夢
「どこから話せばいいですか?」
私は神主さんに尋ねる。
「ではまず、夢の内容について詳しく教えてほしい」
「はい、わかりました」
私は、説明を始めた。
この夢を見るようになったのは1ヶ月ほど前の頃。
この夢では、気がつくと私は森の中にいた。しばらくさまよい歩いていると、突然、地震のような揺れと、何かの叫び声のような轟音がしてくる。私が音の方へ向かう途中も何度も地震と轟音がする。そして、森の中の泉につくと、そこの中央から黒いものが吹き出ていて……
そこで、私はいつも目を覚ます。
日がたつにつれて、私の夢は鮮明になっていきました。歩いている途中にこの神社が見えたり、轟音がなんとなく笑い声に聞こえたり、黒いものが人のような形に見えてきたり……
「私の思い過ごしならいいんですが、これ、何かを暗示しているんじゃないかと……」
「おそらく、それは予知夢だろう」
「何の、ですか?」
「『異界への扉』……?」
天青君がぽつりと呟く。
「間違いないな」
天青君の言葉に神主さんは反応し、そう言った。
「クラック……? 何ですか? それ」
「この地に伝わっている、異世界への扉だよ」
神主さんは詳しく教えてくれた。
この世界には魔界や天界といった異界が存在する。
ここの世界と魔界や天界をつなぐ扉が『異界への扉』と言うらしい。神社の近くにある泉もその一つだと言う。
この扉はここの世界で死んだ者、あるいはこれから生まれる者のみが入ることができる。
しかし、それは扉が壊れていない時だけである。扉が壊れればば、天界にいる天使や、魔界にいる悪魔がこの世界に入ることができてしまう。
「悪魔や天使がこの世界に入ってくるとどうなるんですか?」
「大変なことになるだろうね」
実際、この世界には天使も悪魔も存在する。だが、扉が壊れ、大量の悪魔が入ってくると、この世界における善悪のバランスが崩れてしまう。そうなれば、この世界はたちまち崩壊してしまう。
「だから、そうならないように風斬一族はここで守っているというわけだ」
「ってことは、私のこの夢はある意味正夢だと……」
「そういうことになるな。しかし、凄いね、君は。僕たちでもつい最近気づいたんだよ、その事については。もしかして、どこかの巫女さんかい?」
「いえ、そんなことないです。ただの高校生です」
「へぇ……あっ、そうそう。ペンダント、直してあげるよ。ちょっと見してごらん」
神主さんに言われ、私はペンダントを渡す。
「1日だけ、預かっていい?」
「えぇ、大丈夫です」
「何もないけど、ゆっくりしていってね。」
神主さんは部屋を出ていった。
「そういえばお前、このあとどうすんの?」
天青君が聞いてきた。
「このあと? うーん、そうだなぁ……。とりあえず、宿を取りに行かないと……」
「予約とか、してないのか?」
「やり方分かんなかったからね。一人部屋くらい空いているよ、きっと」
私は立ち上がる。
「また明日来ます。ありがとうございました」
そして、部屋を出ようとしたとき、腕を掴まれた。
「……泊まっていけよ」
突拍子のない言葉だった。
「えっ……でも、迷惑になるといけないし……」
「いいから。宿はこの近くには無い。それにまた、この坂を登らないといけなくなるだろ」
そういって私の手を掴んだまま部屋を出ていった。