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風斬る夜に  作者: 縦院 ゆい
二学期
16/21

休みの理由

 天青が学校を休んだ。

「大丈夫かな……?」

「瑠璃、どうしたの?あいつのこと、心配?」

 友達が話しかけてくる。

「私、あいつ苦手なんだよね。すぐ睨むし、冷たいし。心あんの?って思っちゃう。」

 学校での天青は、私の知っている天青と少し違う。何だか、わざと人と関わるのを避けているようだった。

「そういえば瑠璃、知ってる?」

「何のこと?」

「天青、あいつ、人の心が見えるらしいよ。」

「え?」

 そんなこと、初耳だった。

「いつも、誰かがなんかいう前にわかったように行動してんだよ。授業中もそう。寝てるのに質問を聞き返すことなく答えるとか、そうとしか思えないんだけど。」

「それは……デマでしょ。」

「あーやだなぁ。あいつと修学旅行一緒とか、ほんと勘弁。ビクビクして楽しめやしない。」



 先生に頼まれて、三者面談に関するプリントを天青の家に届けに行った。

 ピンポーン……

 反応なし。

 ピンポーン……

「どうしよう……」

 仕方なく、ポストに入れようとした時だった。

「何の用?」

 後ろから天青の声が聞こえてきた。

 戸から出てきた気配もないから、びっくりして声も出ない。

「どうしたの?こんな時間に?」

 久しぶりに見る天青の姿は、酷く疲れているようだった。熱があるのか顔は赤く、左目には眼帯をしている。

「あの……えっと……このプリント……。」

「中に入っていいよ。開いてるから。」

「え?あ……っと」

「俺は受け取れない。ただの式神(かみ)だから。」

 どういうこと?

 そう聞く前に風が吹き、天青の姿は消えていた。

 カサリ、という音がしたので足元を見ると、紙切れが落ちていた。

 何か文字のような模様が描かれている。

 この紙が、天青に化けていた?

「お邪魔……します。」

 とりあえず、言われた通り中に入った。



『悪いけど、俺の部屋まできてくれない?今、手が離せないんだ。ついでに、冷蔵庫からアイス取ってきてほしい……。』

 どこからかそんな声が聞こえてきた。

 勝手に人の部屋をあさるのは好きじゃないんだけど、何だかその声は辛そうだから、大人しくいうことに従う。

 二階に上がっただけでわかる。––––天青の部屋に、何かとてつもなく禍々しいものがいる。

 扉をノックする。

「天青、大丈夫?」

「入っていいよ。」

 部屋に入ると、なんか、変な感じがした。

「気分悪くなったら、すぐ外に出ろよ。」

 部屋には祭壇?御札が貼ってあったり、数珠で結界のようなものが作られており、その中央には台座に乗せられた珠が置かれていた。

「この部屋に、魔物を閉じ込めているんだ。」

 天青はベッドで横になっていた。

「嫌な空気だろ?お前には、ちょっときついんじゃないか?」

 それで、変な感じがするんだ。

「大丈夫……って、その目、どうしたの?」

「え?……あ。」

 近くに眼帯が落ちていた。

「ちょっと……ね。呪いかな?実は、よくわからない。」

 天青の左目には、何かよくわからない、紋様のような痣ができていた。

 ––––––これのせいで、学校休んでいるの?

「違うよ。」

「え?」

 ––––––今……なんて……まさか、考えていること……

「考えていること、読まれた、って?」

 天青の痣に、青い光が走ったような気がした。

「アイス、ちょうだい。」

 そう言って天青は私の手からアイスを取っていく。その手は、熱かった。

「先に言っておく。っても、もう遅いか。俺は、瑠璃が思っているほど、優しくないよ。」

「それって。」

「わかるだろ?俺には、みんなに開かせない秘密ってのがあるんだ。あんまり他人と馴れ合うと、それだけ隠すのが難しくなる。それに––––」

 天青は半身を起こして私を見る。

「噂になってると思うけど、俺は、人の心が視える。」

 また、青い光が走る。

「嘘だ、って?種も仕掛けもないよ。生まれつきだ。俺の家系では、たまにそういう人が生まれるんだって。書物に書いてあった。……まだ、読み途中だけど。」

 ––––––それも、休んでいる理由……?

「いや、全く関係ない。まだ、父さんたちには、この痣は秘密にしている。」

「それって、つまり」

「俺も初めは、この魔物のせいかと思ったんだけど、『呪い殺し』が効いてなくって、おかしいと思って、昔の書物を引っ張り出してみた。ってか、『冬桜』が意地悪だからこんなの読んでんだよ。答え知ってるくせに、教えてくれねぇからさ。」

 ––––––冬桜……?

 何のことか聞こうとした時だった。


 パキンッ!


 珠にひびが入った。

「またかよ!いい加減、大人しくしろ!」

 ベッドから降りて、御札を構える。

「斬術『七色陣』!」

 光が空間を交差する。

『無駄だ、小僧。』

 光の中でかすかに見えたのは、大きなヘビ。

「これは……」

「川の邪念の集まりだ。入水自殺した奴らが成仏できずに、こんなにでかくなったのさ。川に落ちた時、呪われそうになったから、逆に捕まえて退治しようとしたんだけど、中心が見つからなくて、苦労してんだ。」

「川に落ちた?」

「……それ以上は言えねぇ。」

『小僧なんかに浄化できるものか。今に見てろ、お前も道連れだ。』

 ヘビが私を睨む。

『いい餌がいるじゃねぇか。』

 天青は私の体を押して、ベッドに倒す。

「結界の中にいろ。そこなら、大丈夫。」

「でも、天青は––––」

「いいから!」

 御札が宙を舞う。

「風術『嵐』」

 強烈な風が部屋の中を吹き荒れる。

「狭い部屋だから、威力が跳ね上がるだろ。」

 数個の珠を宙に投げる。

「斬術『七色陣』」

 光が縄のようにヘビを縛り、新たな珠の中へねじ込まれた。


「はぁ。疲れた。」

 天青がベッドに倒れてくる。

「ちょっ……大丈夫!?」

 私の上で、そのまま動かない。

「……ごめん。」

「……なにが?」

「嫌だよね……俺みたいな……気味の悪いやつなんか。」

 –––––もしかして、心が視えること、気にしているの?

「ちっとも嬉しくないんだ……。みんな、俺のこと、嫌ってるからさ……。」

「天青……。」

 小さな寝息を立てて、寝始めた。

「……あ。」

 天青の右手に、何か模様が浮かんでいた。

 ––––これ……もしかして……あのヘビの中心……!

『小娘!気づきおったな!』

 次の瞬間、珠が割れた。そして、結界に向かって激突してくる。

「て、天青……!どうしよう……」

(大丈夫だから。)

 ––––!今の声は、一体……?

 天青の声のようで、そうでない。

 結界にはすでにひびが入っている。しかしまだ、天青は起きない。

『喰ってやる!』

 結界が破壊された。

「あっ––––」

 襲われると目を瞑る。

「還れ。斬術『邪気浄化』」

 天青が、寝たまま自分の右手の模様を『斬った』。

『し、しまっ––––』

 ヘビは光となって消えてしまった。

「まさか、俺があいつを捕まえた時に、こんなところに移したとはな……。」

 天青は体を起こし、右手をさする。

「やっと体が軽くなった。瑠璃、ありがとな。」

「え?あ……うん。」

「……やっぱ『嵐』は部屋で使う(もん)じゃねぇな。片付けが大変だ。」

 部屋は御札の残骸とガラス玉(?)とその破片で荒れていた。

「手伝おうか?」

「いや……遠慮しておく。」

 天青は大きく伸びをして立ち上がる。

「帰れるか?」

「大丈夫だよ。天青も、お大事に。」

「……あぁ。」

 私は天青に見送られて神社を後にした。

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