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風斬る夜に  作者: 縦院 ゆい
二学期
20/21

宇治上の神様とお話

 修学旅行2日目、今日は班行動で自分たちが調べた観光地に訪れている。私たちが選んだのは宇治の辺り。私はあまり詳しくないけど、私たちの地域とはまた違った街並みを楽しみながら歩いていた。

 宇治上神社に向かう道中のことだった。

「天青!おい、しっかりしろ!」

 天青が、急に倒れたのだ。幸い、すぐに目を覚ましたが、明らかに具合が悪そうだった。顔色が悪く、血の気がない。

「無理すんな。」

 萩野君が背中を向けてしゃがみ、嫌がる天青を無理やり担いだ。私は天青と萩野君の荷物を持とうとしたけど、他の男子が持ってくれた。

「天青、大丈夫?」

 心なしか、顔をしかめているような気がする。まるで、痛みに耐えるように。

「どこか痛いところ、あるの?」

「いや、別に……。」

 天青は青白い顔をそっぽ向ける。

 ――――――あ、嘘ついてる。

「痛いところ、あるよね?」

 覗き込んでも、天青は目を閉じて寝たふりをする。

「て・ん・せ・い、正直に!隠れて怪我でもしたんでしょ?」

 きっと、清水寺で見つけたあの『異界への扉(クラック)』を閉じるときに、何かあったんだ。そうに違いない!それに私から顔を反らす様子から、狸寝入りだってばれてるんだよ!

「ははは、痴話喧嘩はここでやるんだな。」

 萩野君は近くにあったベンチに天青を下ろした。

「天青、少し休んでろ。その間に俺たちは参拝してくるわ。瑠璃も、それでいいか?」

 私は大きく頷く。

「……俺一人で大丈夫だよ。瑠璃、行ってきなよ。」

 私は首を横に振って天青の隣に座った。

 萩野君たちは神社の方に歩いて行った。


「天青、本当に大丈夫なの?」

 天青はため息を吐いて、上着を脱いだ。襟が立っていて気付かなかったが、首に包帯が巻いてある。

「ちょっとヘマしてね……それで貧血。」

「貧血になるくらい血が出てるってことでしょ?病院とか行かなくていいの?」

「……大丈夫だろ。たかが切り傷だ。」

 天青は包帯を取り始める。ガーゼが当ててあるが、血が滲んでいる。慣れた手つきで新しいガーゼを傷口に当て、また包帯を巻き始める。

「手伝うよ。」

「悪い……助かる。」

 私は天青の手から包帯を取り、巻いてあげる。

「はい、終わり。」

「……やっぱちゃんと、止血できてなかったんだな……。」

「病院、行った方が――――――」

「ヤダ。」

 うーん、この即答ぶり。天青、病院嫌いなんだ。

「頭は、痛くない?」

「……ちょっと痛い。」

「病院―――――」

「絶対、ヤダ。」

 本当に大丈夫か心配だが、本人が行きたくないという以上、無理矢理は連れていけないな。

「瑠璃、いいのか?」

「何が?」

「参拝、行かなくても。」

「かといって、天青のこと放っておくわけにもいかないじゃない。自覚ないと思うけど、頭打ってるんだよ?いつ倒れてもおかしくないんだから。」

 天青はそっぽ向く。

『そんなおぬしらに朗報じゃ。儂の方から来てやったぞ。』

「わっ!」

 突然、目の前に小さな男の子(?)が現れた。服が明らかに現代のものではない、歴史の教科書で見たような平安時代くらいの着物姿。

「え、えーっと……どちら様でしょうか……?」

『儂はなー―――』

菟道(うじのわき)稚郎子命(いらつこのみこと)、だろ?」

『な!儂の台詞!』

 やっぱり、普通の人間じゃないんだ。ただの幽霊かな?

「宇治上神社に祀られた二柱の神の一人だ。」

「か、神様、なんですね……!」

『そうじゃぞ!凄いじゃろ!……まぁ、元はただの人間だったんだがな。』

 神様はエッヘンと胸を張る。

「で、神様がわざわざ何の用だ。」

 天青、神様にため口は、ちょっと失礼じゃないかな……。

『暇じゃから、遊びに来た!』

「帰れ。」

『ひどっ!』

 うん、それはひどいよ、天青。

『うわーん!番人が意地悪じゃー!』

 と神様は私にじゃれつく。

「神様は、どうして天青が番人だって知ってるんですか?」

『ん?そりゃあ、この辺り一帯は儂が見てるからな、昨日こやつが扉を閉めてるのを見てたからじゃ。』

 なるほど。

「そうだ、昨日、天青の怪我ってどうしてできたか知っていますか?」

 天青が正直に言わないなら、神様に聞いちゃうもんね。

『それはな――――もごっ!』

 天青が神様の口を乱暴に塞ぐ。

「おい、それ以上しゃべるな。」

『ふごもごもごもが!』

「天青!乱暴はだめ!」

 相手は神様なんだよ!少しは敬うとかないの?!

『何するんじゃ!』

「潰すぞ。」

『ゴメンナサイ。』

 神様が涙目で頭を下げる。

 あ、あれ?なんだか、天青の方が上に見える……。

『そこのお嬢さん、儂ら神よりも、番人の方が立場も力も上なんじゃぞ。』

「え、そうなんですか?」

 神様よりも上があるなんて思いもしなかった。

『儂らみたいな神はもともとはただの人間じゃからな。長年神をやっていても、所詮はそこらの幽霊たちにちょっと毛が生えた程度じゃ。流石に天照大神くらいになれば、番人と対等になれるがな。』

「へぇ、ちょっと意外です。」

『まっ、それでも伊達に神をやってるわけじゃない。例えば、こんなこともできるぞ。』

 そう言うと神様は天青の肩に乗り、傷のあるあたりにふぅと息を吹きかけた。

「……痛みが、引いたな……。」

『そうじゃろ、そうじゃろ!ちょっとは治っとるぞ!』

「す、すごいです!」

「……ありがとう。」

『気にするでない!おぬしらの連れがもうそろそろ戻ってくるみたいじゃし、儂は帰るな!』

「はい、さようなら。」

 そして神様はふわふわと神社の方へ飛んでいった。

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