余計なお世話
すると、それをレグルス様が軽くかわした。
「騙されていようが、どうでもいい。俺にもルルノア嬢にも、君のことは関係のないことだ」
「そ、そんな……」
項垂れたシアンさん。エドガー様は、立ちつくしたままで動かなくなった。伯爵になれないショックが大きすぎたみたいだ。そして、ゆっくりと私に向かって首を回した。
「ルルノア……ウソだろう?」
「ウソではありませんわ」
エドガー様が呆然として言う。
「でも、私もここに住んでいて……」
シアン様が震えながら言う。
「もう出て行ってもらいます。このエルドウィス伯爵家の当主はレグルス様になりますので……滞在の許可はレグルス様にお願いします」
「だ、だが、私との結婚はっ……」
「その婚約を破棄したのは、エドガー様ですわ」
「そ、そんな……」
今さら婚約破棄を後悔しても遅い。私に見向きもしなくて、遊び惚けて、しまいには女性を連れ込んで、婚約破棄をしたのはエドガー様なのだ。
「わ、私は認めないからな!! ルルノアだって婚約破棄をする気がないだろう!! 次の結婚だって決まってないではないか! 婚約破棄をした女なんか、すぐには結婚できないぞ!」
そんなことはわかっている。婚約破棄をすれば、新しい結婚などすぐに決まるとも思えない。
「ルルノア!!」
「キャッ……」
感情のままに手を伸ばしてくるエドガー様に驚いた。浮気をしても乱暴な方ではなかったのだ。咄嗟のことに、避けようとして足がもつれてしまい身体がぐらついた。
倒れると思うと、自分の身体が大きくて逞しい腕が私を支えた。
「……先ほどから、ごちゃごちゃと……」
レグルス様が、私を腕に絡めたままで呟いている。不機嫌そのものの様子に声がかけられない。エドガー様は、レグルス様の淀んだ、そのうえ威圧感のある雰囲気にびくりと身体を震わせて怖気づいた。
「もう用はない。さっさと下がれ。ルルノアにも近づくな」
冷酷な瞳で見据えるレグルス様の迫力に、エドガー様が勝てるわけもないまま、シアンさんと一緒にレグルス様の部下に囲まれた。
「どうせ、すぐに泣きついてくる……っ、ルルノアとの結婚は先代が決めたんだ。美人でもないルルノアに、そのうえ、婚約破棄した女なんかいい縁談などない」
自嘲気味な歪んだ表情で、憎々しく私を見て呟くエドガー様。わかっている。エドガー様以外に、私は付き合ったことも好意を寄せられたこともないのだ。
だから、私が結婚できずにエドガー様に縋ると思っているけど……そんなことはしない。私にだってプライドはあるのだ。
「余計なお世話だ。俺がルルノアをもらう」
「なっ……!」




