表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

【解題】壊れた声が響くとき

皆様ごきげんよう。

作者の如月柚希きさらぎ ゆずきと申します。


このたびは、拙作に目を留めてくださり、心より感謝申し上げます。




■ 執筆のきっかけ


この物語は、私が長く抱いてきた「人の闇」に対する想いから生まれました。


人は、どこまで追い詰められれば狂うのか──

その問いが、私の中でずっと響いていました。


御影俊彦は、妻を亡くし、孤独と疑念に追い詰められ、やがて狂気に呑み込まれていった男です。

しかし、彼が手にしていたのは、単なる「暴力」や「悪意」ではなく、

もっと切実で、もっと静かな、「信じたい」という思いでした。


人は誰しも、自らの選択が正しかったと信じたくなるものです。

それが誤りであるとわかっていても、なお、その誤りにしがみついてしまう──

御影の姿は、そんな人間の弱さと哀しさを象徴していたのかもしれません。


けれど、それだけではありません。


彼の背後には、もう一つの「闇」がありました。

それが、月影ルカという存在です。




■ ルカの存在について


ルカは、私にとって特別な存在です。

彼女は、人の「闇」を嗅ぎつけ、それを暴くことに異様な執着を抱く女です。

けれど、それは単なる狂気ではありません。


彼女が人の闇に魅せられたのは、「人が壊れる瞬間にこそ、その人の本当の姿が現れる」と信じているからです。

仮面を剥がされ、偽りのない感情が剥き出しになったとき──

そこにこそ、その人が抱えていた「痛み」や「孤独」が見える、と。


彼女の狂気の根底にあるのは、人の苦しみに共鳴してしまう優しさだったのではないか。

私は、そんな思いを込めてルカを描きました。


ルカは、人を壊したいのではなく、

「壊れた人間の奥にある、かすかな声」を確かめたかったのかもしれません。


だからこそ、ユイという存在が、ルカにとっては特別でした。

ユイの冷静な理性と、静かに人の声に耳を傾ける姿勢は、

ルカにとって「壊れない人間」そのものであり、

同時に「いつか壊れてしまうのではないか」と怯えさせる存在だったのだと思います。




■ ユイの存在について


八雲ユイは、冷徹な論理で事件に挑む検察官です。

彼女は、あくまで事実に基づいて正義を貫こうとします。

けれど、その内には「声なき声」を見逃さない、誰よりも繊細な感受性がありました。


ユイは「証拠がすべて」と言いながら、御影の「止めたかっただけだ」という言葉に何かを感じ取り、

最後までその“かすかな声”に耳を傾けようとしていました。


ユイが冷徹であろうとするのは、「冷たくあらねばならない」と、自らを律していたからです。

けれど、本当は誰よりも「人の声」を求めていた。


それが、ユイの「人間らしさ」なのだと思います。




■ 「正義」と「狂気」


私は、この物語で「正義」と「狂気」を対極のものとして描いたつもりはありません。

むしろ、正義は時に人を狂わせ、狂気は時に人を救うことさえある──

そんな危うさが、現実にはあるのではないかと感じています。


ユイの正義が、ルカの狂気とぶつかりながらも、

最終的には「人の声」を拾おうとしたように、

人の本当の声は、時に正しさではなく、「痛み」の中に宿るのかもしれません。




■ 最後に


御影俊彦の「止めたかっただけ」という言葉には、

彼の狂気と共に、「誰かにわかってほしい」という人としての叫びが込められていました。


ルカの「壊れた人間は綺麗」という言葉には、

彼女自身の「壊れた自分を誰かに見てほしい」という切実な願いが隠れていました。


人は、迷い、傷つき、誤る生き物です。

けれど、その弱さこそが、時に「かすかな声」を生み出し、

その声は、誰にも奪えない「その人の意思」なのだと、私は信じています。


人は、静かに狂う。

けれど、その闇の中にさえ、きっと“人間らしさ”は残されている。


その“かすかな声”が、誰かの心に届くことを願いながら、

私はこれからも、言葉を紡ぎ続けたいと思います。


最後までお読みくださり、ありがとうございました。


それでは皆様、ごきげんよう。


如月柚希

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ