エピローグ
と言う事でこの小説は最終話です。
エピローグ
3日後の朝二ノ宮はその日を持って社長を退いた。
演説の件はネットで様々なな脚色や肯定や反論を沢山受けながら。
色々な噂の元ニノミ屋の株は大暴落。
その根源である社長がその責任を取り辞任すると言う事になり、事態は丸く収まったのだ。
正直、上手くいきすぎではないかと思ったり。
敵の涙でも実際に見れば罪悪感を少しは感じずにはいられなかったと言う事もあったが。
俺にはそれを気にするほど余裕はなかった。
理由は本堂の言った復讐を終えた後の身の振り方だ。
俺は迷っていた、俺の無実はすぐに証明されるだろう。
そうなれば表の世界に戻ってこれるはずだ、復学は無理でも自分の家に帰る事ができる。
しかし俺はこの裏の世界での居場所が居心地の良い物となっている事を感じていた。
その課題を考えているせいか、俺を大きな声で呼んでいる聖に気づかなかったので。
「たーかーあーきー! てめぇはなんだ!じじいか!さっきから呼んでも反応しないし
さっきから死んだ魚の目して明後日の方向ばっか見やがって!」
聖に渇を入れられる意味で肩を思いっきり叩かれてしまった。
この女は手加減と言う事を知らないから、非常に痛い。
「ごめん、考え事をしていたんだ。」
「考え事?おまえの馬鹿な脳くそで何が出てくるっていうんだ?」
その台詞おまえだけには言われたくないんだがな。
言うと面倒くさくなりそうなので当たり障りのない事を言って追い払おうと思った時。
「あのさー、孝明とアタイって似てるだろ
多分孝明も同じだと思うけどアタイって考えても中々答えって出ないわけよ
そん時はもう行動をだーんと起こしちゃえばさ、意外と解決するもんだぜ!」
行動か、確かにここでうじうじ考えてても答えなんか出るようには思えない。
俺はしばらく黙って最後の長考をした後ゆっくりと立ち上がった。
「聖、ヒントを有難う、俺行動を起こして自分で答えを見つけてくる。」
「おう、孝明はそうでなくっちゃな!」
「孝明君、君の悩み事は大体の想像がつきます、今の僕に言える事は一つ頑張って下さい」
「孝明!頑張れよ!」
「...しっかりと自分の答えを見つけて来い」
聖だけでなく、何時の間にか鈴木、燈山、霧崎さんまで俺を送り出していた。
最後にあゆみさんも現れてこう言った。
「私も一言言わせてください、いってらっしゃい孝明くん」
俺は全員に見送られこの世界の活動の合図とも言える茜色に染まる町をみながらここを去った。
俺の出した答え次第では、ここに来る事は最後になる。
当然いってらっしゃいと言う言葉を言う以上帰ってきてほしいと言う事なのだろう。
最後のあゆみさんのいってらっしゃいと言う言葉が皆の総意である事を信じて。
俺は電車で2時間近く揺られながら。
元の自分の家の駅にたどり着く。
俺は駅から数分歩き緩やかで長い坂にたどり着く。
この坂を上りきれば自分の家に辿り着く。
回数などすでに分からず上り下りを繰り返しそして子供の頃は父親や孝明と何度も競争をした思い出の場所であった。
この坂を上る事で見える家への少しの期待や懐かしさを噛締めながら。
俺は一歩一歩を大事にして何時もよりゆっくりと家へと辿り着いた。
ここに帰ってくるのは1ヶ月単位でもないのに何故か懐かしい気分だった。
ただ何事もなかったかのように家に入るのは気が引けるので俺は家の反対側に周り。
そこから俺が子供の頃使ってた裏口から庭に入りその庭からリビングを覗き見る事にした。
そこに写っていたのは驚くべき光景だった。
言葉もなければ愛情もない俺の家族がにこやかな笑顔を見せていたのだ。
母親も妹も楽しそうに喋っていた。
俺がいなくなったからこうなった、しかしそれだけでここまで変わるのだろうか。
その疑問はすぐに解決した、窓からギリギリ見える範囲に中年ではあるがとても優しそうな男がいた。
その男の顔ははっきりと覚えていた、母親が父親が死んで再婚をしようとしていた男だった。
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もう何年も前の事になる、中学に上がる前父親は急な心臓病で息を引き取ってしまった。
生前父親はとても無口で厳しい人物だった、俺が悪いことをすれば車に5時間近く閉じ込めたり、口応えすれば思いっきり何度も殴られた事もある。
正直小学校の低学年まで俺は父親が大嫌いだった。
しかし俺が良い事をするととても褒めてくれた、好きなおもちゃもその時だけ買ってくれたし、回転寿司に連れて行って金皿を何枚食べても許してくれた。
小学校の高学年になると俺は父親の良い所に気づいて自分もあんな男になりたいと思うようになった。
勉強は苦手ではあったが俺は統京の私立の大学に階段で行ける中学に今のレベルなら行けるぐらい勉強をした。
しかし親父は中学に上がる前に死んでしまった、俺は失意のまま中学を受験して何とか受かる事はできたが。
親父がいなくなった事へのショックが大きすぎて俺は喜ぶ気にもなれなかった。
親父がいなくなって半年の月日が流れた時、俺は母親が男と一緒にいる姿を目撃した。
それが今俺の目の前にいる男だった。
俺は腹わたが煮えくり返るような気持ちでその場から走り出し。
そしてまだ妹と口が聞けたので俺は妹にその事を話すと。
「ああー、それって松村さんの事でしょ。
お母さんの再婚相手になるかもしれない男の人!私達のお父さんになる人」
「それでも早すぎるだろ、再婚するにしたって!
これじゃあ死んだ父さんが不憫すぎる!」
「何怒ってんの?別にいいじゃない
優しいお父さんがすぐにできるんだよ、あの無口で怖くて仕方ない糞親父じゃなくて
もっと素敵なお父さんが」
その時俺の中で何かが切れた感覚があったのを今でも覚えている。
頭が真っ白になり気づけば俺の手には力がこもり。
「っざけんな!!」
気づいたら俺は妹を思いっきり殴っていた。
全身の力をこめてすべての力を出し切った拳だった。
妹は頭を抑えてすぐに大きな声で泣き出した。
その騒ぎを聞きつけて母親がこちらに来るが、後の展開は誰だって想像がつく。
妹が母親に俺が殴った事をちくれば、当然怒られるのは俺だ。
「どうして殴ったかはどうでもいいの、はやく謝りなさい」
その言葉は更に俺の心についた火を燃え広げるのに十分な薪だった。
火のついた俺は母親さえも思いっきり殴っていた。
「どうでもいいじゃねーんだよ!!全部てめーのせいなんだよ!!
俺は再婚なんてぜってぇみとめねー!!
しらねぇ男が急に上がりこむ事があったら誰でも殴り飛ばすからな!!」
俺のその姿に生きていた親父を見たのか、ただ単に俺が怖かったのか分からないが。
妹は泣きながら自分の部屋に戻り、母親はかける言葉もないまま頭を抑えて家事に戻った。
次の日から妹といざこざが起きるようになり決定的に仲が悪くなる事があったので口も聞かなくなった。
母親も次の日から俺によそよそしく接するようになり、母親が強気になって俺に物を言ったのは
下着泥棒の濡れ衣を着せられたあの日だけの事だった。
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最初から答えなんて分かっていたんだ、口もろくに聞かない、ただいまやいってきますを儀式的に言う家族。
そんな場所に俺の居場所なんてない、それを俺は信じたくないだけだったんだ。
信じたくない事はもう一つあった、父親が死んだ事実。
それに目を背けてずっと一人で二人の子供を養うのは精神的にも肉体的にも辛い母親の気持ちも分からず。
俺はあんな横暴な事をやってしまった、その上妹まで殴ってしまった。
その上俺は父親が死んだ事実へのショックで勝手にやる気をなくして成績もかなり落とし部活にすら入らなかった。
あそこが息苦しい場所になってしまったのは俺のせい他の誰でもない全部俺のわがままでできてしまった世界。
今俺が戻ればここは元に戻ってしまう、せっかく光を取り戻しかけているというのに。
俺はそのまま庭を出てここを去った。
ここには父親と母親と俺と妹の4人で暮らした場所はもうない。
あるのは俺がいなくなる事で回るようになったこの場所だけ。
さよなら、母さ...
いや、さよなら 佐々木さん、千尋ちゃん
自分の家族にこっそりと別れを告げた俺は。
再び坂へ引き返す事になるが先ほどとは違い俺は全速力で走った。
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「パパ!坂を下りきるまで競争しよう!」
「は....はやいよっ!!少しは手加減しろよー!!」
「本堂!競争しようぜ、はーいよーいどん!」
「急に競争を仕掛けて孝章の方が先にスタートしてんのに負けるとかかっこわるっ!」
「うるせー!靴紐がほどけたんだよー!」
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今の俺には競争をする相手は誰もいない。
代わりにあるのは頭に流れてくる子供の頃の懐かしい光景だけだった。
坂道を走り終えた時俺はこの場所Front Sideへのお別れの時だった。
これから俺はReverse Sideへと戻っていく、勿論その中で今みたいに迷う事や困難だって沢山あるだろう。
しかし俺は今ここで選んだこの選択に絶対に後悔しないと言う事は確信していた。
俺はこの町と幻影となった親父の影を追う事への別れを込めて一礼をしてそのまま駅へと戻っていった。
2時間ほど電車に揺られてフォールンアントラーズのアジトについた。
時刻は22時この街ではそこまで遅くはない時間だ。
自分の家にはただいまを言って返してくれる人間はいないが、ここにはいてくれる。
「ただいま!」
俺はそう言って扉を開くと突然大きな破裂音が響いた。
「おかえり!!」
突然の破裂音と皆のおかえりを聞いて何が起こったか分からなかったが。
すぐに平静を取り戻すと状況を理解した。
皆がクラッカーを持ち、オフィスの机には出前頼んだと思われるピザだのスパゲッティだの酒だのジュースなどが並んでいる。
「遅いとか言うなよ!おまえのグループへの入会の歓迎会だぜ!」
「孝明君にばれないように準備をするのはそこそこ労力が要りましたが」
「ちゃんとした歓迎会やってないな~って思って聖ちゃんが企画したんですよ~」
「うぉいっ!アタイじゃねーよ!ただアタイはなんで孝明だけこういう歓迎会やってねーんだって思って」
皆は俺がこれから何処へ行こうとしていたかは大体想像がついていただろう。
だけど皆は俺が帰ってくる事を信じていた、そしてこんな催しも企画してくれていた。
「孝明君、二ノ宮の復讐の準備で忙しくて歓迎会が遅れてすまない。
お詫びと言ってはなんだが、今回は二ノ宮への復讐成功の打ち上げもかねているので
料理は出前ではあるが沢山用意してある、好きなだけ食べてくれ」
と霧崎さんが俺に説明するとすぐに聖が割り込んで。
「酒も浴びるほど飲めるぜー!」
「聖....おまえは飲みすぎるな、若い頃は良いがちゃんと休肝日も作れよ
後おまえそもそも法律で未成年は.......」
「う~い」
霧崎さんの注意を聖は馬耳東風してる事は誰でも分かるとして。
俺はそのまま主役席である真ん中の椅子に座る。
そしてあゆみさんが酒を全員に注ぎ終わると。
主役である俺に一言をお願いしたいと言わんばかりの視線が集まったので。
「今日は俺のために、歓迎会を開いてくれて有難うございます
そして祝打倒二ノ宮の打ち上げとして皆さん今日は楽しみましょう
乾杯!」
「かんぱーい!!」
乾杯の合図とともに歓迎会も兼ねた打ち上げが始まり。
聖は相変わらず酒に酔い、本音をぶちまけているが.......。
「聖ちゃん今だから聞きますけど~孝明君の事どう思ってますか?」
「たかあきかぁ~あいつはアタイと似てるしぃ~すっげぇいいやつだから
だいすきだぜぇ!嫁にしてぇ~」
「だそうですよ~嫁になりますか孝明君~」
「いや...その...えーと」
いや完璧に酔ってるし、まぁ酔ってる時の言葉こそ本当って聞くけど。
聖の嫁か、確かに絶対聖と結婚したら尻にひかれそうだからな。
俺が聖を嫁にすると言う表現は間違ってるかも。
「孝明君!見てください僕の上半身を!美しいとは思いませんか」
気がつくと鈴木は既に上半身裸だ。
今日はめでたいので、女性陣もどうやら下を脱がなければ許してくれると言う事らしい。
聖は酔ってて気にしないし、あゆみさんも気にする人じゃないだろうしな。
「それで聖さんにもらわれちゃうんですか~」
「う~ん」
「私の上半身はスルーなのですか!」
「いっそあゆみさんを嫁にするって選択肢はないですかね?」
「いやぁん~孝明君ったらこんな叔母さん褒めても何も出ないですよぉ~」
あゆみさんは身を捩りながら悶えている、この人母親みたいに思える時もあれば。
本当に自分と年代が変わらないように見えるときがあるから不思議だ。
「孝明君...君のおかげでここはもっと賑やかになった気がするよ...有難う」
と霧崎さんが急に真面目にお礼を言ってきたが。
「どういたしまして、それなら霧崎さんももっと楽しみましょうよ
ほら霧崎さんって外から見守ってくれてるって感じで中で楽しんでるところ見た事ないですから」
「それもそうだな、私も昔歌った演歌を歌うとしようか....」
そこからは霧崎さんの歌を聞いたり、燈山が愚痴を言って場をしらけさせて鈴木が嫌味を言う事で笑いが起きたり。
後の事は酒も回ってきて良く覚えてはいないが、楽しかったのだろう。
こうして俺は非常に賑やかで楽しい時間を過ごした。
ここが俺の居場所なんだと言う事を再認識させられる時間だった。
それから俺は1ヶ月のお試し期間を終え、仕事を始めた。
仕事内容は、麻雀と風俗とフォールンアントラーズのアジトの掃除や食料の管理だ。
これだけやるのは大変だが麻雀と風俗は補欠要員扱いでやっているので何とかなっている。
麻雀は少しずつだが聖に教えられ上達している。
風俗は少しずつ客の女性から指名される頻度も多くなってきている。
二ノ宮に奈落の底に落とされる前の日までの自分よりずっと一生懸命に日々真剣に生きていると言う自信もできた。
勿論フォールンアントラーズ内の付き合いも忘れず昔よりもっと深いものになっている。
後は本堂とも会える時間を作りたいがもう少し先になりそうだ。
俺はこんな世界でも充実した日々を送っていた。
これでこのお話はおしまいだ。
だが俺は思う事がある、人間誰でも自分が不幸である時
この世界で自分が一番不幸だと思える生き物だ、俺だってそうだった。
しかし不幸と言う事を言い訳にして何となく生きるのは一番損な生き方だ。
おまえは自分の不幸を言い訳にして何となく生きてしまっていると感じてはいないか?
俺はどん底から更に下に落ちる事で俺はこの意味を理解した、きっかけは何でも良い。
もしおまえが何となく生きていると感じているならどんな事でもいい、堂々と言える事でなくてもいい、くだらない事でもいい。
自分に合う場所で自分のやりたい事思う存分やって、自分がこの世で一番幸せだと思って生きろ。
それが他人から見て笑われても不幸でも馬鹿やってると思われても気にするな。
俺はfront sideからreverse sideへと身を落とし傍から見れば悲劇の少年であるかもしれないがこれだけは言える。
生きていて良かった、俺は世界で一番幸せ者だと。
終わり。
書き上げる事がとりあえずの目的だったので(これって長編や中編だと意外と難しいのよ)
長すぎかと言って短すぎるのはどうかと思いプロローグ+エピローグ+7~9話を目安としていました。
SWEETSはこう言った最初は暗すぎると言われても仕方ない作風が好きなので。
暗すぎてつまらんかったって意見もあるかもしれません、かと言って明るい内容だと気合が入らないせいかすぐ飽きる傾向にあるんですよね(汗




