修学旅行も仕事
気が付けば本当に寝ていて、既に目的地についていたようだった。
「ったく……どんだけ寝てんだよ。」
叩き起こされ、バスの外に出る。
俺たちが今回訪れるのは清水寺とその周辺。午前中は清水寺などを見学、午後からは二寧坂、産寧坂で班ごとに自由行動という予定になっている。
バスガイドさんと共に中を巡る。途中、清水の舞台に上がり、そこから京都の町を一望することができた。
たしかに、ここからならよく視える。
「天青、あの……」
どうやら瑠璃も気付いているらしい。
二寧坂から少し奥に入ったところに、『異界への扉』が開いているのが分かる。今は特に異常はないが、あそこから何かが侵入してきた痕跡が分かる。
「流石だな。大丈夫、午後には閉めてくる。」
確証はないが、あそこから入ってきたものは恐らく悪霊の類、活動が活発になる夜になる前にさっさと閉じて、退治すれば大きな被害はでない。
「風斬~置いてくぞ~」
萩野に大声で呼ばれたから、仕方がなく小走りで彼らの後を追いかけた。
隙を見て自分を分身の式神と入れ替え、班の皆と別れることには成功した。夏休み明けから今日まで式神の訓練をしてきたのが功を奏した。あれなら恐らくばれることはない。
道から少し外れたぼろぼろのお寺の中、小さな『異界への扉』が佇んでいる。「異界」ではこの道を維持するための術者が力を注いでいた。しかしその道は不安定で、扉の形はぐにゃぐにゃと歪みながら動いている。
俺はその術者に言霊を送る。
『扉の番人よ、貴様らが行っていることは、界の法を破ることだと知っての所業か?』
言葉はない。代わりに、怨念のこもった呪術が飛んでくる。
なるほど、この呪術が扉が閉じられた理由を物語る。
「人間を悪に染める呪術、か。悪いな、俺には効かん。」
呪いを片手で跳ね返す。
「貴様ごと、捻り潰してやる。」
手首の念珠がほどけ、8つの珠となる。そのうち4つは扉を囲うように四角形の頂点となって浮かぶ。残りの4つは扉の奥へと飛んでいく。
「空間切断――――――」
珠から光が延び、四角形を作る。
「――――――固定。」
扉の動きが止まる。そしてそのまま閉じるため、右手の人差し指を伸ばし、珠から光を集める。
相手の妨害を左手で捌きつつ、右手を一気に振り上げた。四角形が縮み、扉が小さくなり、そしてそのまま消滅した。
「さてと……あとは、ここから入ってきたやつの退治、ってところか。」
それについては明日でいいやと、俺はその場を後にする。
直前に、青い猫又を見たが、害はなさそうなので、そのまま放っておいた。
班の皆の元へ戻ろうと思ったが途中で面倒になったため、集合場所の近くの八つ橋屋で一服することにした。
家族への土産物を買い、自分は生八つ橋の抹茶とチョコレートを味わいながらお茶を飲むことにした。
生八つ橋のもちもちした生地を味わいながらぼーっと外の人通りを眺めていると、運の良いことに班のやつらがこの店に入ってきた。式神を消して、適当にごまかせばいいかなと思案していた。
目の前を班の女子たちと一人の男がすれ違う。
その瞬間を俺は見逃さなかった。
俺は荷物を持つと、その男を尾行した。
店を出て人気がない裏路地に着いた時、俺はその男の腕を掴んだ。
「お前、今、盗っただろ。」
無理やり男の腕を上げると、その手には女物の財布が握られていた。
焦った男は俺の手を振りほどこうと乱暴に腕を振るうが、俺はその腕を強引に引っ張り地面に押し倒す。男の手を捻って財布を手放させ、風を使って持ち主のところへ送る。
「わざわざ俺の前に姿現しやがって。観念しな、お前の帰り道はさっき、閉じたよ。」
目の前のこいつは姿こそそこらの人間と変わらないが、中身はあの『異界への扉』から来た魔物の類。恐らくとりついているのだろう。
男は何も言わず、もう片方の手をこちらに向けてきた。
俺はその場から飛び退く。
男の手にはカッターナイフが握られていた。跳び起きた彼はそのまま俺に掴みかかってくる。
男は物理的な攻撃だけではなく、さっきの番人のような呪術も同時に使っていた。
『お前の術では、俺の身体を穢せないよ。』
男はにたり、と気味の悪い笑顔を浮かべると、その呪術を俺ではなく通りを歩いている観光客たちに向けた。
『無駄だ。』
俺はその呪術よりも早く結界を張る。念のため、だ。
『俺の周りなら、そんなものすぐに浄化できる。』
男にとりついたやつは、俺のそばに居ればすぐに消滅するだろう。結界を張ったため、こいつの逃げ場もない。
最期の悪足掻きと、操られた男はそのカッターナイフを振り回す。操っているやつは大したことはないが、操られているやつは俺よりもずっと体格もよく、喧嘩慣れしているのか動きが素早い。俺の肩を鷲掴まれ押し倒され、馬乗りにされる。
「馬鹿め。」
振り下ろされたカッターナイフは左の首を掠める。
「斬術『邪気払い』」
相手の顔面に右手を当て、あっという間に憑りついていた魔物は黒い霧となり消えていく。
男をどかして起き上がり、そして首筋を抑えてその場を去ることにした。




