表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2-single-minded  作者: 偽鏡像
6/10

6.二人

 瀬美南と結ばれた日の翌朝。日曜日で学園は休み。

 優一は自宅のベッドで放心していた。

 ベッドで仰向けになったまま腕を伸ばして、握ったり開いたりを繰り返す。


 (あれは…いったい何だったんだろう)

 瀬美南と結ばれてこれ以上なく幸せなはずなのに、優一の心は晴れない。


 (あれは…本当に瀬美南だったのか?)

 (…何をバカな。目の前にいたのは間違いなく瀬美南だったじゃないか)

 (けど、あの夜の瀬美南は、会った時からおかしかった気がする。本当に別人みたいだった)


 (そういえば、瀬美南とは夜になったらいつもお別れだったな。逃げられた事もあったし…けど、あの夜だけはそうじゃなかった)

 (…というか、そもそも瀬美南っていったいどこに住んでるんだ?)


 昨日、瀬美南と結ばれた後、優一はいつの間にか気を失ってしまっていた。

 急に眠気が襲ってきたような気もするのだが…ハッキリとは思い出せない。

 そして気がつくと、瀬美南の姿は忽然と消えていたのだ。

 最初にあの広場で会った時は逃げられて、結局万森神社で見失っていたし。


 (瀬美南に聞いても答えてはくれないだろうしな…よし!)

 瀬美南には申し訳ないけど、確かめさせて貰おう。


 翌日の放課後。優一は瀬美南をデートに誘った。

 万森駅前でウインドウショッピングをしたり、バーガーショップでお茶したり。

 そして夕方には万森山のあの広場へ行き、瀬美南と寄り添い他愛もない話に花を咲かせる。

 そのまま広場の桜の木の下で、瀬美南と肩を寄せ合っていると、優一の携帯が時を告げた。


 [時間ですよ、急がないと!時間ですよ、急がないと!…]


 「もうこんな時間か…ごめん、今日はこれから用事があるんだ」

 「うん、わかった。寂しいけど…仕方ないわね」

 「瀬美南はどうする?途中まで一緒に帰るか?」

 「ううん、私はもう少しここにいる」

 「分かった。それじゃ、また明日な」

 「優一君、また明日」

 そう言って、広場で2人は別れた。


 優一は広場を出て万森駅の方向へ少し歩いた所、瀬美南から見えない位置まで来ると、木陰へ身を隠して瀬美南が広場から出てくるのを待った。

 (瀬美南、ごめん。けど、どうしても君の事を確かめたい)


 しばらくして、瀬美南が広場から出てきた。

 瀬美南は万森駅ではなく、山頂近くにある万森神社へ向かって歩いていく。

 (最初にここで会った時も、瀬美南は万森神社へ向かって逃げた…神社と何か関係があるのは間違い無さそうだな)


 気づかれないよう、優一は距離を置いて瀬美南を追う。

 神社までは一本道、気づかれないよう慎重に行動する必要はあるが、見失う可能性は低い。

 やがて麓から、午後6時のメロディベルが聞こえてくる。瀬美南は道を逸れる事無く、万森神社に入った。


 「瀬美南ちゃん、お帰り~」

 そこには、飛鳥が待っていた。彼女達は神社の奥に向かって歩いていく。


 (瀬美南と飛鳥は知り合いだったのか…瀬美南は神社に住んでいるのか?)

 今では優一も受け入れているが、瀬美南は猫の生まれ変わりだ。

 現実離れした彼女からは、家が神社というのはかえって納得がいく気がする。

 そう考えながら、優一は2人の後を追う。

 そのまま本殿に入るのかと思ったが、2人は本殿の横にある森の奥深くへの入口で立ち止まった。


 「……て……ね」

 距離があるのでよく聞き取れない。優一は見つからないよう、慎重に2人との距離を詰めた。

 そうして更に2人の近くへ寄った時、優一の目に信じられない光景が飛び込んできた。

 何と、森の奥から別の瀬美南が出てきたのだ。


 (そんな、彼女が…瀬美南がもう1人いる!?)

 何度見ても、見間違いではい。その姿は…見紛う事なく瀬美南その人だった。


 「時間よ、瀬美南」

 後から出てきた瀬美南(?)が、そう言って瀬美南の手を握る。

 その瞬間、まばゆい光が2人を包んだ。優一は思わず目を瞑る。

 優一が目を開けた時、そこに…瀬美南は1人しかいなかった。


 「な…なんだこれは!?」

 あまりの衝撃に、優一は思った事が思わず口に出てしまう。2人が気づいて振り向いた。


 「ゆ、優一!何でここにいるの!?」

 驚く飛鳥に対して、

 「…知ってしまったのね」

 瀬美南は意外な程に落ち着いていた。


 「瀬美南ちゃん…」

 「いいの。遅かれ早かれ、彼は知ったに違いないのだから」

 瀬美南はそう言って、優一の方へ向き直る。


 「優一さん」

 「…」

 「さっきあなたが見た通り、私は瀬美南であって瀬美南じゃない。あの娘は…今は私の中にいる」

 「…」


 優一は言葉が出ない。が、頭の中は驚くほど冷静だった。

 確かに、今の瀬美南は今日学校で会ってデートした瀬美南じゃない。


 (―呼び方だ)

 そういえば、結ばれたあの日もそうだった。

 目の前にいる瀬美南(?)は、優一の事を「優一さん」と呼ぶ。

 でも、いつも昼間会う瀬美南には「優一君」と呼ばれているのだ。


 「…君は、いったい何者なんだ」

 衝撃の中、最初に出た言葉はそれだった。その言葉に、瀬美南(?)の表情は悲しげに曇る。


 「それは…私から話すよ。瀬美南ちゃんに話させるのは酷だから」

 飛鳥がそう言って、瀬美南(?)に代わり話し始めた―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ