遺書
遺書と書かれた封筒を手に取る。
友見は隣で黙って封筒をじっくりと見つめている。
封筒の触り心地が気持ちいい。僕は封筒を破り、中から遺書を取り出す。
そして中の紙をゆっくりと開いて読む。
窓から聞こえてくるたくさんの車の音。そのうるさい音すらも聞こえないほど僕は遺書にのめり込んでいた。
僕は遺書を読み終わった。そしてすべてを知った。
僕は思いっきり泣いた。泣くなんていつぶりだろうか。
友見の前で泣くのは恥ずかしかったから、我慢しようとしたが、それでも涙が止まらなかった。
すると友見がゆっくりとこちらに近づいてきた。
そして優しく抱擁してくれた。
その温もりを僕は今までの人生で体感したことがなかった。
僕は友見の胸の中で泣きじゃくった──。
しばらくしてようやく僕は落ち着いた。
友見が幸人のお母さんからホットミルクを持ってきてくれた。
だが、僕は猫舌なのですぐには飲めなかった。
だから僕が飲めるくらいの温度になるまでスマホをいじっていた。
すると友見が震えた声で問いかけてきた。
「なんて……書いてあったの」
その時、僕は気付いた。
友見は遺書を読んでなかったのだ。僕がずっと遺書を読んでいたとき、友見は部屋を見ていた。
「ねぇ、幸人は遺書になんて書いていたの?」
幸人……か。遺書には友見のことも少し書かれていた。
「私、実は幸人の」
「お姉さん」
僕は友見が言い切る前にその答えを言った。すると友見は笑いながら。
「正解」
と言った。
「いつから知ってたの?」
「遺書に書いてあったんだ、お前のこと」
「そっか、覚えてくれてたんだ」
そう呟く彼女はどことなく嬉しそうだった。
多分だけど、幸人自身は友見のことを覚えていなかったと思う。だって友見は幸人が、生まれて間もないときに、今の友見の親に引き取られたのだから。
幸人が友見について知ったのはきっと幸人のおばあちゃん、辰巳紀子さんのおかげだろう。
この前紀子さんの家に行った時に幸人の生まれた時の写真を見せてもらった。その写真にはもう一人、幼い女の子が写っていた。それがきっと友見なのだろう。
そんな話をしているうちに、ホットミルクが飲める温度になった。
まだ少しだけ温かいそれを僕は一気に飲み干した。そして遺書をカバンに入れて友見と共に幸人の家を出た。もちろん、幸人のお母さんにはお礼を言っておいた。
帰り道、僕は友見と別れたあと早歩きで家に帰った。
そしてそのまま部屋に行き、カバンから遺書を取り出して、ベッドに倒れた。
ベッドの感触が心地よかった。そして遺書を持ったまま僕は眠った。
今までにないくらいぐっすりと眠れた──。
遺書
俺はもう戻ってこないと思うのでここにいろいろ記しておきます。
まずはここまで大きく育ててくれた両親へ。
血の繋がっていない俺の世話をしてくれてありがとうございました。今思えばたくさん迷惑をかけたような気がします。俺はあなた達に育てられて嬉しかったです。そして勝手なことをしてごめんなさい。どうか許してください。
ここからは俺の親友の成瀬悠馬くんに宛てたものになりますので、ここまで読んだ人はこの付近で一番大きい高校に通っている悠馬くんに渡してください。
成瀬悠馬
まずは君に謝らなくちゃいけないな。こんな勝手なことをしてごめん。
でも君は俺にとっての唯一の親友だ。それは変わらない。親友の君に相談しなかったのは、君は必ず俺を引き止めてしまうと思ったからなんだ。本当にごめん。
この遺書はもしかしたら君が一番初めに見つけるかもしれないな。俺がこのあと死んだら警察の人がたぶん部屋にやってくるけど、この隠し場所はバレないような気がするんだよ。完璧に近い隠し場所だからバレたらバレたで悲しいけど。
実はさ、俺には姉がいたんだよ。最近知ったんだけど、その時はめちゃくちゃ驚いたよ。そしてその姉が中学も高校も一緒だったなんて、さらにびっくりしたよ。
そしてその姉はおそらく、1つ上の学年の高田友見って人。親が変わって、苗字が変わったんだと思う。明るい人でよかった。
ところで悠馬、俺は君に言いたいことがあるんだ。
それは、俺がいじめられてた頃の話なんだけど、俺は自分以外の全ての人間が人間じゃない生き物に見えたんだ。まるで化け物だった。中学時代、君に出会う前のある日の放課後。学校の屋上でボーっとしていた時に、ある一人の女子生徒がやってきたんだ。頭が黒く塗りつぶされているような、そんな感じだった。
すごく怖かったけど、その怖さが心地よかった。でも体が言うことが聞かなくて、屋上から飛び降りようとしちゃった。でもそれを彼女が止めてくれた。その時、うっすらと顔が見えた。彼女だけは人間だったんだ。そして彼女こそ僕の姉だと思った。
それからしばらくして廊下を歩いていた時に光が見えたんだ。俺の心を照らしてくれるような光。その光のところへ行くと君がいた。君は、他の人達と違ってちゃんと人間だった。俺は嬉しかった。だからふと声をかけたくなったんだ。君は他の人達のところへは行かずに一人でうずくまっていたから。
君とは仲良くしたくて、できる限り優しく振る舞った。君が困っていたら相談にも乗った。そんな生活を続けていると、なんだかそれが癖になってしまったんだ。
と、まぁ俺が君に伝えたい事は感謝だ。俺にとって君は光であり、生きる希望だったんだ。そして唯一の親友。君だけは俺の特別だった。ありがとう。
おそらくだが、君はこれから俺が死んだ理由を探し続けるだろう。なぜだかそう思うんだ。
だからその理由をここに記しておく。
俺の親は最低だった。自分の妻にも暴力を振り、俺の面倒もろくに見ない。そしてそれは母親も例外じゃなかった。飯もほとんどくれなかった。幼少期からあまり食べられない生活が続いていたから、気づくと少食になっていた。それは関係ないか。
まぁ、そんな腐った親どもの子どもが俺だ。もちろん血の繋がった正真正銘の親子だ。
俺は怖かった。だってあいつらと血の繋がった関係だから。大切な君の事を傷つけてしまうような気がした。だから怖くてたまらなかった。
ある時、俺は思ったんだ。俺は君とは全く違う、汚い血筋の人間だから君とはいちゃいけないんだ、と。
なんでそう思ったかと言うと、なぜか君以外の人達に急に暴力を振りたくなってしまうことがたくさんあったからだよ。
始めのうちは、極稀にあったくらいだった。でも、時間が立つにつれ、その頻度は多くなり、ときには本当に殴る寸前にまでなったこともあった。
俺はあの親父と同じだったんだ。周りの奴らのことを人間じゃないとか言ってたけど、その時気づいたんだ。俺が一番人間じゃないじゃん、ってね。
だから俺は、人間じゃない俺を殺すんだ。
簡潔に書こうと思ってたんだけど、つい長くなってしまった。でも、もう少しだけ付き合ってほしい。
俺は君のことを本当の親友だと思っている。だから、俺は君に殺されたかった。
でも本当に優しい君は、たとえそれが俺の頼みだったとしても断るだろう。だからできなかった。
こんな汚いやつと仲良くしてくれてありがとう。
最後にこれだけ言わせてくれ。
君と僕は深い友情という絆で結ばれている。それは俺が生きてたって、死んでたって変わらない。
君は、僕の生きた証だ。




