1-1 プロローグ
私の名前はハル。記憶はまだ戻りません。川辺に素っ裸で倒れていたところを今の居候先の奥さんに助けられたようです。私は目覚めてから今まで「ここは異世界だ」とぼんやり感じています。
この世界で最初に目を覚ました時に、見えるものや空気のにおいから私はここが知らない場所じゃないかと感じ、私が身動きした音が聞こえたのか、部屋に入ってきた女の人が「気が付いた?」と知らない言語で話したのに内容を理解できて、その不思議さにぞっとしました。
「ここ、どこですか?」
「アクルー川のほとりよ。大山脈の西側で北西に行けば首都ね。わかる?」
ちなみにこの人が私を拾ってくれた奥さんだったんですけど、奥さんとのやり取りで私がたぶん普通の人たちには常識のはずの言葉に反応しなかったので、お互いに私の記憶がなさそうだという結論を出しました。
「貴女を助けたのはね、もちろん私たちの信仰によるものも大きいんだけど、それ以上に女の子を放置できなかったからなのよ」
やっと平和をもたらしていただけたのだからね、と言って、奥さんは茶色のどろどろした液体を私に食べさせてくれました。あら甘い。
「こうして合流したのだし、記憶が溶け出してくるまで一緒にいましょうよ」
本気でそう思っているのだと伝わって、私はお邪魔することに決めました。