アナログワールドの絆と愛。
チッチッチッチッチッ……
ジリリリリリリーーーーーン)))))
ふわぁああーーっ))))
寝過ごしたか?!
布団を蹴飛ばし、丸いベルが二個ついた大きなアナログ目覚まし時計に手を伸ばす。
一度、大きく背伸びをしたあと窓の引き戸を開けて朝日を浴びる。
二階の窓から山の稜線に眼をを移すと、調度、太陽が顔を出した。
チリチリチリン……
通り掛かった近所の坊主が手を上げて挨拶をした。
おっちゃん!
おはよー!
中学生だろうか丸坊主頭が青光している。
おう!
おはよーう!!
余所見して転ぶなよ!
牛乳配達アルバイトの帰りだろうか……
自分の若い頃の姿に少年が重なる。
部屋に戻り鏡の前で髪にポマードをタップリと塗り七三に分けして急いで着替える。
黒渕のメガネに縞柄の太いネクタイ。
階段を降りて食卓に出ると、よく働く妻が朝早くから朝食の支度をして味噌汁と魚とご飯が据えられていた。
いただきます…いつもありがとう。
台所に立つ妻の背中に感謝の言葉を掛ける。
少しこちらを振り向き笑顔を見せる私の最愛の配偶者。
彼女がアイロンを掛けた折り目のついたスーツからは芳しい匂いが漂う。
山高帽子と鞄を手に玄関まで見送る私を妻。
ピカピカに磨かれた革靴に靴べらを
滑らせる。
雅かで品のあり、慎ましい着物姿の彼女は、まさに私の宝物。
鞄と山高帽子を受け取り妻に笑顔で挨拶をする。
行ってくるよ。
カチッカチッ……
出掛けに火打ち石で私を見送る彼女。
はよう……おかえりなさいませ。
玄関先まえの人力車に乗り込み、妻に手を上げて応える。
ここは、テレビもラジオも携帯スマホもパソコンもない世界……
しかし、人にとって最も大切な物が確かにある。
人と人の心からの繋がり
暖かな愛情。