第1話③『ドキドキ百合ルームシェア!』
夕方。
ピンポーン──
「ん。来たかな?」
ガチャ。
「霧亜!来たよ〜!」
「雛瀬!入って入って〜!」
霧亜が雛瀬を部屋の中に招き入れた。
「荷物はこっちの隅の方に置いといて。ソファ座ってていいよ。」
部屋の隅とソファを順に手で示した霧亜。
「ありがと〜。気が利くね〜!実はカレシとかいるんじゃない?」
「いないよ。よく告られるけど全部断ってるし。」
「え〜もったいな!好きな人とかいないの?」
「男から告白されても別になんとも思わない。」
「ふーん…………霧亜、なんか飲み物ちょうだい。」
「麦茶、オレンジジュース、コーラとかあるよ。」
「じゃあオレンジジュース〜。」
「おっけ〜!」
霧亜が冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、それを透明なグラスに注いだ。
「おまたせ〜。」
雛瀬は霧亜からグラスを受け取った。
「ありがと〜。っ、んぐ、んぐっ……ぷはぁーっ!てかマジで吉田さんが羨ましいです〜!霧亜に養ってもらってるなんて。」
「そうでしょ雛瀬ちゃん?」
そんな会話を聞き、霧亜はにっこりとした。そして夕食を作り始める。
フライパンで肉と野菜を焼く音。
「おいしそうな匂い……霧亜って料理もできたんだ!」
「雛瀬、ルームシェアしてるって話は前にもしてたでしょ?」
「いやもっと簡単な自炊とかインスタント食ってるイメージだったよ。」
「あーそっか?」
ジュゥゥゥゥ──
おいしそうな肉の音に、思わず茉鈴のお腹が鳴った。
「あ、茉鈴もうお腹すいてるんだ。まだかかりそうだからもうちょっとだけ我慢してね。」
そして、料理が完成。食卓に並んだ白米、野菜炒め、魚。
「「「いただきま〜す。」」」
箸を手に取り、野菜炒めを口に運ぶ。
「んー!うま!霧亜ってこんな料理上手かったんだ!すごいって霧亜!料理人なれるよ!!」
「ふまぁ〜っ!いつも霧亜の手料理、マジ最高すぎる!マジ天使!」
霧亜の料理を食べた雛瀬と茉鈴は、あまりの美味しさにほっぺが落ちそうになっていた。
「ねえ茉鈴。もし唯がいたらどうしてた?ルームシェアに誘ったりした?」
ふと、霧亜がそんなことを呟いた。
「うーん……いたらね。向こうから誘ってきてくれたら……て言った方がいいかな?」
「うん…………でも、もう来れないんだよね……わたしたちが小さい頃、行方不明になっちゃったから。」
「まりんおねえちゃ!きりあちゃ!」
紙を2人に見せる少女。そこには、少女と茉鈴、霧亜らしき絵がクレヨンで描かれていた。
「ゆいとまりんおねえちゃ、きりあちゃだよ!」
「唯がいたらここにいたかもしれないのにね。」
「霧亜。何があったの?」
2人の話が気になったのか、霧亜に質問をなげかける雛瀬。
「あぁ、茉鈴の妹の唯が小学生になろうとしてた頃、急に行方不明になっちゃって……結局今も見つかってなくて。」
「あ。ごめん…………」
「いいっていいって。」
大丈夫よ、と雛瀬に伝える霧亜。
晩ご飯を食べ終えた3人。霧亜は皿を洗っている。
「あ。」
ふと、なにか思い立った様子の茉鈴。席を立って冷蔵庫に行き、缶を取り出した。そして再び席に座る。
「あまりにも疲れすぎてビール買うの忘れてた。」
「あーまたビール!休肝日どこ行ったのよ茉鈴!」
「社畜にはビールしかないよぉ〜〜。」
「だめでしょ茉鈴〜。飲みすぎは体によくないよ〜?」
「ぶー。じゃあ霧亜があたしの疲れ取ってよ〜。」
「はいはい。」
素早く皿を洗い終わった霧亜。
茉鈴はソファに座り、その後ろから霧亜が茉鈴の方を揉む。
「あッ……あ……いいッ……もっと強くっ……」
「っ……///」
茉鈴の声に思わずドキッとしてしまう霧亜。
「なにしてるの〜。ほらもっとは、げ、し、く♡」
「っ、わかってるって……」
「あッ、あん♡気持ちいいっ♡」
「ま、茉鈴!?」
「ふふっ、霧亜かーわい。でも気持ちいいのはほんとだよ。」
「まあ、茉鈴がいつも疲れてくるからマッサージ法いろいろ調べたりしてたしね。」
「そういうとこだよね、天使。」
「どういたしまして。」
プシュッ──
「あ、茉鈴!結局ビール!」
「へへ〜。止めれなかった霧亜の負け〜。」
「もぉ〜!……わかったよ。ちょっとだけね?茉鈴が体壊したらヤだから、これ以降気をつけること!」
「わかってる〜!」
そう言い、缶ビールをぐびっと飲み干す茉鈴。
「霧亜〜。ビール買い行こ〜?」
「茉鈴……もーほんとに茉鈴はそういうとこだらしないんだから。」
ぷくっと頬を膨らませつつも、ふっと笑う霧亜。
「ふふっ、2人ともほんとの姉妹みたい。顔似てるし。だらしない姉としっかり者の妹みたいな?」
「雛瀬……そんなことないよ。茉鈴は一生懸命頑張って働いてくれてる。」
霧亜は、茉鈴に対して感謝している様子。
「わたしもついてっていい?」
と、雛瀬。
「いいけど……そんな贅沢できないからね。」
「買わせてくれる前提なんかい!」
「買わないならついてくる必要なくない?」
「友達についてくくらいいいじゃんか〜。」
「ふふっ、ありがと。」
3人は外に出た。
夜道をしばらく歩き、コンビニについた3人。
「まり〜ん。ビールは買いすぎ注意ね!」
「はいはい、わかってるわかってる。」
「ふふっ、霧亜、吉田さんの世話焼きすぎ。」
「茉鈴はいつも仕事で疲れてるから……ね。わたしが世話してあげないと。あ〜茉鈴!それビール取りすぎじゃない!?」
茉鈴がかごにビールを入れるところを見て、霧亜が巨乳を揺らしながら駆け寄った。
(おっぱい……)
(巨乳……)
(胸でかすぎ……)
(おっぱい……)
雛瀬、店員、客の視線が霧亜の胸に吸い寄せられていた。
「霧亜〜。ポテチ買ってもいい?」
茉鈴がポテチの袋を霧亜に向けた。
「家計のことあるし買いすぎ厳禁!」
「はーい。じゃああとで食べさせあいっこね。二日連続休みだし今日はちょっとくらい夜更かししない?」
「はぁ……まあいっか。わかったよ、茉鈴。」
「えへっ。」
茉鈴がにこりと笑った。
ドキンッ──
茉鈴を見て、霧亜の心臓が跳ねた。
(茉鈴……)
3人は買い物を済ませた。
帰宅し、夜更かしを開始。
テレビをつけ、映画鑑賞。
『見つけられたのは提灯の燃えカスと、血塗れの着物と草履だけだったそうよ……』
霧亜が気に入っているホラーアニメーション映画。
「アニメ映画ならCGじゃなくて普通にアニメ描けよ……」
ぼそっとつぶやく雛瀬。
ポテチを貪りながら茉鈴はビールを飲んだ。
「ぷは〜っ!久しぶりの夜更かし楽し〜っ!」
仕事から解放された状況で、心底嬉しそうな茉鈴。霧亜はそんな茉鈴を見て、にっこりと笑った。
霧亜がホラー映画に集中していると、
「きーりあっ。」
「わっ。」
茉鈴が霧亜の後ろから抱きついた。
「んはぁ〜、背中広。天使〜〜っ!」
どうやら茉鈴は霧亜の背中で癒されている様子。
「すぅ…………すぴー…………」
気持ちよさそうに寝落ちしてしまった茉鈴。
「茉鈴、まーりーん!ベッドでねーてー!」
霧亜が茉鈴の体を揺らす。
「んあっ。ああごめん、疲れちゃって……眠いから霧亜も寝よー。」
「うん。」
茉鈴は眠そうにベッドへ。霧亜と雛瀬もそれについていく。
「すぴー…………きりあ…………すぅ……」
霧亜にぴとっとくっつき、眠っている茉鈴。
「んもー……茉鈴ったら。」
茉鈴が気持ちよく眠れるように体を優しく撫でていく。
「わたしが世話しないと、だめなんだから。」
可愛く眠る茉鈴を見て、思わずふっと笑みが出てしまった。
「霧亜、大変じゃないの?」
その様子が気になったのか、雛瀬が霧亜に質問。
「ぜんぜん……っていいたいところだけど大変は大変だね。」
「世話ってペット扱い?」
「違うよ。いつも大変そうにしてるからわたしが茉鈴を労うの。ほら、雛瀬も寝れば?」
「そう、だね……」
こうして、3人は就寝。
夜空に、綺麗な月や綺麗な星が映っていた。
月曜日。
一足先に、大学の講義室に来た霧亜と雛瀬。
霧亜は女子大の文学部に通っていて、選んだ理由はなんとなくそこが就職に強いと思ったから。
「はぁ……わたしなにやってんだろ。大学もあと1年なのに、進路がわかんない……」
「霧亜…………」
心配そうに霧亜を見つめる雛瀬。
授業も、聞くには聞くがぼーっとする時間が多かった。とりあえず卒業できるくらいの勉強をダラダラやっている状態。
「ねね、霧亜。何か飲み物いる?あたしがしょんぼり霧亜を労ってあげるよ〜っ。」
そう言ってきたのは、同じクラスの小織千彩。霧亜と千彩、雛瀬は仲のいい友達。
「メロンソーダ。次点で、うーん……麦茶でいいや。」
「おっけ。」
しばらくして、
「はい、メロンソーダと麦茶。」
「千彩、両方買ってこられても……ふふっ。」
少し笑みがこぼれた霧亜。
「どしたの?そんな笑って。」
雛瀬が聞いた。
「いや、シンプル嬉しかった。」
「そうやってにこにこしてるから買ってあげたくなったのかもね、あたし。」
「そお?千彩、ありがとね。」
「霧亜、それ触らして。」
「どっち?」
「ヨッシーじゃない方。」
千彩が指したのは、霧亜のカバンについているツムツムのゲームキャラのような形のマスコット。
「なんかかわいい。なんだっけ、レーサー?」
「レーザー。」
「バイクじゃなかったっけ?それならレーサーの方がよくね?」
そう言いながら、マスコットを撫でる千彩。
「そういやさ、なんでこれ好きなんだっけ?」
「名前が似てたから親近感わいただけ。」
千彩の質問に答える霧亜。
「霧亜ってわりとなんでも好きになる傾向あるよね〜。」
「まあね、雛瀬。たぶんママとうまくいかなくなってから自分がカラッポになって、癒しとか人間関係とかいろんなものを求めてたんだと思う。」
霧亜は、少し悲しそうな笑顔を見せた。
今日の授業が終わり、帰ろうとした時。
「霧亜、ちょっと来て。」
「あ、うん。雛瀬は帰る?」
「帰るわ。じゃね〜!」
霧亜に言われ、雛瀬は帰った。
あまり人通りの少ないところに呼び出された霧亜。
「千彩。どうかした?」
「最近雛瀬と何してたの?」
「あぁ、なんか休みの日に会って成り行きでお泊まり。ま、いつもの幼馴染のルームメイトもいたけどね。」
「ふーん…………」
「どうした?何か飲みもん買ってあげようか?」
霧亜が提案するが、
「いや、欲しいのはそれじゃなくて……霧亜のくちびる。」
「…………ふぇ?」
一瞬理解が追いつかず、止まる。
「あたし、霧亜のことが好きなの。今年で最後だしさ、告ろーと思って。」
「千彩…………あ、えっと…………」
「急にごめんね。でも霧亜ならみんなと仲良くしてくれるし優しいし、あたしが告った後でも変わらず仲良くしてくれると思って。」
千彩の表情は少し複雑だが、それでも照れを見せていた。
「もっかい言うね。好き、だから。」
「千彩…………」
「無理に返事しようとしなくていいよ。いつか……まあ1週間後くらいに一旦考えを聞ければいいから。」
「えと…………」
急に告白され、戸惑う霧亜。
「じゃあね。そだ、もうすぐ夏休みだし、霧亜が良かったらそのルームシェア行ってみたい。」
霧亜のカバンについているマスコットを優しく撫で、にこっと笑う千彩。その後すぐ、千彩は帰っていった。
「千彩…………千彩はわたしのことが好き…………好きって、そういう意味だよね。」
九条貴利矢推しの九条霧亜でした。