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おっさんエルフの逆異世界生活(仮)  作者: ジェイス・カサブランカ
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第三話 大賢者と憲兵

「店の外まで一緒に来てくれますか? こちらです、こちら」


 と、店に入って来た二人組の男の片方が、私を手招きして店の外へとついて来いと言ってきた。


 結局、私はそれに従い商品の購入する事を断念し、店に現れた揃いの衣服を着こんだ者達に店舗の外へと誘導される運びとなった。


「ええと、お話を少々お聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」


 と、私を店の外へと連れ出した男は尋ねてきた。


 見た所、この男は体格も良く、店の中に残り店主と話をしているもう一人の者と揃いの衣装を着こんでいる事からも、この区画か街の憲兵的な役割の者だと推測できる。


 店の外には、この男が乗って来たと思われる白と黒の二色に塗装された、あの複数人乗りの自走型魔道具があり、屋根には赤いクリスタルか何かで出来た高級そうな飾りが載っていた。


 ふむ……支給されている制服と言い、この自走型魔道具と言い、さすがは貴族たちが住まう地区を守る憲兵だ。

 だが、いかんせん、その体から発せられている魔力も気も貧弱であり、体格は良いのだが少々頼りなく私には感じられた。


「構わぬが、私に何用かな?」


「あ、日本語でお答えできるんですね。

 えーと、この辺で不審な行動をとっている者が居るという通報がありましてね、それで巡回をしていたのですが。

 あなたと、その通報で報告された者と容姿が似ておりまして、それでお声を掛けさせてもらいました」


 と、その憲兵は答えた。


 ふむ、通報……もしや、あの手紙の配達人がしたのか?

 あの配達人が取り出した小型の箱が、何かしらの憲兵への連絡用の魔道具だったのだとしたら、その可能性が高いな。

 それにしても私は不審な行動などしただろうか……?


「とりあえずパスポートかなにか――っ!?」


 その憲兵は説明をしながら私の服装を見回していると、何かに気が付いたのか息をのみ、少し慌てた様子で店の中で店主と話していた相棒らしき者をジェスチャーで呼び寄せた。


 彼の視線から察するに、私の腰のベルトに差してある『風刃雷鞭のダガー』が、相当な力を保持する魔道具だと気が付いたらしい。


 ふむ……憲兵にしては練度が低いな。


 私はその他にも色々と強力な魔道具を身に着けているのだが、この憲兵は一見して武器と認識するダガーだけを危険視した様だ。


 制服の小綺麗さや自走式の魔道具の高級さからして、この者も貴族に連なる者で、そのコネか何かで入隊したとかなのだろう。

 言葉遣いが粗野でない事からも、それを裏付けている。

 貴族の三男とか、その辺りか?


「おい?どうした杉林? 

 なんかこいつ、店で金塊か何かをジャラジャラだしたらしいぞ。

 盗んでたのは下着だけじゃ――」


「太田、あれっ! 腰のっ!

 あっ、えーと……すみませんが、その腰にある物を見せて……

 いえ、渡していただけます? それ刃物ですよね?

 ちょっとぉ、その大きさになると、違法になるんですよぉ」


 と、店の中から出て来たオオタという名らしい相棒にジェスチャーで何かを伝えたスギバヤシという憲兵は、言葉は丁寧だが緊張気味に私にダガーを渡せと要求してきた。


 しまったな……


 こんな貴族達が住まう区画で武器を持ち歩くのは法に触れる行為である可能性が高いというのに、それを失念していた……

 周囲に立ち並ぶ家々の防犯措置が低いのも、この街の法と憲兵が厳しく犯罪を律しているからなのだろう。


「すまない。よそから来たので、この辺りでは武器を持ち歩くのが法に反すると知らなかったのだ。

 以後このような事が無いように気を付けるので、許しては貰えまいか?」


 と、私は彼等に答えながら頭を巡らせる。


 おそらく私の要求は通らないだろう。

 彼等は職務に忠実である様だし、私が彼等の立場でも見逃す事はしない。

 それにダガーを渡しても無罪放免とならない可能性が高い。

 彼等は私を武装解除させてから、詰所か何処かへ連行し取り調べを行うはずだ。


 そこまでは良いのだが、その取り調の際に拘束される時間が問題となる。


 私は街壁などを正規の手順を踏んで通過していない上に、この世界で通用すると思われる身分を表す物を持ち合わせていない。

 その事からも、取り調べが数時間程度で済むとは思えない。


「いえ、そう言う訳にもいかないんです。

 大人しく、それを渡してくれませんか?」


「変な格好してやがるしなぁ……そのマントって言うのか?

 それをめくって腰の後ろとかにも隠し持って無いか見せてくれないか?」


 と、やはり憲兵の二人は私の予想した対応をしてきた。


 さて、どうしたものか。

 これがゴロツキの類なら、脅して引かせることも可能なのだが――


 ――逃げるしか無いか。


 さすがに、市民や治安を守る為に勤勉に働いている彼等に、手傷を負わせる訳にもいかん。


 しかし、オオタという憲兵め。私が変な格好とは失礼な。

 私の身に着けている物は、どれもエルフとドワーフの熟練の匠による物で、質、デザイン供に洗練された物だというだけではなく、どれもが一級品の魔道具だというのに。

 まぁ、それはいいか……


「すまぬが、私はそれほど時間に余裕があるわけでは無いのだ。

 以後気を付けるので、こにて失礼させてもらう」


 私は彼等にそう答えると、スッと一歩離れてから身を翻し駆け出した。


「あっ!? まて下着ドロボー!!」


 と、憲兵たちは声を荒げ追いかけて来るが、大賢者にして一流の冒険者たる私の脚について来られるはずも無い。


 私は道の先にあった角を曲がると、直ぐ側にあった町中に乱立する柱の上へと飛んだ。


「ど、どこ行った、あの金髪下着ドロボーは!?」


「近くの塀の裏とか物陰を探すんだ。俺は無線連絡してくる!」


 私が柱の天辺に着地すると、案の定、憲兵達は私を見失い右往左往し始める。


 まぁ、街中でしか活動しない者は頭上への注意が散漫になりやすいものだが、この憲兵達も御多分に漏れず、貴族の出自なせいか経験が浅いようだ。


 それにしても、私が下着泥棒だと?


 私は下着なんぞ盗んで――……あ。


 そう言えば、あの貴族令嬢のを持って来てしまっていたな……

 あの配達員は、道端で私が彼女の下着を広げていたのを見て、憲兵に連絡を入れたのか。


 ぐっ……ファナエレムローイの名を冠する私が、手違いとは言え、下着泥棒などという不名誉極まりない謗りを受ける事になろうとは……とんだ失態だ。

 

 しかし、これからどうしたものか。


 スギバヤシが口にしたムセン連絡という言葉からすると、何かしらの方法で応援を呼びに行ったに違いない。

 それに、そろそろ夜が明けそうだ。


 熟練の憲兵が押し寄せようものなら、面倒な事になるな。

 なんとかして身を隠すか誤魔化さねば……


 姿を透明化させるかとも考えたのだが、あの魔術は街中で使うのは違法の可能性が高い。

 ああいった隠密系の術は、街中で使う場合はその街や国の司法の許可が無ければ、バレた時点で重犯罪となるのが普通だからだ。


 であれば、ギリギリ許容される変装などの手段が考えられるが、姿を変えるなどの魔術を私は持ち合わせていない。

 あんな物は詐欺師やペテン師のような者が使う魔術であり、大賢者たる私が覚えるべき魔術では無いからだ。

 ……今度、術式書を読んで覚えておこう。


 とりあえず、何か魔道具で代用できる物か、せめて衣装だけでも変えておこうと考え、私が次元収納の中の物を漁っていると一つの指輪が目に留まった。


 ふむ……これを使えば何とかなる……か?


 おあつらえ向きに、近くの家屋のベランダに必要そうな物もあるな……



 暫くして、朝日が昇り町全体が明るくなった頃には、近辺に憲兵の駆る白と黒の自走式魔道具が数台集まり、周辺に十人近くの憲兵達が巡回し始めた。


「おはよう。早起きとは偉いね。散歩中かい?」


 と、近くに居た憲兵のスギバヤシが私に話しかけて来た。


「ええ。そうです」


「君、この辺で変な人を見なかったかい?

 背丈はこれくらいで、君と同じ髪色をしているんだけど」


 と、彼は自身の頭より少し上に手を持って行き、私に尋ねる。

 どうやら、私の変装には気が付いていないらしい。


「いえ、見ていませんね。先程、起きて家を出たばかりですので」


「そうか。まぁ、見ていないならいいんだけど……

 君と顔も似ている気がするな……君、名前は?」


「……ヨシュアです」


「ヨシオ君と言うのか。

 日本人っぽい名前だけど……ああ、いや、それはどうでも良いんだ。

 君、もしかしてお兄さんとか居るかい?」


「……姉上なら居りますが。兄はいませんね」


 と、スギバヤシは質問を続けてきて、顔が似ているというフレーズに一瞬ドキッとしたが、私は落ち着いて答えを返す。


 無いとは思うが、時折、憲兵などでも嘘を見抜く魔道具を持っている事が有るので、嘘をつかないで本当の事を言いながらはぐらかす事が必要なのだ。

 ……と知り合いの盗賊が言っていた。


「ああ、そう……君、ずいぶんと大人びた話し方をするねぇ……

 とりあえず、変質者がこの辺をうろついているかもしれないから、なるべく早くお家に戻りなさい」

 

「分かりました。御忠告感謝します」


「あ、ああ。それじゃ気を付けてね。

 何かあったら、大声で叫ぶかしなさい。

 そうすれば近くを巡回している者が駆けつけるから」


「はい。憲兵さんもお仕事頑張ってください。それでは」


「……けんぺい?」


 と、私がその場を去ると、後ろからスギバヤシの呟きが聞こえた。



 今の私は10歳前後の少年の姿をしている。


 これは魔道具の『変幻齢の指輪』の効果で、少年時代の姿へと体を変化させているからだ。

 耳は気合を入れて髪に隠しているので、一見してエルフとは分からないだろう。


 子供用の衣類は持ち合わせが無かったのだが、柱の上に立っている時に近くの家のベランダに干されていた物を見つけ、それを拝借して着替えた。

 家主に宛てて御子息の衣類を借り受ける事を一筆したためた文を残し、無事に返却できるかが不透明なので、十分な代金と慰謝料として金貨1000枚ほどを置いてきた。


 取り敢えずこの姿なら、当面は怪しまれずに行動できるに違いない。


 さて、何処に向かうか……


 柱の上から街を見回した時に、色々と気になる建物や建造物が見えたしな。

 迷宮やダンジョンとは、また違った冒険になりそうだ。

もしかしたら、後ほどタイトルを変更するかもしれないので(仮)と付ける事にしました。


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