5.違和感
(あれっ、瀬美南じゃないか)
瀬美南の正体を確信してから何日か後。夜の万森駅前を歩いていた優一は、珍しい人影を見つけた。
「よっ」
「あっ、優一さん…こんばんは」
「今日はどうしたんだよ。夜に会うなんて初めてじゃないか?いつも逃げるのに」
優一は笑顔で茶化すように言う。瀬美南とキスまでしてしまった高揚感が、優一の舌を滑らかにしていた。
「今日はちょっと…用事があって」
「買い物か何か?良かったら付き合うけど」
しかし、
「うん…そうだね」
瀬美南はあまり乗り気ではないようだ。
「あっ、嫌なら別に構わないぞ?瀬美南にも事情があるだろうし」
「ううん、そんな事ないわよ。行きましょうか」
「そ、そう?じゃあお付き合いしようかな」
瀬美南が歩き出したので、優一も慌てて後についていく。
(何か…おかしいな)
歩きながら、優一は考えていた。
(今日の瀬美南、瀬美南じゃないみたいだ)
瀬美南が優一の前に現れて、まだひと月も経っていない。
想いが通じ合ったとはいえ、まだ瀬美南の事は謎だらけなのは確かだった。
でも、それでも優一には、今日の彼女は昨日までの彼女とは別人のように見えた。
何か…違和感がある。
「なあ、どこに行くんだ?」
「…」
瀬美南は答えず、どんどん先に歩いていく。そして意外な事に、駅前を外れて万森山へ入った。
(買い物じゃなかったのか?)
優一は疑問を抱くも、瀬美南についていく。そして終着点は…あの広場だった。
瀬美南は自分が眠っている桜の大木の下まで歩いていくと、振り返った。
「…ねえ」
「ここで…私と結ばれたのよね」
「ま、まあそうだけど…」
「じゃあ、私にもキスして」
「え?何言って…」
続けようとした言葉は、瀬美南の唇によって塞がれる。しかも彼女は「大人のキス」をしてきた。
抵抗しようと思えばできるのだが、優一はしない。なぜって、瀬美南が相手なのだから。
どれだけそうしていただろう。瀬美南が唇を離した。
「…ど、どうしてこんな事」
理由を問おうとした優一の口を、今度は瀬美南の人差し指が塞ぐ。そして…
「私…優一さんと…結ばれたい」
「!?それって…でもどうして…」
「お願い、今は何も聞かないで…目の前の私だけを見て」
優一は更に理由を問おうとしたが、瀬美南の顔を見て何も言えなくなってしまった。
彼女の目が涙で濡れていたからだ。
「…」
彼女は無言のまま、またキスをしてきた。優一は何も言えず、そのまま彼女と―




