第1話
さて退学をさせられてしまった孝章君はどうなるのか。
プロローグを見て気に入った方は読んでください。
一応登場人物をまとめておきます。
登場人物の紹介
佐々木 孝章
物語の主人公、家族に愛されず基本ほぼ全てにおいて負け組。
周りからは変態と言う認識が強く、趣味はAV鑑賞。
プロローグで沙港高校を退学させられた。
本堂 祐樹
孝章の幼馴染で、孝章を煽る事も多いが基本的には良き友人。
二ノ宮 真衣
父親が大会社社長、母親がPTA会長のお嬢様。
孝章を下着泥棒事件の犯人と告発した。
二ノ宮 剛三 大会社カップラーメンやインスタント食品で大もうけした
『ニノミ屋』の社長、真衣は娘。
佐々木 千尋
孝章の事を照れ隠し等一切なしで本気で嫌って避けている妹。
フォールンアントラーズの仲間達
霧崎 優実
聖(苗字不明)
鈴木 次郎
第1話
その後の俺の人生の転落の仕方は、坂道を自転車で滑り降りるくらい早かった。
母親は編入等は一切させないと言い切り、俺にこれから自活するにはたりない金を渡し。
後は自活して頑張ってくれと言い、俺はこの家を去った。
母親、妹も俺の言う事を信じず、俺は家族からも最低な扱いを受けたのだ。
夜の真宿のいわゆる風俗街は非常に活発だった。
俺は裏路地で座り込み、今後の事を考えた。
アパートを借りて、バイトするにはこの手持ちのお金だと難しい。
家賃滞納で追い出される将来が目に見える。
かと言って田舎に行くにしても土地感が全くないので生きていけるか運任せである。
路地裏から見える汚い大人の世界の光景はいかにも金が服を着て歩いてるような
非常に豪華なスーツに身に纏う太った男に群がる、その部下と思われる男とキャバ嬢が数人。
2日飲み食いしていない俺の体は限界に近かった、腹を満たすには手持ちの金が減る、少ないお金が減ってしまう。
ここで奴の財布を盗んでやる、失敗しても務所で食える飯がある。
年末によくありそうな犯行動機を考えていたその時横から突然声を掛けられた。
「佐々木孝章君だね.....。」
低く小さな声で自分を呼ぶ、おじさんの存在に驚く。
そのおじさんはスーツ姿だが、先ほどの成金とは違い、髪も白髪の比率が上がっている最中なのかバーコードになりかけていて。
スーツ自体は立派なものではないし、よく見ると一番下のボタンが他のボタンと違う色をしていた。
「おじさんは何者ですか」
突然現れたおじさんに流石に警戒心を強めないほど馬鹿ではない。
すると、おじさんは俺の質問には答えず。
「君も二ノ宮にはめられたんだろ.....」
二ノ宮.....。その名前を忘れもしない。
5日前俺の人生悪い意味で変えた女の苗字。
しかしはめられたの意味が分からない、そしてこのおじさんの目的も。
「ここから10分の距離に私の本拠地がある、話だけでも聞いてくれるなら来てくれないか.....。」
罠なのか何を企んでいるのか全く分からないが。
おじさんの口から二ノ宮の事が出たと言う事はもしかしたら事件の真実が分かるかも知れない。
「正直おじさんの真意、言葉が足りないせいかさっぱり何も分かりませんが、話だけなら聞きます」
「すまないね.....。詳しい事は例え人通りのない所でも用心して話せないから....。」
もう自分には後がない、ここで何もしなかったらゲームオーバー、だったら何かをしなくてはならない。
俺はその考えの基でこのおじさんの言葉を素直に聞く事にした。
知らない男の本拠地へホイホイ付いていくほど俺には余裕がなかったのだ。
そこから10分程度の距離で、ゲーセンの上の立ち入り禁止の印のある階段を上り。
その先にある部屋へと案内された。
「少し歩かせ過ぎてしまったかね...ここが私の本拠地だ」
そういって社長が戸をゆっくりと開ける。
そこは会社のオフィスの様な光景だった。
机が数台並びそこにPCやファイル等が置かれており。
眼鏡をかけた若い男が、周りの様子を全く気にせずPCに何かを打ち込んでいる様子が見える。
奥の大きな席は恐らくこのおじさんの席だろう。
唯一、この光景に似合わないのは髪を金に染めた女子高生の格好しているのか、女子高生なのかわからない女が
ソファで酒を散らかしながら酔って寝ている事ぐらいだ。
「こら、聖....お客様が来るかもしれないと2日前から言ってだろう」
「あぁっ!るっせーなぁこぉのバーコードのできそこないぐぁ....ヒック....」
酒で顔を真っ赤にして呂律も回らない状態で応答するが、これはそっとしておくのが一番ではないだろうか。
それにしても聖と言う名前がお世辞にも似合うと言える女性ではない。
恐らく何もしなければ美人と言える位顔は整っているが、酒のせいで台無しにしてしまっている。
「すみませんね、お恥ずかしい所を....おい!鈴木お客様だぞ」
「これを計算してこっちに移して....。
おっと失礼!来訪には気づいていましたが手が離せなかった。
私は鈴木次郎と申します。」
眼鏡をかけていて真面目な印象、この見た目通りPCのスキルも高そうである。
その上名前が鈴木次郎と言うよくありそうな名前、逆にここまでテンプレとも呼べる名前が実際についてるのは少ないのではないだろうか。
「すまない自己紹介が遅れたね、私は霧崎優実だ、名前だけ聞くと女性と思うかもしれないな
もう2人いるんだが、2人は仕事に出かけていてね今はこの3人だ」
この事からここにいるメンバーは。
髪が白黒混じりのバーコードのおっさんでありながら霧崎優実と言う名前のおっさん、強調するけどおっさん。
酒飲んでベロベロになっている聖と言う名前の似合わない女。
気になる特徴はないが、テンプレ過ぎるのが逆に珍しい鈴木次郎。
そして恐らく夜の街で仕事をしている残りの2人のメンバー。
「私のことは霧崎と読んでくれると助かるよ。
優実と呼ばれるのは誤解を招くから......。」
オフィスに連れられてから頭の整理ができていないので整理しよう。
ここには3人の名前がおかしい男女がいて。
彼らはもしかしたら、俺がどうしてこんな事になったのか知っているかもしれない。
二ノ宮にはめられたの言葉の真意が何か、霧崎の目的は何か聞いておきたい。
そして2日飯にありつけていないので、頭の整理より体には腹ごしらえが大切だと言うかのように腹が鳴ってしまう。
「君お腹がすいているんじゃないか...。
カップラーメンで良ければ君の後ろのダンボールに入っている
味も君の好きなのを選んで良いからそれで腹ごしらえしながら話をしよう」
俺は行儀が悪いと知りながら走ってダンボールに向かい
味もテキトーに取ったシーフード味を取り、お湯を入れ3分待つ。
3分待つ間腹の虫が暴れまわっていたが、そのカップラーメンは今まで食べたカップラーメンの中で一番美味しかったような気がした。
「霧崎さん、そのちゃんと話をしてくれませんか、俺に分かる様に一から」
「うむ、そのつもりで呼んだのだからしっかり話そう。
君は二ノ宮家のお嬢様の下着を奪った事で沙港高校を退学になった事実を聞いた。
勿論それは君がやったわけではない、間違いないかな」
「はい、間違いありません、俺はやってません」
誰も信じてくれなかったのに信じてくれる人の存在に喜びを感じたが
その喜びを噛み締める間もなく、霧崎は表情も変えずにさっさと話を進める。
「ではその際何か不審な点に気づかなかったか........。
たとえば.....その下着えらく新品だと思ったりしなかったか?」
俺はその言葉にハッとなる。
あの白いレースの下着、今思えば新品に見えた気がする。
よく下着のコーナーを覗いたり、AVで脱ぎ捨てた下着も確認してしまうので
感覚的な話になるが、俺の見立てではあれは新品又は使って1日~2日のものだ。
しかしここでそのままの事を言ってしまえば、心証を悪くしかねないので。
「もしかしたらそうかもしれません、証拠はないですけど」
「そうかしかし私は確信している、二ノ宮が君をはめた事
下着もいくら人を陥れるためとは言え、自分の履いてる下着を使う必要はない
周りが奪ったと思い、学校に権力が回るならいくらでも誤魔化す事はできるからだ
だから新品の下着を君の鞄にしのばせ、君をはめた私はそう確信している」
と言う事は事件は二ノ宮の自作自演と言う事になる。
しかし何で俺をそんな目に会うことに、俺は彼女に授業で寝ている事を怒られた事や授業をサボった事を注意された事はあったが。
その事を原因で彼女に何かした事もないし、その場では謝っていた。
「何故僕を二ノ宮が陥れるんですか、俺は彼女に何もしていません」
「二ノ宮はな臭いものに蓋をする......。
臭いものは蓋をして存在ごと社会的に消してしまうんだ。
彼女はクラス委員で君はクラスでも浮いた存在だったそうだね」
「そんな直接的に言われると......、そうですけどまさか俺が浮いた存在だから」
「彼女は自分のクラスに君みたいな男がいるのが許せなかった。
だから臭いものに蓋をした、君は素行も悪く授業を休む事もあったそうだね」
正直、それだけの理由で人を陥れましてや退学にしようとするなんて信じられなかった。
しかし二ノ宮が犯人なら全ての筋が通る、霧崎が間違った事を言ってる様にも思えない。
何を信じて良いのか、様々な考えが頭を交錯していた時。
「最初に言ったが、私も二ノ宮にはめられた。
私は彼の会社の社員だった、出世し社内でも力を持つ様になり
二ノ宮剛三、あのお嬢さんの父親だが彼に目をつけられてね。
自作自演の会社の機密事項漏洩事件を作り、その犯人に仕立て上げられ
会社を首にされ、妻も娘も失った、娘は生きていれば君と同じぐらいの歳だろうな....。」
霧崎も、自分の居場所を追い出され、家族にも信じて貰えず俺と同じ状況に。
いや、ここにいる全員が皆同じ様に二ノ宮にはめられたと思って良いだろう。
この時俺はここに呼ばれた理由を理解した。
「二ノ宮は気に入らない物は簡単に排除できる。
今の私たちの事はそのへんの蟻くらいにしか考えていないだろう。
私はこの全員で協力してこの世界を生きていき
そしてこの蟻の集まりで、必ず二ノ宮家を失脚させたい。
佐々木 孝章!君の力を貸してくれないか」
霧崎、いや霧崎さんは俺に向けてそっと手を差し伸べる。
その手を取れば間違いなく俺の人生は変わる。
迷うことなく俺は霧崎さんの手を取り、痛くない程度に力強く握る。
霧崎さんも俺も二ノ宮に人生を破滅させられた、このまま黙って二ノ宮の悪行を見ているわけにはいかない。
独りでいても破滅しかない、ならば俺はこの人のことを信じたい。
「俺で力になれるか分かりませんが、宜しくお願いします」
霧崎さんは俺の返答に笑顔と握り返す事を返した。
こうして蟻の集まりでしかない、本当にちっぽけな男女数名の
サバイバルと復讐劇が幕を開けた。
第2話に続く