猫又の言伝て
俺たちは日の沈む頃、遊園地から帰ってきた。
「天青……」
瑠璃が不安そうな声で俺を呼ぶ。
「何か、嫌な感じがする……」
「ああ、そうだな」
――――――『異界への扉』が、壊れかけているようだな……。
「今夜は神社の方にいた方がいいな。あそこなら、よっぽどの事が無い限り、まず、魔物は来ない」
「天青は? 天青も、いるよね?」
「悪いが、俺はそうもしていられない。今晩、見に行ってくるから」
そう言って部屋に戻った。
「はぁ……」
ため息をついた。
予想よりもだいぶ早い。父さんは、冬休みまでに扉を直せば大惨事は起きないと言っていたのに……。
「で、何でこんなときに限って父さんはいねぇんだよ……」
服を着替え、道具を準備し、食事を済ませた俺は、神社へと向かった。
本殿の近くにある小さな小屋で仮眠をとっているとき、戸を数回叩く音がした。
「……はい、誰ですか?」
俺は戸を開けた。
小さな猫――いや、化け猫、青い猫又が一匹。
「お前は――!」
俺は長い数珠に似た、封印用の道具を取り出した。
『落ち着け、少年。我が名はリュミエール・ルアー。主人の言伝てを頼まれた』
「言ってみろ」
『年上に向かってその言葉遣いはやめた方がいいぞ』
「何歳だ? お前」
『さぁ? 覚えているだけでも50年は生きているが』
猫又はわざとらしく(?)ため息をついた。
『邪魔をするな、だそうだ』
「地上侵略か? 黙って見ているとでも――」
『そうではない。我が主は今、お前らで言う病気になっている。そのために、ここで力のあるヤツを1人、もらっていく』
「させると思うか?」
『頑張って抵抗してくれ。本音を言えば、オレだってこんな主人とはおさらばしたいからな』
なんなんだ、こいつ。本人は悪気が無いように見えるが、何かムカつく。っていうか神社の中に入ってくるなんて、とんでもないヤツだな。戸で尻尾でも挟んでやろうか。
そう思って戸に手をかける。
『この近くにお前くらいの女の子がいるだろ? おそらくこれから来る魔物はそいつを狙う。お前も気をつけろ。これから来る魔物はお前らの体を乗っ取るヤツだ』
猫又はそう言い残してどこかへ去っていった。