口癖
あのあと、私は天青君に部屋を案内された。
「本当に、いいのかなぁ……?」
当然、ここに来る予定だった訳だから、近くにある宿は何軒か知っていて、天青君の「この近くに宿はない」が嘘だということはすぐに分かった。でも、なぜか断れないまま、私は今、こうして天青君の家の一室にいた。
部屋にいても、特にやることがないから、外に出た。
神社に来たのだ、お参りに行かなくてどうする。
そう思ってお賽銭箱の前まできた。
そこに、天青君はいた。
お賽銭箱にもたれかかるように座り、手に握った紙を見つめていた。私に気づいた天青君は、立ち上がり、その紙を服の中に入れた。
「お前、何しに来たんだ?」
「ここ、神社でしょ? だから、お参りに来たの」
私はお金を入れ、手を合わせた。
「天青君は何してるの?」
「……"君"付け、やめてくんない? 俺、そういうのあんま好きじゃない」
「あっ……ごめんなさい」
「何でお前が謝るんだよ」
「ご、ごめん」
また、つい謝ってしまう。
友達にもよく言われたっけ。よく謝るね、って。
「ごめん、が口癖か」
そう言われて、私は下を向く。
「悪い。責めるつもりで言った訳じゃない」
私が傷ついたと思ったらしい。そう言われた。
「ううん、大丈夫だよ。ただ、前にもそう言われたなぁって思って。ダメだよね、謝ってばっかは」
あはは、と頼りなく笑う。
「どうにかなんないかなぁ、これ」
「そういっているうちは、無理だな」
天青に言ったつもりじゃないのに、そう言われた。
「自分で変わろうと思わない限り、無理だ。……父さんは、そう言ってた」
強い風が吹く。
「あっ……」
帽子が飛ばされてしまった。
取りに行って、拾って、後ろを振り向いたときには、天青はいなかった。
今度は弱い風が吹いた。