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花と女1〜プロローグ〜



 わたしが望んだのは


 こんなものではない

 


「狂ってる……!」

 少年は叫んだ。

 しかし、絞り出したはずのそれは、他人のものであるかのようにかすれ、後を続ける力を奪う。

 室内であるという事実を疑わせる、咲き乱れる深紅の花々。その中央の、植物でかたどられた椅子に、彼女は優雅に座っていた。

 まっすぐに少年を見て、少し首を傾けるように、静かに笑む。

「知ってるわ」

「……!」

 いうべき言葉は見つからなかった。

 ともに暮らす友人たちの顔が、次々に脳裏に去来する。どうすればいいのか。一体どうするのが最善なのか。

 目の前で、女は、ただ微笑んでいた。

 何をするわけでもなく、少年を見つめている。

 黒く、長い髪。黒い瞳。黒い衣装。しかしその爪だけは、赤く塗られている。

魔女だ、と少年は思った。

 この女は、狂った魔女だと。

 血がにじむほどに唇を噛み締め、少年は意を決して走り出した。彼女に背を向け、木製の扉を開け放ち、部屋から飛び出す。

 そうして、走り続けた。

 いまは、逃げ出すしかないと、本能が手足を動かしていた。

 静寂の訪れた室内で、彼女は長い黒髪をかきあげると、足下に咲き乱れる枯れない花を摘んだ。

 そっと花に口づけをし、愛でるように、優しく握りつぶす。

「狂ってる、だって」

 少年の言葉を繰り返し、彼女は唇の端を上げた。

「一体誰が咎められるというの」

笑うように肩を少しふるわせ、彼女は部屋のどこかに控えているはずの、見えない相手に問いかけた。

「ねえ、翠華」

 応えるように、美しい影が音もなく降り立つ。

 彼女は微笑んだ。

「ならばわたしを殺せばいい」


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