこは大丈夫よ?冒険者組合が詐欺まがいの犯罪を犯す訳ないし、さすがにそこまで落ちぶれちゃいないからね。」
「僕は信用してますよ?」
「お?このミリスお姉さんに惚れちゃったのかな?」
「いえ、ダリアの友人なので……。」
「うっ!そんな即答で否定しなくてもいいじゃない……。これでも結構組合ではモテモテなのよ?」
「ミリスは昔から、男を見る目が厳しいですからね。最低条件が自分より強いなんて、組合長くらいしかいないんじゃないですか?」
「その話はほんとにやめて、組合で噂になって収拾つかないんだから……。そんなことよりさっさと買うわよ。」
「そういえばこの店、店員誰もいないですね。」
三人が店に来てしばらく話していても店には誰もいない。
中にはいるのかもしれないが表には誰も出てくる気配すらない。
正直、盗まれたりしないのか不満だ。
「大丈夫よ、原理は分からないけど監視の魔法具を自作しているらしいから盗もう者ならタダじゃ済まないよ。ハヤトくんも気をつけてね?」
「そんな事しないですよ!それにしても、監視カメラがあるのか。」
「監視カメラですか?聞かない名前ですね。」
「僕の世界では街中にあったりするよ。監視の魔法具と同じものだと思うけど、一度設置したら自動で動くから。」
「自動って魔法具より凄いじゃん。」
「魔法も化学も根本的には同じようなものですからね。物理法則に忠実なのか、介入出来るのかの違いじゃないですかね。」
「なんだか難しい話しね。とりあえずこれとこれとこれを買っておけばいいわよ。」
話しながら物色していたミリスは三つの道具を選びハヤトに渡していく。
「これは?」
「この金属の棒みたいなのがマルチツールって言う魔道具ね。この少し色の違う所を持って魔力を流すと形が変わるわ。スコップ、シャベル、ツルハシ、斧、ハンマー、解体用ナイフかな。あとはオーダーメイドすれば別の形態にも対応してくれるわ。野営や採取、解体はこの棒ひとつで解決できるから冒険者の必須アイテムと言っても過言じゃないわ。
それでこの革の箱みたいなのが野営用のテントね。魔力を直接流し込むか魔石をセットすることでサイズをある程度は変えれるわ。これは一番安いヤツでカエル型の魔獣の皮を使ってるやつね。追加オプションでちょっとした結界もつけてくれるわ。
それで最後の金属の箱がサバイバルキットよ。使い方はその時に教えるわね。
まぁ、ここで買う道具はこんなもんかしら。とりあえず最低限揃えれば問題はないでしょ。」
サクッと選んだ道具の説明をし終えたミリスはカウンターに置かれているベルを数度鳴らした。
しかし、音はせず不思議に思ったがミリスとダリアは特に思うものはないらしい。
聞くところによるとこのベルは魔道具で、対となるベルの音が鳴る仕組みになっているらしい。
しばらくするとカウンターの奥の扉から、如何にも魔女という格好に白衣をきた妙齢の女性が出てきた。
「あらミリスちゃんじゃない。どうしたの?」
「アイリーンさんお久しぶりです。今日はパーティーを組むことになったハヤトくんの為に道具を揃えようかと思いまして。」
アイリーンはじっとハヤトの方を数秒見つめると興味を無くしたようにミリスに向き直る。
「まぁわかったわ。その子が手に持ってるのでいいのよね?」
「はい、あの三つをお願いします。」
「じゃあ、特別に8シルバーにしといてあげるわ。その代わり試作品の感想を聞かせてもらえる?」
「ハヤトくんどうする?正直8シルバーは安くなってるけど。」
「はい、分かりました。試作品を使って感想を言えばいいんですよね?」
「へぇ……、まぁ坊やがいいならお願いしようかしら。」
「アイリーンさん、まさか危険なものでは無いでしょうね?」
「え!?」
「大丈夫よ、死にはいないから。ちょっとキツい光と爆音を一瞬発現させるだけだから。ちなみに使い方は両側にある出っ張りを中に押し込むようにして指を話さないまま相手の方へ投げる。この球体自体が光ったりするから多少外しても問題ないはずよ。でも、後ろとかに投げちゃうと意味ないからね。出来れば盗賊や魔物の顔面近くに投げること。指を話したら大体三秒後に炸裂するようになってるから、投げたら目と耳を覆う事ね。でなきゃ自分にも被害出るから、あとはよく考えて使う事ね。感想は、使う機会が来た時でいいから。」
「なるほど……。」
「え?ハヤトくん、今のでわかったの?」
「え?うん。僕のいた世界にも似たようなものあったからね。」
「ほぉ……、坊やは異世界の人か。どうだ?今から魔道具について話でも?」
「駄目駄目駄目!アイリーンさん魔道具の話すると止まらなくなるじゃない!この後も武具買いに行かなきゃ行けないからまた今度!ね?はい!8シルバー!それじゃあまた!」
研究対象をやっと見つけたかのような表情を見せるアイリーンにやばいと思ったミリスは強引に支払いを済まし、二人の手を引っ張り店から逃げ出す。
「あ、あの!あれで良かったんですか?」
「いいの!あの人の言う通りにしてたら何日過ぎるか分からないわよ?ちゃんとお金も払ったんだしあれでいいのよ。ハヤトくんも気をつけてね?あれは飢えた獣が獲物を見つけた時の目よ……。」
遅くなり申し訳ありませんでした。
本当は武具の話まで終わらせるはずだったのですが、時間と時間が時間なので区切りました。
アイリーンさんを妙齢と書きましたが、見た目は20代後半くらい。年齢自称26歳。実年齢の話をするとどこからともなく魔道具が飛んでくるそうです。