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風斬る夜に  作者: 縦院 ゆい
夏休み
2/21

事の始まり

「ふぁー。暑いよー」

 私、泉 瑠璃(いずみ るり)は山道をトランクを引きずりながら歩いていた。

 汗が次から次へと流れる。

「何で夏は暑いのー……?」

 蝉がみんみんと大音量で鳴いていた。


 今日は7月28日。

 なぜ私が、こんなところを歩いているかというと、その理由は1ヶ月ほど前にさかのぼる。

私は小さい頃、お守りとしてペンダントをもらったことがある。それが、1ヶ月ほど前に壊れてしまったのだ。落としてもいないのに突然、水晶玉が割れてしまったのだ。

 それだけならよかったのだ。

 しかし、ちょうどその頃から、ある夢を見るようになった。

はじめはただ、暗い森の中から何かが出てくるような夢だった。それが、日がたつにつれて、だんだんとはっきりと見えるようになった。森も、どこの森か分かった。出てくるものも、悪霊とか、そういった類いのものだということが分かった。

 私は小さい頃から幽霊やその類いのものが見えるし、正夢を見ることも少なくない。もしかして、この夢も本当ではないか、と思った。

 というわけで、私は今、夏休みという休暇を使ってその森に来ていた。

 目的地は私のペンダントをくれた神社、「風斬神社(かぜきりじんじゃ)」。


「あー。自転車とか……あっても登りだから意味無いか……」

 がらがらとトランクが音を立てていた。


「つ、着いたぁ……」

 山の頂上、風斬神社の鳥居前に、やっとたどり着いた。

 木陰に座り、汗をふく。

 ––––––少し、涼んでからにしよう。

 空を見ようと、ふと、顔を上げたとき。

 視界の中に一人の少年の姿が入り込む。巫女さんの男バージョンのような服。(ごめんなさい。名称知りません……)ここの人かな?

 その人はこちらに向かって歩いてくる。

 ––––––も、もしかして、ここにいちゃいけない感じ!?

 私は慌てて立ち上がる。

「お前、ここに何の用?」

「あぁ、えっと……私、ここの神主さん? に少し聞きたいことがありまして……」

「父さんは二日前から、出かけてる。いつ帰ってくるか分からないから、また日を改めた方がいいと思う」

「えぇ!? そんなぁ……」

 私はその場に座り込み、肩を落とす。

「せっかくここまで登ってきたのに……」

 ––––––ん? 待てよ。今、神主さんのことを「お父さん」って言ったよね……

「ねぇ、あなたでもいい!! 少し聞かせて!!」

 私はその少年の顔を見上げた。

「相談は、俺じゃあ無理」

 ––––––ダメかぁ……

「電話番号と名前を教えてくれれば、帰ってきたときに連絡できるけど」

「あ、お願いします。私は––」

「中、上がって。ここじゃ暑いし、何しろ俺、書くもの持ってないから」

 私は少年のあとについて鳥居をくぐった。

 

「俺は、風斬 天青(かぜきり てんせい)。ここの神社の跡取りだ。今は父さんの代わりにここにいる」

 部屋に入ると、少年はそう名乗った。

「あ、私は泉 瑠璃って言います。以前、ここでペンダントをもらった者です」

「それで?」

 天青は覚えていないみたい。ちょっと悲しい。

 ポケットからペンダントを取り出す。

「壊れちゃったの。1ヶ月くらい前に」

「それを直せって言うのか? たかがそんなことで、この山を登ってきたのか」

 天青は自分では相談は無理とか言っていたけど、なんだかんだ言って聞いてくれていた。

「そうじゃなくて。ペンダントのことも少しは聞きたいけど。もっと聞きたいことがあるの」

「何?」

「普通の人は信じてくれないと思うんだけどさ……」

 私はそう前置きして話す。


「夢を、見たの」


「夢?」

「うん。ちょうどペンダントが壊れた日辺りから、神社の近くのこの森から、何かが出てくるような夢。毎日毎日見るから、さすがにおかしいなって思ったの。私、正夢とかもよく見ているから、もしかして、その類いじゃないかなって、思って。それで、ペンダントのことと、この夢について神主さんに聞きたかったの」

「話は全て聞かせてもらったぞ!!」

 突然、部屋の戸が開かれた。

「父さん!!」

 天青は驚いて立ち上がる。

「いつの間に帰ってきたんだよ!」

「ついさっきだよ。ほら、二人が家の中に入った頃。いいムードだったからぶち壊すのはよくないかと思ってな」

「で、盗み聞きしていたのかよ……」

 天青はため息をついた。

「あの、私、泉 瑠璃って言います。今日は、あなたに伺いたいことがあってここに来ました」

 私は立って、お辞儀をする。

「いいよ、聞こう。私にとっても興味深い話だったからな。天青、お茶を持ってきてくれ」

「父さん。その前に一つ聞いていいか?」

「? なんだ?」

「さっきの、部屋に入ってくるときのセリフ、なんだっんだ?」

「アニメのヒーローが言ってそうなセリフだけど。お前、興味あるのか?」

「一ついいですか?」

 私は片手を挙げて言う。

「それ、たぶん悪役が言うセリフだと思うんですが……」

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