第97話 殺戮の天使
祭りの日の翌日。
僕は学生らしく宿題をしながら、昨日の出来事を振り返っていた。
(不思議と、動揺はもう無い。すでに不意打ちキスを一回喰らっていたおかげかな)
月上さん……僕と月上さんって、やっぱり友達では無いよね。それ以上の、もしくはそれ以下の何か、だよね。
キスの後の月上さんの背中、少し寂しそうだった。きっと、月上さんは僕にキスをして、思っていた以上に何も感じなかったのだと思う。あれはそういう、落胆の色だ。
月上さんから僕への感情って決して『恋愛』ではない。『好奇心』というのが強い。それもそうだ。僕はまだ彼女に愛される程の器じゃないのだから。
その好奇心を、友情や愛情に変えるためにはきっと、倒すしかないんだ。月上さんを。白い流星を。そのためにもまずは、あの偽物を叩く。
「宿題終わりっと……」
僕はヘッドギア型端末を被り、ベッドに寝転がる。
「さようなら現実。そして」
――こんにちは、異世界。
意識が途切れ、再覚醒する。
戦艦のハンモックの上で目覚める。僕は周囲を確認した後、甲板に上がろうと階段を上がっていく。
甲板に繋がる鉄の扉を開ける。
「今日も良い天気~……って、アレ?」
甲板に出て、戦艦の外を見て、驚いた。
「え? えぇ!?」
「やっと起きたかこの野郎!!」
「待ってたわよ!」
戦艦を囲うように、大量のスペースガールが円盤型航空機に乗って飛んでいる。
「な、なんですか……コレェ!?」
「認識したなシキ! 捕捉したな私達を! よーし! 死んじまいなぁ!!」
全員が銃口を向けてくる。
「うわあああっっ!?」
こう視線があったらまともに応戦できない。
僕はいま来た道を戻って戦艦内部に戻り、甲板に繋がる扉を閉める。
「ななな、なんなのコレェ!? あの人たちダレェ!?」
無数の発砲音が鳴る。
扉にも大量の弾丸が浴びせられるも、扉は壊れず耐えきった。
「さ、さすがはチャチャさん設計の戦艦」
『エネミーからの攻撃を確認』
突如、艦内にアナウンスが響く。チャチャさんの声だ。珍しいチャチャさんのマジメ声。
『自動守護プログラム起動。フレアフィールド展開』
「フレアフィールド?」
扉の窓から外を見る。
「うわぁ!?」
薄いオレンジ色のバリアが戦艦を囲んでいた。
バリアはレーザー弾やミサイルを焼き払い、突撃してきたスペースガールも塵も残さず焼き払う。
「こんなのあるなんて聞いてないんですけど……」
助かったけども。
『続いて迎撃プログラムの提案に移ります。マスターの権限を持つプレイヤーに指示を求めます』
僕の目の前にウィンドウが浮かぶ。
『迎撃プログラムを起動しますか?』
→YES。
『外部カメラを起動させますか?』
→YES。
『迎撃レベルを1~10で指定してください』
→10。
『承知しました。戦艦『オールザウェイ』周辺220m以内の機体全てを殲滅します』
外部カメラの映像が目の前のウィンドウに映る。
『連装砲塔『アローレイン』解放』
戦艦の上部ににょき~っと砲塔が現れる。
『熱源追尾連射砲『ヒートハウンド』、全砲門解放』
戦艦の外部装甲がスライドし、至るところから砲門が顔を出す。
『動体追撃ミサイル砲『ムーブハウンド』、全砲門解放』
さらに多数の砲門が顔を出す。
『AI主導式対艦砲、全砲門解放』
さらにさらに多数の砲門が解放される。
『一斉射撃』
バリアに無数の穴が空き、その穴を通すようにレーザー弾が発射される。
レーザー弾は追尾性能を持ち、ワイバーンやスペースガールの熱源を追って動く。
さらに砲塔から上空に向かって極太のレーザービームが発射。上空何十メートルかの位置まで撃ち上がり、無数のレーザー弾に分かれ、弧を描いて落下を始める。レーザーの雨が無差別に降り注ぐ。
「わ、わぁ……」
続いてミサイルが発射。
動く物体を追尾して破壊する。たとえ熱源は誤魔化せても、続くこのミサイルで絡めとられる。
「うわ、わぁ……」
さらにAIによる視認射撃。AIが戦艦のカメラで敵機を捕捉し、AIの判断で狙撃していく。先の3種の射撃で撃ち漏らした相手をキッチリ掃除していく。
女性の悲鳴が耳をつんざく。決してかわいい声じゃない。腹の底からの、魂の底からの悲鳴。鉄の壁すら貫く悲鳴だ。それでも攻撃の手は止まらない。
『120m先に多数の戦艦捕捉。『マッハ2魚雷』28基射出』
魚雷が射出され、すぐさま遠くの戦艦が爆発する。
『全方位拡散榴弾『アナイアレーション』射出』
弾丸が全方位に向けて射出。
弾丸は途中で割れ、中から無数の極小ミサイルを散開。ミサイルの爆撃が辛うじて生き抜いたスペースガールたちを塵にする。
『アローレイン』による上空からの無差別攻撃→熱源追尾弾→動体追尾弾→AI観測射撃→無差別爆撃。この極悪コンボを受け、囲んでいたスペースガール達は全て戦闘不能になった。死or瀕死だ。悲鳴も一切聞こえなくなった。にもかかわらず、この戦艦は攻撃をやめない。塵1つ、油1滴すら残す気がない……!
『主砲『パーフェクトデストロイヤー』を解――』
「もう大丈夫です! やり過ぎです! オーバーキルです! もう相手の戦意は喪失しています!」
僕が言うと、ようやく戦艦は武装を収めた。
100近くいたスペースガールが、5機の戦艦が、30機近くの戦闘機が、あっという間に殲滅された。
あ、あの人……なんてもの作ってるんだ! そしてなんで僕になにも伝えてないんだチャチャさん! 救われたけど複雑だよっ!
「生き残りいるかな……」
砲塔の上から海を見下ろす。
残骸&残骸&残骸。これだけ倒したのにチップが微増なのは、予めチップを持たずに来たってことだと予測する。つまり、負ける可能性を考慮していたということ。僕を警戒していた……僕を知っている人ってことだ。
「あ」
1人だけ、四肢は千切られているけど生きている人がいる。僕はスラスターを使ってその人を海から回収し、甲板に連れてくる。
「よ、良かった~。大丈夫ですか~?」
「……あ、あなた、何者!? なんなのこの戦艦! トラウマ確定よっ!」
涙ながらにそう訴えかけてくるスペースガール。
「こ、この戦艦については僕もわかりかねます……」
「あなたの戦艦でしょうがっ! わからないわけないでしょ!」
仰る通りで。
「すみません。聞きたいんですけど、なぜここへ来たのですか? 目的がわからないんですけど」
「……」
「教えて頂ければ軍警に突き出すことはしません。攻めて来た方々全員の顔とプレイヤーネームはカメラに残ってます。僕がこのデータを軍警に送ればあなた方のクラスは変更となるでしょう。そうなればオケアノスに残っていられませんよ」
「あなた……」
「ですが、僕に協力してくれるならあなたの画像データだけは削除することを誓います。お願いします。僕に事情を教えてください」
司法取引みたいなものだ。
スペースガールは数秒悩んだ後、
「別に守秘義務も無いし、教える。あなたの首に懸賞金が掛けられている。その額は――3億」
「さ、3億!?」
懸賞金!? なんで!? 僕、なにも悪いことしてないのにっ!
「いろんな掲示板で依頼は出回ってる。私が知っている情報は以上!」
「ありがとうございます。それで……どうします? そのお体、修復します? それともキルした方が話早いですかね?」
「……うん。キルして」
「わかりました。では」
僕はG-AGEで頭を撃ち抜く。スペースガールは「ぎゃっ!?」と言い残してデリートされた。
【読者の皆様へ】
スピンオフ『シスター・イズ・バーサーカー』開始しました!
スタートダッシュをバッと決めていきたいので、ぜひ読んでいただきブクマと評価をお願い致します! ページ下部のリンクより飛べます。
ガッツリ本編のキャラクターもいっぱい出てきて、本編とは作品の方向性も違うので必見です。よろしくお願いします!