殿下到着
__翌日。
ストレウシス王国の殿下であるジョシュア様が到着した。
エルドウィス伯爵邸では、殿下を迎え入れるために、玄関外に使用人も含めた邸の人間一同が出迎えのために並んでいた。
迎え入れる筆頭は、レグルス様だ。それなのに、エドガー様は先頭に立てずに不貞腐れている。そのうえ、エドガー様は、私よりも下に置かれているのだ。
それを決めたのも、レグルス様だった。
警備筆頭なのだから仕方ない。エドガー様には不愉快そのもので、今朝からエドガー様は大騒ぎだった。自分が一番前で出迎えると……それを、レグルス様が一蹴してくれたのだ。
まぁ、このレグルス様の怖い顔に、ヘタレのエドガー様では勝てないでしょう。食い掛っただけで、勇気があったのかしら?
伯爵だと正式に決まると言うことで頭がいっぱいな気もしますが……。
「エドガー様。殿下を出迎えたら、少しお話があります。殿下からの手紙をお読みになりました?」
「どうせ、今日のことだろう。準備も間に合ったのだし、今から読んでどうするんだ」
「今日のことで間違いはありませんが……準備が間に合ったのは、レグルス様のおかげです。彼が昨夜来られて、連れて来た部下の方々が準備を手伝ってくださったから、余裕をもって間に合ったのですよ」
「手伝うのは、当然だろう。我が家は、無料の宿泊所ではないんだ。滞在するなら、それくらい手伝ってもらっても問題ない」
「問題だらけです。竜騎士団は、伯爵家の小間使いではないのです。敬意を払ってください」
「ふん!」
ふん、ではありません。まったく話を聞いてくれないから、困ってます。
お尻ぺんぺんしたくなります。
「そろそろ静かにしてくれ。殿下の到着だ」
困ったなぁと思っていると、レグルス様から注意を受けた。レグルス様の後ろに控えている竜騎士団は、気を引き締めて整列している。
「偉そうに」
「実際、レグルス様は偉いのです」
その言葉で会話を終わらせて、殿下の乗る馬車がやって来た。
エルドウィス伯爵邸の前で王宮専用の馬車が停止すると、開かれた扉から殿下が颯爽と降りてくる。
「お待ちしておりました。ジョシュア殿下」
「ああ、先に来てもらって悪いね」
さすが竜騎士団の一個部隊を率いるレグルス様は、ジョシュア殿下とも顔見知りのようで緊張もなく声をかけている。
「で、そちらがルルノア嬢か?」
「はい。先代のエルドウィス伯爵の一人娘ルルノア嬢です」
レグルス様が私を紹介する。
「そう、会えて嬉しいよ」
穏やかな表情のジョシュア殿下に向かって、私は膝を折り礼を取った。私のあとには、レグルス様が「こちらは、遠縁のエドガー・エルドウィスです」と紹介をしていた。
挨拶がすめば、早速庭へと案内するが、そこでもエドガー様は不貞腐れている。
殿下の手前、不敬を買わないように必死で体裁を繕っているのだろうけど……。
「昨夜は大雨だったのに、見事な庭園だ。準備が大変だっただろう」
確かに、大変でした。でも、レグルス様が来て下さったおかげで助かりました。彼が連れて来た竜騎士団が準備を手伝ってくれたのだ。
殿下の訪問が失敗しなくてホッとした。
「では、ルルノア嬢。お茶の準備を始めてくれ。殿下と少し話すが……終われば、すぐに行く」
「はい。畏まりました」
レグルス様が私たちに下がる様に言い、そのまま私とエドガー様はお茶を準備している庭へと向かった。
「ローガン。すぐに殿下が来られます。お茶をすぐに出せるようにしてください。殿下の従者には、部屋の案内を……」
「はい。予定通り手配しております」
レグルス様の連れて来た竜騎士たちに囲まれながらも、すぐにお茶が並べられていく。
その中で、お茶を運んで来る使用人たちに混じって、シアンさんまでやって来た。




