夢
目が覚めるとそこは知らない部屋だった。何もしゃべれない。動くのは手足だけ。僕はベットの上にいる。
目の前には返り血を浴びたのか、服が赤に染まっている30歳くらいの男。そして、その男に殴られたであろう女が泣いている。
僕はただ見ているだけ。喋りたくても喋れない。どうにか喋ろうと必死になっていたら、僕は泣いていた。大声で。
「チッ!起きちまっただろうがよ!!」
そう言い、無言でうずくまっている女を男が蹴る。
何だこれは。僕は何を見せられている。目の前のやつらは誰だ? 僕は誰だ?
目覚ましのアラームの音で起きた。しっかり5時半に起きれた。今のは……ただの夢だったのか。でも、今見た夢の記憶は精細に記憶に残っている。その時の気温、部屋の構造、全部覚えている。
心拍数が少し上がっている。僕はベットから出てキッチンへと向かう。
僕は昨日ご飯を食べていないので、適当にパンにジャムを塗って、冷蔵庫にあるウインナーをレンジでチンして食べる。
いつもなら料理をするが、なぜかここ最近はやる気が出ない。体に力が入らない。これから僕はずっとこうやって適当に生きていくのだろうか。案外、それも悪くないかもしれない。辛いことに合わないためには、何もしなければいいのだから。
学校についても、僕は誰とも喋らない。そして誰も僕の方を見ない。みんな仲良く友達と喋っている。僕はそれを見ると反吐が出そうになる。友情なんて、いつかパッと消えてしまうのだから。それを知らないこいつらは馬鹿だ。そして理不尽に周りを見下している僕も馬鹿で、愚かで滑稽だ。
勉強は別に嫌いじゃないから、授業はそこまで苦痛じゃない。それでもやる気はない。テストの点数はそこそこいいから別にそこまで本気にならなくても、ある程度の大学になら行けるだろうし、就職だって多分なんとかなる。だから今は勉強なんてしたくない。でも大人になるには勉強は絶対にしなくちゃいけないって幸人が言っていた。だから僕は彼の言う通りに授業を受けている。そんな日々を過ごしている。
家に帰っても、ただボーっとするだけ。夕飯の買い出しに行って、風呂に入って、夕飯の支度をして自分で料理を作る。今日は豚の生姜焼きを作った。これは僕の料理の中で、幸人が1番初めに食べたものだ。あの時褒めてくれたことは忘れられない。ありがとうってもう1回言いたい。
そしてまたベッドに入り、寝る。数分して僕の意識はなくなった。
目を覚ますとそこは昨日見た夢と同じ部屋にいた。どれだけ部屋の中を見てもここがどこか分からない。そもそもこれは誰の目線なんだ?
すると、包丁を持って男がやってきた。こっちに近づいてくる。怖い。でも、体が動かないから逃げられない。
だが、ちょうど玄関からピンポンが聞こえてきた。
「はぁ、」
と、深くため息をつきながら、男は下へ降りていった。昨日の女はいない。どこに行ってしまったんだろう? あれだけ殴られていたのだから、知らない人でも心配してしまう。
そう考えているうちに男が帰ってくる。だが、引き戸の中のカバンを持って無言のまま玄関の方へと行ってしまった。
僕はただ男を眺めていた──。
ちょうどその時、目が覚めた。やはり心拍数が上がっている。なんなんだこの夢。
そして、また適当にパンを食べて、ウインナーも食べて学校に行き、帰ってきては買い出しやらをしてボーっとして過ごす。
数日後、僕は久しぶりにハンバーガーが食べたくなって、ハンバーガー屋さんに行った。
そのハンバーガー屋さんは幸人と何回か一緒に行ったお店だ。懐かしいな。でも、もう幸人はいない。
幸人はこのハンバーガー屋さんのチーズとトマトと、魚肉が挟まったバーガーが好きだった。あの頃、一度だけ真似して食べてみたけど、全然美味しくなかった。でももしかしたら俺は成長して、幸人と同じ味覚になっているんじゃないか?
と思い、注文してみるも、やはり美味しくなかった。
だけど、もったいなく感じたから、一緒に頼んだМサイズのコーラと一緒に流し込んだ。ハンバーガーを食べ終わると、ポテトを1本ずつ口に運びながら、幸人が好きだった本を読む。幸人のすべてを知りたいから。そのためにさっきここに来る前に本屋さんで買ってきた。
この本はまだ一章の少ししか見てないが、面白かった。これからは定期的にここにきて、あんまり美味しくないバーガーを頼み、コーラで流し込んで、ゆっくりと本を読みながらポテトを食べよう。そう思った。結局、ポテトを食べ終わる前に一章の終わりまで読めた。だが、これは幸人が好きだった本の1冊だ。まだたくさん読みたい本はある。何年かかるのかな? まぁ何年だっていいや。僕は幸人について全部知れたらそれでいいから。
家に着くと、郵便ポストを確認する。いつもお金はここに入れてあるから。親がお金をポストに入れてくれる時間はバラバラだ。だから、少しでも出かけたりしたらこまめに確認するようになった。今日も、入っていない。だいたい月に一度くらいは来るからそろそろだと思うんだけど……まぁ、まだお金はギリギリ大丈夫だから気長に待つとしよう。
風呂に入って、冷凍食品のスパゲッティを平らげ、ベットに横になりさっき途中で終わった本を読み始める。
この話は、突然いなくなった母親を12歳の男の子が妹と2人で探す旅を描いた物語だ。読んでいて心が痛くなる。突然いなくなった母親と、突然いなくなった幸人が共通しているから。
幸人はこういう本が好きなんだな。ほとんど知った気でいたけど全然知らないなぁ、僕。第三章まで読み終わったところで本を閉じ、眠った。
その日は不思議な夢は見なかった。
3日ぶりに気持ちよく寝れた。あんな夢はもう見たくもないし、もう見ないだろう。
今日はなんだか気分がいい。きっといいことが起きるだろうと思い、テレビでやっている星占いを見た。そしたら見事、かに座が1位。僕はかに座だ。幸人は3位のおうし座だ。
本当に気分がいい。いつもよりも景色が少しだけ輝いて見える。
「そうだ、後で久しぶりにあそこに行こう」
僕は学校に向かい、昼休みにあの場所、学校の屋上に行った。
久しぶりに来てみたが、ただの屋上だ。別に立ち入り禁止ってわけじゃないが、何もない故、いつも誰もいない。
僕が空気を吸っていると、後ろから声をかけられた。
「君が成瀬悠馬くんだね?」
ピンク色に近いショートヘアのうちの制服を着た女子が笑いながらこっちを見つめてきた。
「誰だ?」
「私はあなたの1つ上の先輩、高田友見」
1つ上ってことは3年生の生徒か。
「要件は?なんで僕の名前を知ってるんだ?」
「先輩に対してタメ口とは。いけない子だね〜。優しそうな顔なのに」
「そりゃどうも」
優しそうな顔か……。そんなのどうでもいいっちゃどうでもいいんだが。
「で、要件なんだけど……、辰巳幸人くんについて知りたくない?」
友見は笑っていた。だけどそれは怪しくはなく、優しく、嘘を言っていないような目だった──。
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