性格悪くてけっこう
結婚に反対されていると勘違いしたエドガー様が、感情のままに手を振りかざした。その瞬間、レグルス様がエドガー様の腕を掴んだ。
さすが竜騎士様。咄嗟のことなのに、エドガー様の動きを一瞬で制している。
「女性に手を上げるのは感心しない」
「黙れ! 伯爵に手を上げるなどっ……」
「……本当に手紙を読んでないのだな……」
レグルス様が私を見下ろして言う。背が高すぎて見上げないと、彼と目線が合わないけれど、彼の言葉に頷いた。
「困った方です。あれほど、後継者に関わる大事な手紙だと言ったのに……」
「あとで読む」と言って手紙を読まないエドガー様。せめて私が説明しようとしても、「いちいちうるさい」と言って遊び惚けていた。
遊びに行くエドガー様の邸を訪ねても、「不在でして……」と言われて、会えなかった。居留守も使っていたことだろう。
私はずっと浮気も知っていたのだ。
そして、やっとジョシュア殿下来訪の前日にシアンさんを連れてやって来た。
まぁ、どうせ当日になればわかることだから、と思っていたけど……。
「エドガー様」
「なんだ!」
やけくそ混じりでエドガー様が返事をした。
レグルス様がエドガー様の手を離す。エドガー様は、掴まれていた腕が痛かったのか腕をさすった。
「エルドウィス伯爵の後継者は、こちらのレグルス様です」
「……」
「聞いてますか?」
「……えっ」
「もう一度言いますね。こちらのレグルス様が、エルドウィス伯爵家の後継者です」
「そ、そんなはずはっ! エルドウィス伯爵家に一番近い血筋の親類は私だったはずだ!!」
突然のことにエドガー様が狼狽えるけど、事実は事実。だから、あれほど手紙を読めと言ったのに。
「それが、エドガー様よりも近い血筋の後継者が見つかりましたの。だから、手紙を読めと何度も言いましたのに……」
はぁ……とため息交じりで言うと、エドガー様が青ざめていく。
「正確には、エドガー様と同等ほどの順番でしたが、婚約破棄をした時点でエドガー様は後継者から外れてしまいましたの」
「じゃあ……私は……エルドウィス伯爵には……」
「なれるわけないじゃないですか。あなたは、ただの親類です。爵位はありません」
力なく青ざめたエドガー様がレグルス様を見る。今にもエドガー様は倒れそうだった。
「ちょっと待ってよ!!」
「何ですか? シアンさん」
「じゃあ、エドガー様は、誰なのよ!!」
「エドガー様は、エドガー様ですよ?」
「そ、そうじゃなくて……っ結婚はどうなるのよ!」
シアンさんまで、狼狽えている。
「だから、結婚は好きにすればいいじゃないですか。そう何度も言いましたわ。エドガー様が誰と結婚しようと、エルドウィス伯爵家には関係ありません。貴族だろうが、平民だろうが、お好きになさってください。ちなみにお茶もお好きになさってください。エドガー様の隣はシアンさんのものですわ」
にこりと笑顔で言う。
「せ、性格悪いわよ!!」
「性格悪くてけっこうですわ」
元々は話を聞かないエドガー様が悪いのです。フンと腕を組んで言うと、シアンさんはわなわなとスカートを握りしめる。
「とにかく、殿下が来ているんだ。君は下がりなさい。謁見を許した覚えはない」
「そ、そんな……私は、エドガー様に騙されたのですわ!!」
涙目を浮かべてレグルス様に抱き着こうとした。




