転入生
もっと、強くならないと。
あれから、俺は今まで以上に修行に励んだ。
まだ、だめだ。これじゃあ、大切なものを、守れない。
「お前、ちょっと無理していないか?」
そんなことはない。いや、まだ足りない。
「それくらいにしておけ。体が持たないぞ」
この程度、どうってことない。
「しばらく休んだらどうだ? 掠り傷じゃ済まなくなるぞ」
怪我をするのは自分の不注意だ。そんなんじゃ、相手に負ける。
「もうやめろ。このままじゃお前はいつか――――――
「風斬!」
上から降ってくる男の人――先生の声で俺は目を覚ました。
「新学期早々、一番前でよく寝ていられるな」
「……何か用ですか?」
「大有りだ」
先生はみんなに向かって言う。
「一番前で寝ていたやつ以外は知っているとは思うが、今日から新しくクラスに転入生が来る」
……はいはい、どうせ俺は知りませんよーだ。転入生なんか、興味も無いし。
また寝ようとした俺の頭を出席名簿で軽く叩かれた。
「もうすぐ来ると思うから少し待っててくれ」
その言葉の直後、ドアは開かれた。
「すみません!遅くなりました!」
聞き覚えのある声。
1ヶ月ほど前に聞いた声。
俺が、自らの手で傷つけてしまった女の子の声。
「ああ、問題ない。彼女が、新しくクラスに入ることになった、泉 瑠璃さんだ」
俺と瑠璃の目が合う。
あまりの衝撃に顔を動かせなかった。
――――――嘘……だろ……
彼女は俺に優しく微笑んでくれた。
「泉 瑠璃です。よろしくお願いします」
先生に促されて瑠璃は一番後ろの席に着いた。
……そういえば、瑠璃は帰り際に『近いうちにあえるかも』みたいなこと言っていた気がする……
嬉しいような困ったような、もやもやした気分で、二学期は始まった。




