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元Sランクの俺、今は底辺ダンジョン配信者ですが、三年前の事故現場に戻ったら突き落とされ、最強の力に目覚めました  作者: 水源


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氷雪のMA

 セナのMAによる実地試験と、ガルム、フェンリルとの戦闘を終えて数日後。


 俺は隔離施設の共用スペースで、セナと神代と一緒に、例の釈明配信のアーカイブを見返していた。


 いや、正確には見返していたのは俺とセナで、神代は端末で別の資料を確認している。


『トリニティ・バーストの開発はいつですか?』


『神代「私もMAが必要ね」』


『黒瀬、逃げ場なしwww』


「……誰だよ、こんな話を広めたの」


 俺は画面を見ながら、思わず頭を抱えた。


「まあまあ。トリニティ・バースト、いい名前だと思うけどな」


 セナが楽しそうに言う。


「いや、名前はともかく、そもそもまだ存在しない技だからな?」


「でも、三人の能力を組み合わせるという考え方自体は合理的でしょう?」


 神代が端末から目を離さずに言った。


「……え?」


 俺は、ゆっくりと彼女のほうを振り向いた。


「何かしら?」


「いや、まさか本当に検討してるのか?」


「当然よ。ガルムとフェンリルとの戦闘を見れば、三人で役割分担をすることには意味があると分かるでしょう」


 神代は端末を操作し、戦闘映像を呼び出した。


「黒瀬は武装の種類が多く、状況に応じて攻撃手段を切り替えられる。セナはMAによって身体能力と防御力を強化できる。私は相手の動きを一時的に拘束できるけれど、身体能力そのものは二人ほど高くない」


「まあ、そうだな」


「なら、私にもMAがあれば、できることが増えるわ」


 あまりにも自然な口調だった。


「……そうすると、私もMAが必要ね」


 数日前の配信で視聴者が冗談半分に書き込んだ言葉が、本人の口からそのまま飛び出した。


「やっぱり本当に言った!」


 俺は思わず声を上げた。


「何を驚いているの?」


「いや、だって、そこは冗談で終わるところだろ!」


「戦闘能力を補う装備が必要だという話に、冗談も何もないでしょう」


「それはそうなんだけどさ……」


 隣のセナは、なぜか嬉しそうだった。


「神代さんもMAを使うなら、三人で連携技の練習ができますね!」


「そうね。まずは実現可能性の確認が必要だけれど」


「ちょっと待て。もう練習する前提なのか?」


 俺の疑問は、二人とも聞かなかったことにしたらしい。


     ◇


 翌日。


 隔離施設内の試験区画に、ウォッチャーズの御堂がやってきた。


 もっとも、彼が来たのは俺たちの冗談を聞いたからではない。


 神代が正式にMAの試験運用について問い合わせたところ、ウォッチャーズ側も彼女の能力とMAの組み合わせに興味を示したのだという。


「神代さんの眼の能力は、非常に特殊です。相手の行動を一時的に制限できる一方、発動条件や対象との相性には制約がある。そこへ遠距離からの攻撃や行動阻害を組み合わせれば、戦術の幅が広がる可能性があります」


 御堂は、試験区画の中央に設置された装備ケースを示した。


「こちらが今回、調整した試作MAです。近接戦闘を主眼とするセナさんの機体とは異なり、遠距離攻撃と戦場の制圧に重点を置いています」


「私の能力との相性を考慮した、ということですか?」


「はい。もちろん、実際にどの程度の効果が得られるかは、装着してみなければ分かりません。適合性も制御も、現時点では保証できません」


 御堂は率直に答えた。


「それでも試してみる価値はある、と?」


「少なくとも、私たちはそう考えています。神代さんの能力とMAを組み合わせた場合、どのような相乗効果が生まれるのか。研究対象としても、非常に興味深いものですから」


 人類を守るため、とは言わない。


 ウォッチャーズは、あくまでも自分たちが得られる情報と研究上の価値を見ている。


 とはいえ、危険性を隠して無理に装着させようとしているわけでもない。神代自身が判断できるだけの情報は提示している。


 そこが、この組織の厄介なところだった。


「装着試験は、この区画内で行います。異常があれば即座に中止し、必要に応じて装備を解除します。ただし、適合に問題がなくても、実戦で同じように制御できるとは限りません」


「分かりました。それでお願いします」


 神代は迷いなく答えた。


「念のため確認しますが、装着中は身体の変化や感覚の異常を記録することになります。それでも構いませんか?」


「問題ありません。必要な検査なのでしょう?」


「はい。ありがとうございます」


 御堂がうなずく。


 セナは緊張した様子で神代を見守っていたが、本人はいつもどおり落ち着いていた。


「では、始めましょう」


     ◇


 試験区画の中央に置かれたケースが開かれた。


 中に収められていたのは、青白い光を帯びた結晶だった。


 セナのMAと同じように、通常時は小さな結晶の形で保管されているらしい。


 神代が結晶を手に取る。


 その瞬間、表面に淡い光が走った。


「起動条件はセナさんの機体と同じです。結晶を保持し、起動を宣言してください」


「分かりました」


 神代は結晶を胸元へ掲げた。


「MA、装着 変身」


 光が弾けた。


 青白い粒子が彼女の身体を包み込み、四肢から順に装甲が展開していく。


 まず現れたのは、白と淡い氷青を基調とした細身の装甲だった。肩や腰には透き通るような装甲板が重なり、背中には翼を思わせる複数のフィンが広がっている。


 腕の外側には、結晶のような部品が浮かぶように配置されていた。腰回りには長い布を思わせる装甲が幾重にも重なり、動くたびに淡い光を反射する。


 頭部を覆う装甲も、セナのMAとは対照的だった。


 鋭いアンテナや大きな装飾ではなく、氷の冠を思わせる繊細な造形。全体として、戦闘用の装甲というより、氷雪を操る精霊か、冬の世界から現れた天使のような印象がある。


「……おお」


 思わず声が漏れた。


 セナのMAが白とピンクを基調とした華やかな近接戦闘型なら、こちらは白と氷青を基調とした優雅な遠距離支援型だ。


 同じMAでも、ずいぶん方向性が違う。


「適合状態を確認。初期制御に異常は見られません」


 御堂がモニターを確認する。


「神代さん、身体に違和感はありませんか?」


「今のところ問題ありません。動作も通常どおり可能です」


 神代は腕を曲げ、手を開閉した。


 背中のフィンが、彼女の動きに合わせてわずかに角度を変える。


「……これ、飛べるのか?」


 俺は思わず尋ねた。


「まだ分かりません。現時点では、浮遊や飛行に関する機能は確認されていません」


 御堂が答える。


「そうか……」


 少し残念だった。


 いや、別に俺が飛びたいわけではない。背中にあれだけ翼っぽいものが付いていると、つい期待してしまうだけだ。


「黒瀬さん、今、少し残念そうな顔をしていませんでしたか?」


「してないしてない」


「そうですか?」


 セナが首を傾げる。


 俺は視線を逸らした。


     ◇


 続いて、装備の基本性能を確認することになった。


 試験区画の奥に、複数の標的が設置される。移動する小型ドローンと、一定の耐久性を持つ訓練用の標的だ。


「まずは遠距離攻撃から試します。神代さん、前方の標的を狙ってください」


「分かりました」


 神代が右手を前へ向ける。


 手の周囲に、淡い青色の光が集まった。


 その光は小さな結晶のような形へ変化し、数秒のうちに複数の氷片を形成していく。


「……氷?」


 俺がつぶやいた直後、氷片が一斉に放たれた。


 鋭い軌道を描いた氷の弾丸が、標的へと飛んでいく。


 先頭の標的に命中。続いて二つ目、三つ目にも氷片が突き刺さった。


 標的の表面が凍りつき、動作を停止する。


「おお、すごいな」


 セナが目を輝かせた。


「遠距離から複数の標的を狙えるんですね」


「そうですね。攻撃の射程と同時制御数は、こちらの想定どおりです」


 御堂が記録を確認する。


 神代は、続いて別の標的へ手を向けた。


 今度は氷片ではなく、細長い氷の槍が形成された。


 放たれた槍は一直線に飛び、訓練用の標的を貫く。そのまま後方の防護板にぶつかり、砕け散った。


「威力も十分ね」


 神代が淡々と評価する。


「近接戦闘を主体としない機体としては、かなり扱いやすそうです」


「ただし、出力を上げれば消費エネルギーも増えます。連続して使用できる回数には制限がありますから、そこは注意してください」


「了解しました」


 俺は標的の状態を見ながら、腕を組んだ。


 氷の弾丸に氷の槍。


 見た目は魔法そのものだが、これはMAによる攻撃だ。セナのハートビームと同じく、兵装に組み込まれた機能なのだろう。


 もっとも、神代の場合は、もともと相手の動きを制限できる眼の能力を持っている。


 そこに遠距離攻撃まで加わるとなると、かなり厄介な相手になりそうだ。


「次は、足止め機能を確認しましょう」


 御堂が別の標的を指定した。


 神代は再び手をかざす。


 今度は標的の足元に青白い光が広がり、床が一瞬で凍りついた。そこから氷の蔓のようなものが伸び、標的の脚部へ絡みついていく。


 標的が動こうとするが、脚部の駆動が阻害され、前進できない。


「拘束性能もあるのか」


「ええ。完全に動きを止められるとは限りませんが、相手の移動を妨害することはできます」


 御堂が説明した。


「氷による直接攻撃だけでなく、移動制限や足止めを組み合わせることで、味方が攻撃しやすい状況を作れます」


「私の眼の能力と組み合わせれば、さらに長い時間、相手の動きを封じられるかもしれませんね」


 神代が言った。


「その可能性はあります。ただ、実際にどの程度の効果が得られるかは、対象の特性や能力にも左右されるでしょう」


「当然です。過信するつもりはありません」


 神代は標的を見つめた。


 すでに、どのように戦闘へ組み込むか考えているらしい。


     ◇


「最後に、視界妨害機能を試しましょう」


 御堂の指示で、試験区画の照明が少し落とされた。


 神代は手を広げる。


 すると、周囲に細かな氷の粒が舞い始めた。


 雪のような粒子が空間を漂い、やがて濃い白い霧となって広がっていく。


「うわっ、真っ白だ……!」


 目の前の標的が、あっという間に見えなくなった。


 照明の光が氷の粒子に乱反射し、区画全体が白く霞んでいる。人間の目だけでなく、光学センサーを搭載したドローンも、映像を乱されて動きを鈍らせた。


 数秒後、神代が手を下ろすと、粒子がゆっくり消えていく。


「視界妨害用の機能ですね」


「はい。氷雪粒子を散布し、光を乱反射させることで視認性を低下させます。相手の視界やセンサーを妨害し、その間に距離を取ったり、味方が攻撃する隙を作ったりできます」


「目眩ましにもなるわけか」


「ただし、味方の視界も悪くなります。使用する位置や範囲には注意が必要です」


 御堂の説明に、神代はうなずいた。


「味方の位置を把握してから使えば、使いどころはあるでしょう。特に、こちらの位置を相手に悟られたくないときや、敵の攻撃を一度切りたいときには有効そうです」


「黒瀬さんなら、霧の中からブースターで突っ込んでいきそうですね」


 セナが何気なく言った。


「いや、そんな危ないことしないからな?」


「前に氷の床で滑って、壁にぶつかっていましたよね?」


「それはフェンリルが作った氷が悪い!」


「今回も床が凍ったら、同じことになりませんか?」


「……気をつけます」


 俺が素直に答えると、セナは笑った。


 神代は、そんな俺たちのやり取りを聞きながら、静かに腕を下ろした。


「この装備、思った以上に私向きね」


「そうですね。遠距離からの攻撃、足止め、視界妨害。どれも、あなたの能力と組み合わせやすい機能です」


 御堂が答えた。


「もちろん、試験は始まったばかりです。実戦でどこまで通用するか、継続的にデータを取る必要があります」


「分かっています。まずは制御と、各機能の消費エネルギーを把握するところからですね」


 神代は、すでに次の検証項目まで考えているらしい。


 俺はその横顔を見ながら、ふと思った。


 これまでの神代は、特殊な眼の力を使って俺たちを援護してくれていた。


 だが、その能力にも限界はある。動きを止められない相手もいれば、能力を使う隙そのものを与えてくれない相手もいる。


 そこにMAが加われば、彼女が取れる選択肢は確実に増える。


 ガルムとフェンリルのような相手と戦うときも、ただ一瞬の隙を作るだけではなく、遠距離から攻撃し、足を止め、視界を奪い、味方が攻撃できる状況を作り出せる。


 俺やセナとは違う方向で、戦闘の中心を担えるようになるかもしれない。


「どうしたの、黒瀬?」


「いや。神代も、ずいぶん頼もしくなりそうだなと思って」


「今までも、必要な仕事はしていたつもりだけれど?」


「そういう意味じゃないって」


「なら、どういう意味?」


「……うまく説明できない」


 神代は少しだけ首を傾げたが、それ以上は追及してこなかった。


 俺も、何となく言葉にできなかったのだ。


 ただ、これまでとは違う戦い方ができるようになる。


 それだけは、はっきりしていた。


     ◇


 試験終了後、神代はMAを解除した。


 青白い光が収束し、全身を覆っていた装甲が結晶へと戻っていく。


 解除後の身体検査でも、明確な異常は確認されなかった。


 もっとも、まだ初回の試験だ。適合性に問題がないと判断するには、継続的な検証が必要になる。


「神代さん。今後も段階的に試験を進めたいと考えています。よろしいですか?」


「ええ。こちらとしても、実戦で使用するなら性能を正確に把握しておく必要があります」


「ありがとうございます。では、次回までに本日のデータをまとめておきます」


 御堂が退出したあと、俺たちは試験区画を出た。


「どうだった、神代さん?」


 セナが尋ねる。


「悪くないわ。まだ制御に慣れる必要はあるけれど、遠距離から攻撃できるのは大きい。足止めや視界妨害も、状況によっては役に立つでしょうね」


「これで三人の連携も、もっと強くなりそうですね!」


「そうね。黒瀬が敵の注意を引きつけ、私が足止めや拘束を行い、セナが決定打を与える。状況次第では、逆の順序にすることもできるわ」


「……なんか、本当に合体攻撃を作る気になってないか?」


 俺が尋ねると、神代は不思議そうな顔をした。


「作る価値はあるでしょう?」


「いや、まあ……そうなんだけど」


「トリニティ・バースト、楽しみですね!」


 セナはすでに技名まで決めている。


 神代も否定しなかった。


「まずは、三人の能力を組み合わせたときの効果を検証しましょう。技名は、そのあとで考えればいいわ」


「そこは否定しないんだな……」


 俺は深いため息を吐いた。


 視聴者の冗談から始まった話だったはずなのに、気がつけば三人目のMAまで本当に動き出している。


 しかも、神代は見た目や名前にこだわることなく、性能と戦術の話を進めている。


 これでは、俺がいくら反対しても意味がないだろう。


 ……いや、別に反対する理由があるわけでもないんだけどさ。


 俺は自分の考えがまとまらないまま、二人の後を追った。


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