置き去り
近くに置いてあった携帯から音楽がなる。
「時間、か」
俺は体を起こす。その時、かけられていた毛布がずり落ちる。
布団なんて、持ってきたか?
「天青」
隣から俺を呼ぶ女の声がする。
薄暗い中、瑠璃がすぐ隣にいた。
「お前……よくここが分かったな」
「ううん、天青のお母さんに連れてきてもらったの」
「そうか」
俺は立ち上がる。
「お母さんは呼ばなくていいの?」
「あぁ。母さんはあれでも結構強い術が使えるから、心配ない」
俺は部屋の四隅に札を張り付けた。
「今晩はここから出るなよ。あと、今から結界を張るから、この札も剥がすなよ。これがある限り、まず魔物は入って来ない」
俺は数珠に似た封印用の道具を手に、術を唱える。
何重にも細い線が部屋の中に張られる。
俺はその道具を床においた。
「万が一の時にはそいつを使え。お前なら、持ってるだけで身を守ることはできるだろうから」
俺は部屋から出ようとする。その時、瑠璃に服を掴まれた。
「ほんとに……行っちゃうの……?」
不安そうな声で、俺を引き留める。
「悪いな。これでも俺は風斬の一族。役目は果たさなきゃいけねぇんだよ」
俺は瑠璃の手を外す。
「必ず、戻ってくるから」
俺はそう言って戸を閉めた。