ガラスケースと箱
翌日、僕は高校に入ってから初めて学校を休んだ。
どうしても今の心情を整理する時間が欲しかったからだ。
まずは幸人の事だ。幸人はきっとあの場所に何かを置いていったような気がする。それはほぼほぼ確実だ。
でも、そこに行きたくないような気がする。そこへ行ったらきっと幸人のすべてを知ってしまうような気がする。
おかしいな、僕。幸人について全部知りたかったのに、今になってそれが恐怖になってしまっているだなんて。
どうすればいいのだろうか。このままいつも通り退屈な日々を送って、現実から目を背け続けるか、それともここで幸人との関係に終止符を打つか。
……いや、僕はバカだな。幸人は死んだんだ。それは絶対に変わらない。人は死ぬ。死んで新たな命に生まれ変わるのだと僕は思う。幸人はきっともうすぐ生まれ変わって僕に会いに来てくれる。
何を考えてるんだろうな僕は。生まれ変わったらみんな赤ん坊だ。会いに来るなんてことはない。というかそもそも本当に生まれ変わるのかすらも分からない。それは死んだ人間にしかわからないことだ。
……そろそろ、ちゃんと向き合わないとな。少しだけ冷静になった。
決めた! 僕はもう幸人に縛られない!
あそこへ行って真実を知るんだ──。
「悠馬くんが休みなんて珍しいなぁ」
私は昼休み屋上で一人つぶやいた。
朝教室に行ったらいなかったから遅刻かなと思ったけど、ま〜さか休みだとは。
きっと辛いんだろうな。どれだけ逃げてもいつかは現実と向き合って、変わらなくちゃいけない。そのいつかが悠馬くんにとって今なんだろうな。
私も変わらなくちゃな。悠馬くんに嘘をついていたこと、謝らなくちゃ。
決めた! 謝ろう!
謝って変わろう! そして悠馬くんを幸人から解放させてあげよう。
快晴の空の下、私はそんなことを思っていた──。
その日の夕方、僕の家に珍しくチャイムが鳴った。
朝から着替えもしなてなかったため、パジャマのまま扉を開けた。
そこには友見が立っていた。そしてニヤッと笑う。
「悠馬くんがパジャマ姿なのおもしろ〜」
そんなのどうだっていいだろう。何を着ようがお前に決めつける権利はないんだから。
僕の表情で察したのか、意外とすぐに謝ってきた。
「ごめんごめん。からかいに来たわけじゃないよ。とりあえず中に入れてくれる?」
さすがに外で長話は僕もごめんなので家の中に入れてやった。
「なんで今日休んだの?」
友見は突然そんなことを聞いてきた。
「考え事をしていただけだ」
僕は正直に言う。
「そっか!」
友見はこんな時でも笑っている。
「それだけを聞きに家に来たのか?」
「そんなことないよ私が一番聞きたかったのは、幸人くんのこと」
そりゃあそうだろうな。そんなの分かりきっている。
「学校で言ってたことはなに?いい加減教えてくれない?」
……そろそろ話さなきゃだよな。もうそろそろ言ってしまおう。
「幸人の部屋にあるはずだ」
「幸人くんの部屋?そこに何があるの?」
「僕たちが知りたいことだ」
「知りたいこと……」
僕たちが知りたいこと、それは幸人がなぜ死んだのか。なぜ幸人は誰にも話さずに死んでしまったのか。それだけだ。
「ていうか、幸人くんの部屋はとっくに警察が調べてるでしょ?」
そうだ。警察がもう調べている。なんせ死人が出たんだから。それは当たり前だ。
だが、
「多分見つかってないはずだ」
「分かった。行こう!」
もう逃げない。僕はそう決意した──。
数カ月ぶりにやってきた幸人の家。
幸人の親御さんは元気だろうか。両親とも血のつながっていない人だったのは驚きだった。
玄関のチャイムを鳴らすと幸人のお母さんが出てきた。
「あら、久しぶりじゃない。最近は元気?」
「はい、元気です」
あまり元気ではないが、ここでその事を言ってしまうとかなり時間がかかるため、嘘をついた。
幸人の部屋に行きたいと言ったらすぐに家に入れてくれた。
部屋に入ると最後に見たときとあまり変わらない部屋だった。
どうやら物などを動かさないでこのままにしておくため、最低限の掃除だけをしてそれ以外は放置状態だそうだ。
友見が引き出しを開けたりしている。
「ほら、やっぱり何もないわよ」
僕は何も言わずに部屋の隅に置いてある、大きいガラスケースをどかす。ガラスケースの中にはフィギュアが並んでいる。それらを倒さないように慎重にどかした。
ガラスケースの下は木製だ。だからケース越しに床は見えない。
ガラスケースがあった場所をじっと見つめる。
そこには1本の釘が打ってある。
その釘の周りを手で触る。すると1箇所だけへこんでいる場所を見つけた。そこに指を引っ掛けて持ち上げる。すると面積が50cmほどの穴が出てきた。
そこには一つの箱がある。それを慎重に取り出す。
「きっとこれだ」
「この箱の中に何があるの?」
「それは今から分かる」
きっと僕の予想が正しければここに全てが詰まっている。
幸人は器用だったから、床を少し切り取って誰かに知られたくない秘密の物を隠したりしていた。
全てが懐かしいな。どれもいい思い出だ。
この箱を開けたらきっともう後戻りはできない。それでも僕は箱を開けようとする。
開けなければならない。一人の親友として。
ドキドキしながら箱を開けるとそこには遺書と書かれた封筒が1つ入っていた──。




