民度、道徳、常識、ってなに?不謹慎ってなに?
三角帽子が特徴的な喫茶店。1日の営業を終わらせ帰り支度を始める。
更衣室で着替えるアメリーは昨日のことを思いだし肩を震わせていた。そんなアメリーにヨークは声をかけ飲みに誘う。
「皆同じじゃん。どこもやってること同じじゃん。何をしてても何をやってても不謹慎だとか迷惑だとか、皆それぞれ精一杯生きようとしてるだけなのに。なのに何?私が得れないから?俺は我慢してるから?うちは大丈夫?よそはおかしい?あれはこれだからこれはそれだから?ダメダメダメダメって、それなら何が良いの?やってることそうそう変わらないじゃん大概同じじゃん」
アメリーは勢いよくグラスを飲み干し、捲し立てるように声を露にする。ヨークは口を詰むんで話を聞く。
「国だって人だって色々やって頑張ってるわけじゃん。なのに区別も差別も混同したような物言いばかり一体なんなの?
上も下もどこもかしこも言いたい放題って。ただただ精一杯生きようとしてるだけじゃん」
言い終わると同時にアメリーはマスターに空のグラスをし向けた。するとヨークはそれを合図に口する。
「アメリーは絶対たる悪を作らないとダメ?悪という存在を可視化しないとダメ?」
「ダメってわけじゃないけど、、」
「けど?」
マスターはそっとグラスをアメリーに差し出す。アメリーは恥ずかしげにグラスを手にする。
「よくわかんないけど、ムカつく相手は悪でしょ」
アメリーはくいっとグラスを口に当て喉を鳴らす。するとヨークは「そうね」と微笑をみせ手元のグラスに視線を合わせたまま口を開く。
「でも、その悪だって作られてしまったモノかもしれないでしょ?もしくはそうせざるを得なかったモノもいるわけでしょ?生きるために、、、ね」
「な、、なら生きるためなら何してもいいの?ヨークはそうするの?」
「どうだろう、、、」
ヨークは揺らすグラスを掴み一気に飲み干す。
「普遍的日常に非日常を目の前にしてパニックになりストレスを溜めるのはわかるわ。そうせざるしかない状況でならなおさらね。けれど、そうじゃなく自らストレスを作りにいくのはどうなんだろーねーって話よ」
ヨークはそう言うとマスターにお金を渡し帰っていった。
「、、、どういう意味だよ」
消え入りそうな声で呟くアメリーは肘をつき頭を抱える。
「そんな時は何も考えないか思考を変えてみるのもいいのでは?」
マスターは乾いたグラスを拭きながら微笑む。
「何よマスターもヨークと同じ考え?」
アメリーは少しムッとした表情をつくる。
「いやそうではありませんが、先程から話の相手が見えないもので、なのでもし私がお客様の立場ならと考えると何かの物語に置き換えた方が見えやすいのかもと感じまして」
「物語、、、?」
「ええ、物語です」
マスターは拭き終えたグラスを置き、カクテルシェーカーを手にする。
「例えば犬がご飯を前にして待てと指示をされたとします。それも何十分も。犬は指示されたから解除されるまで待つことをします。そこでです。お客様はこの犬と飼い主、どちらが悪だと思いますか?」
マスターはシェーカーに氷を入れ軽く振る。
「悪、、、もちろん飼い主でしょ、だって待たせるんだから」
アメリーは得意気に胸を張る。
「そうですね。見方によれば飼い主でもありますね」
「でも?」
アメリーはいぶしがるような目付きにマスターを見る。
「はい、でもです。もしかしたら犬かもしれないという話です。つまり飼い主と犬はそれを遊びの1つだと感じているか、罰を与えているかの違いです」
「よくわかんない」
「そうですね、例え当事者がそうであっても他人にはそう見えないモノが多いってことです。それと、、」
シェーカーを振る腕を止めたマスターはアメリーの前にグラスを差出す。
「それと、他人からしたらどうでもいいことだったりしますからね」
アメリーは差し出されるグラスを見ながら「えっ」と声を溢す。
「はい、つまり他人から出されるモノも自分から出すモノもそれ事態どうでもいいことだったりするということです」
「意味わかんない」
オーバーに手を広げ顔を上に向けるアメリー。
「わからないですよね、私にもわかりませんから」
「なによそれ それこそ悪じゃん」
「そうですね 私は悪かもしれませんね」
そう言うとマスターは頬を緩ませる。仄かに照らす照明がその笑みを隠すかのように影を作った。
それを見ていたあじゃとf,りかはゆっくりと近づき、アメリーを挟むように顔を覗かせる。
「アメリーなにしてんの?」
「悪に境界は存在しない、あるのは教会に通う懺悔のみ」
アメリーはその声に驚き背筋を伸ばす。
「え?何?何よ?ってビックリさせないでよ、まったく、ってあんたたちいたの?」
「えへへ ヨークに連絡もらったー」
「え?ヨークから いつ?」
アメリーはいない姿に扉を見る。
「さっき、だってヨークが墜ちた天使がいるから助けてやってって言ってたから」
「な、なによそれ?」
「堕天した天使も自ら墜ちたわけでも墜とされたわけでもない」
「は?さっきからf,りかは何を言ってるの?あじゃ怖いf,りかが怖い」
「あははは それじゃf,りかが悪だねー、だってアメリーは天使だから、ねー」
あじゃはアメリーの顔そばにグラスを掲げ頭をくっつける。
「天使も悪魔も同一人物」
「だからなんなのよー」
そんな三人を他所にヨークは一人喫茶店で珈琲を煎れる。
「悪とは不安からくる定石。常識も民度もそれを外さなければ全て不謹慎そのもの。だけど良いものも悪いものも見方によればどうでもいいことだったするから当人の我が儘によるものが多いってことなのよね」
ヨークはうっすらとかかる光に微笑みを溢した。
電気の消えた喫茶店からうっすらとした光が零れ落ちる。




