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おっさんエルフの逆異世界生活(仮)  作者: ジェイス・カサブランカ
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第二話 大賢者と高級商店

「ふむ……これは……」


 私が一族から疎外されていると思われる令嬢の家を出ると、そこは長屋らしき建物の二階のベランダのようなエントランスであった。


 見た所、建材は石材の一種である様だ。

 材質的にも固く、内部には金属製の柱や合材で補強までなされている。


 良い建材で構造的にも頑丈そうなのだが、しかし建物の作りとしては裕福でない者達が住まう二階建ての長屋風である。

 エントランスから見える他の建物も似た様な材質で作られており、この異界では一般的な建材なのかもしれないな。


 それにしても、長い年月を経ているのか材質に魔力の残滓が見られない。

 構造的にはしっかりと規格を決めて作られている様子なのだが、どうやってこの石材の魔術生成を行っているのだろうか?


 まぁ、細かい調査は後にしよう。先ずは、周辺の探索だ。

 人の住まう場所と言う事は魔物などの襲来は少ないだろうが、治安やその他の危険が無いとも限らんしな。


 その前に、この令嬢の住む家に防護措置を施しておかねば。

 令嬢の身が心配だというのもあるが、私の異界門が隠してあるのだ。

 盗賊や魔術師なのどの進入を防ぐ措置は必要であろう。


「『ハウスオブプロテクト・キー・ヨシュア・家主』」


 私は、あの令嬢が認識する住まいの範囲を、魔術で侵入できる者を限定する不可視の防護結界で覆った。

 これで、この令嬢の家に入る事が出来るのは、私と令嬢の二人と入る事を許可した者だけになる。


 まぁ、術士として力量や技術が上の者からすれば内部に侵入する事も可能だが、エルフにして大賢者たる私の魔術を破れる物はそうは居ないだろう。


「これで活動の拠点……には出来ないか。

 妙齢の女性の住処を活動拠点にする訳にもいくまい。

 まぁ、異界門の防護は出来たので良しとしよう」


 私はそう考えエントランスから身をひるがえし、一階の地面へと着地した。


 着地した先は一枚岩から削り出したかのような石の地面であった。

 建物に使う建材と同様に魔術成形された石材らしい。

 継ぎ目が一切見られない滑らかで堅牢な土台だ。


 それと、長屋の塀で囲まれた敷地内には妙な魔道具がいくつも見られた。


 おそらく一人乗りの移動用の魔道具であろう。

 細い金属の骨組みに車輪が二つ付いていており、上に乗る為の座席らしきものとハンドルがある。足を乗せる鐙もあるな。

 魔石が付いていないという事は、乗る者の魔力を直接用意るタイプのようだ。

 長屋に何台も有るという事はさして高価な物ではなく、どれも色や形状に差異が有るが機能的には同じ物なのだろう。


 向こうに見える金属とガラスの外装に覆われた物は、複数で乗る魔道具だな。

 内部に複数の座席が見えるし、牽引する動物や魔物を繋ぐ機構が見られない事からも、自走式の魔道具だという事が分かる。


 しかし、こんな高価な魔道具がいくつも無防備に置いてあるという事は、ここは貧困層の住まう地区ではないのかもしれん。

 そして治安も良いらしい事が分かる。


 私がこの世界の考察をしつつ長屋の敷地の外へと出ると、なんと敷地の外の地面も石畳の一種だった。


「なんだこの道路は?」


 細かな砂利が敷き詰めてあるだけだというのに、頑丈に固着してあるだと?

 まるで、超重量級のゴーレムで踏み固めたみたいな固さをしている……

 この道路であれば、あの自走式の魔道具も車輪が滑らずにスムーズに走る事が出来るな。


 ここまで道路が整備されているとなると、ここは大都市部の一区画なのかもしれない。

 家々に魔術的な防護措置がなされてない点は不思議ではあるが、もしかしたら貴族達が住まう地域なのか?


 それに、あの道の等間隔に立ち並ぶ妙な柱に取り付けられている光の魔道具も、かなりの明るさを持つ高級品のようだ。

 柱の間を何かのロープで繋いでおり、それが周辺に立ち並ぶ家々にも繋がっているのが何故なのかは謎だが……

 

「む? なんだこの音は?」


 私が周囲を見渡しながら道を歩いていると、前方から妙な音が聞こえて来た。


 人の発する音ではない、ブオーーと言った感じの気体が勢いよく噴射しているかのような音と、たまに金属がぶつかり合うガシャンといった音が断続的に聞こえてくる。

 私はその音がこちらに向かって来ているのを耳で捕らえ身構えた。


 なかなかに移動速度は速い、既に少し先の道を曲って数十mほどの距離まで来ている。

 魔力や気は感じない。だというのに、この移動速度は異常だ。


 急な接近戦になるかもしれないと感じた私は、腰に差してあるダガーの柄に指を這わせた。

 これは只のダガーではない『風刃雷鞭のダガー』という魔道具である。

 私の持つ膨大な魔力を使い、自在に風の刃を飛ばし、稲妻の鞭を伸ばして攻撃できる優れ物だ。

 全力で振えば、数百の風の刃が相手に殺到し、数十本の雷の鞭が私を中心に荒れ狂い敵を寄せ付けない強固な結界となる。


 あの角を曲がってくるまで、あと数秒……


 私が少し緊張しながら道の先にある曲がり角を見つめていると、その角を曲がり音の正体が姿を現した。


「……む? 人が乗っている……?」


 どうやら、音の正体は魔道具の乗り物の音であったらしい。


 その魔道具は乗っている者の操作で機敏に動き、家々の前で止まり、乗っている者が何かの紙の束を家のポストらしき物へと投函していた。


「手紙の配達を、こんな夜明け前にしているのか?」


 まぁ、貴族の住む地域であれば、さもありなんと言った所か。


 しかし、あの手紙を配達する者の駆る魔道具……


 長屋にも似た様な物が有ったが、動く姿を見るのは始めてだ。

 一切魔力を外に漏らさずに動いているというのに、あの速度を難なく出すとは……神代の魔道具に匹敵するほどに魔導効率が良いのだろう。

 あんな物が一般的に使われているのだとすると、この世界はよほどの魔導技術を要している様だ。


 私は初めて、この世界に畏怖を感じ手を口元にあて考え込んだ。

 その時、私の口元に妙な感触がした事に気が付いた。


「ん? これは……」


 私の手に引っかかっていた物に目を向けると、それは令嬢の部屋で手に取った小さな衣類であった事に気が付いた。

 どうやらあの時、令嬢の声に驚いて取り落とし、腰に差す風刃雷鞭のダガーの柄に引っかかっていたらしい。

 薄く軽いシルクで作られた物だったので、手を覆う魔獣の丈夫な革で拵えたグローブ越しでは、柄を握った時の感触に気が付いていなかった。


「しまったな……」


 と、目の前で広げてみると、それは婦女子が下着として身に着ける物だと気が付いた。


 独身とはいえ、私とて齢300を超えるエルフだ。

 こういった物への知識は持ち合わせているし、悪気が無かったにしても、こんな物を持って来てしまった事は痛恨の極みである。


 これが無くなっている事に、あの令嬢が気が付かなければいいが……

 ただでさえ、あのような所に一人で住まわされているのだ。

 部屋に泥棒が侵入しているかもしれないなどと思い込んでは、不安で眠る事も出来なくなるであろう。


 うーむ……


 今日一日探索をしてから、令嬢が寝静まった夜にでも返しに行くのが得策か。

 まぁ、あの部屋の散らかり具合なら、気が付かれる可能性も引くかろう。


 そう考え、手に持っていた下着を時空収納の魔法で収納すると、あの手紙を配達していた者が私の横を通り過ぎ、少し進んだ所で止まった。


 なにやら、私の方をじっと見て四角い何かを取出しそれを耳にあてている。


「――そうです。〇〇番地の……所です。長い金髪の……な恰好の男です。

 はい……わかりました。はい――」


 と、その者は何かを話し始めた。


 ふむ? あの小箱からも微かに声が聞こえるな。

 移動用の魔道具の発する音にかき消されて小箱の声までは聞こえないが、あの小箱を通して誰かと会話をしている様だ。

 あれも何かの魔道具だろうか――


 ――まて、あの者の話す言葉が、なんとなくだが分かるだと!?


 幾つか不明な単語はあるが、私の住む世界の言葉とそれほどの違いは無い様だ。

 異界門が繋がった先は、もしかして私の住む世界のどこかだったのか?


 いや、それはない。

 接続実験での魔導座標でもそれは確認している。


 多少の時間軸のずれは起きたとしても、場所的には時空をかけ離れた場所に繋がっていたはずだ……


 もしや……この世界も主神が作り上げた世界なのか?


 そうであれば納得できる。

 我々の世界での言語は、元は主神が教え伝えられた物らしいからな。


「うーむ……まぁ、その辺は調べれば分かるやもしれん」


 言語が同じなら、文字も解読し易いはずだ。

 令嬢の部屋にも本が幾冊も見受けられたし、何かしらの記録がなされた本も何処かに有るだろう。

 となると、調査に時間が掛かるかもしれんな……

 どこかに拠点を築くか、宿を探した方が良いかもしれん。


 私が今後の方針を考え込みながら道路を歩いていると、少し先に煌々とした明かりが灯る平屋の建物が見えた。

 興味を惹かれその建物に近寄ると、そこは何かの店舗のようだった。

 店の前面の殆どがガラス張りで、店内には様々な商品らしき物が並んでいる。


 こんな夜明けからやっているというのも珍しいが、光の魔道具で店内を真昼の様に照らし、ガラスで外から店内を一望できる構造の方が驚きだ。

 こんな豪華な店は神聖都市でしか見た事が無い。

 建物の大きさからして個人商店らしき事は分かるが、よほどの大店であろう。


 品揃えも多岐にわたる様だ。

 用途は分からないが、妙な箱や包装のなされた品々が棚に並び、本と思われる物まである。


 私が中を覗きながら店舗の前を歩いていると、突然、店の前のガラスが横にスライドして開いた。


「むっ……? これは自動で開く扉の魔道具か?」


 なかなかお目に掛かれない代物だ。

 神聖都市や神代からあるという建物で、時折見掛ける事がある。

 こんな物まで備え付けてあるとは、店内にいる冴えない人族の男は余程の大商人に違いない。

 いや、この貴族の住まう区画で商売しているのだ、それも当然か。


「いらっしゃいませー」


 と、私が店内へと入ると棚の向こう側に居た店主が声を掛けて来た。


「うむ。少し品を見せてもらうが良いか?」


「え? ええ、どうぞ……?」


 と、私が話しかけると店主は少し戸惑った感じで答えて来た。


 やはり言葉が通じる……か。


 店主が戸惑ったのは、私の言葉が変だったからというよりは、エルフを見掛ける事が少ないからだろう。

 私の姿を物珍しそうに見ている感じがしたしな。

 純粋なエルフ種は数が少ないし、今のところ人族しか見かけていない事からも、この辺では他の種族が珍しい事が窺える。


 それよりも、本や店内に散見される文字の方だ。


 幾つか解読できる文字も有るが、線が妙に多い文字があるな……

 これは、神代文字かもしれん。


 たしか神に連なる者が時折使用していたという文字が、こんな形をしていた気がする。

 ダンジョンで見つかる魔道具に込められた術式にも使われている場合があるな。


 それにしても、この本の装丁に使われている染料の素晴らしさ、それに人の姿の生き写しともとれる精緻な絵は凄いな。

 いったい、どれ程の手間暇をかけて、これらの本は製本されているのだろう?

 本だけではない、至る所に並べられている商品の包装にも同じような技術が使われている様子だ。


 それに店舗の中の空気も、外の少し冷える気温とは違い快適な温度に感じる。

 店主からは魔力を感じないし、何かしらの気温調整の魔道具の働きによる物だろう。


 ガラスで覆われた棚の中には金属やガラスの容器に入れられた様々な飲み物と思われる物が並んでいるし、棚の一部にはパンや生鮮食品までもがある。


 貴族の生活に必要な物の殆どが、この店舗の中に詰まっていると言ってよい品揃えだ。

 いったいどれほどの資金をかけて、この商品や店を作り上げたというのか……

 下手をすれば小国の城なんかよりも、この店舗一軒の方が高額かもしれん。


 とはいえ、大賢者たる私からすれば、この店舗を買い上げる資金くらいなら持ち合わせがある。

 とりあえず、用途が不明な物を幾つか購入して行こう。

 金は大量にあるし問題ないだろう。


 私は様々な品が並ぶ棚の間を練り歩き、数冊の本と鮮やかな梱包のなされている品を手に取った。


「店主。これをくれ」


「は、はい」


 私はそう言い、店主の居る棚の前に棚から持ってきた商品を差し出しと、店主は返事をし、品を一つ一つ手に取り妙な形状の魔道具を使い調べ始める。


「……1856円になります」


「エン……? これで足りるか?」


 私は、とりあえず金貨で50枚ほど出してみた。


「え、いや、その……ちょっと、外国のお金は使えないのですが……」


「ふむ? そうなのか?

 すまんが、ここいらの貨幣は持ち合わせが無くてな。

 これは貨幣の形をしてはいるが一応は純金だ。

 両替商に持って行くか、鋳つぶせば、それなりの価値を持つと思うのだが、使えぬだろうか?

 それともミスリルやアダマンタイト貨の方が良いか?」


「え!? き、金ですか? いやでも……

 その、うちは両替とかも行っていないので、すみません。

 クレジットカードの類でなら――」


「あのー、そこのお兄さん。ちょっと宜しいですかー?」


 と、私が店員と問答をしていると、店の外から入って来た二人組の者が私へと声を掛けて来た。

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