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【書籍化決定】スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
殺し屋シキ編

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第92話 面影

 戦術は僕の負けだった。


 あの瓶の破片で相手の位置を把握するまでが僕の戦術。

 ダミーの爆弾はまったくの予想外。口でダガーを咥えて攻撃してくるのも予想外。


 爆撃を背に受けた時、頭が真っ白になった。もう無理だと、経験が悟ったのだ。


 脳は敗北を認めつつも、心は『勝ちたい』と強く願った。その時、あの人の――月上さんの声が頭に響いたんだ。


――『おいで』


 その瞬間、真っ白になった頭に思考が一気に広がった。まるで宇宙のように際限ない万能感が一瞬だけ、体を支配した。


 ラビちゃんの姿がくっきりと見えた。見え過ぎた。ラビちゃんの意識の波長、眼球の動き、呼吸のリズム、筋肉――というか装甲? の収縮、全て見えた。それらの動き、揺らぎからラビちゃんの次の行動を予測することができた。


 理屈はわからない。まるでもう1つ目ができたような感覚。人智を超えた瞳、神様の瞳でも額に生やしたような感覚だった。


 気づいたらトライアドを手に取っていて、

 気づいたらダガーを弾いていた。


 正気に戻ったのはラビちゃんを組み伏せた後だ。


(なんだったんだ……アレ)


 脳の疲労が凄い。あの一瞬だけ、明らかに身に合わない能力を手にした。そのせいだ。


「え」


 視界に『WARNING(警告)』の文字が浮かんだ。続くシステムメッセージにはこう書いてあった。


――『脳疲労アラート』。


 長時間仮想空間に入り、脳の疲労がピークになると出るアラートだ。そういうシステムがあることは知っていたけど、実際に見たのは初めてだ。どれだけ長時間ゲームをプレイしても出たことなかったのに……。


「こらこら、人の上で呆けないでよ」

「あ、ごめん」


 そういえばお尻の下にラビちゃんを敷いたままだった。


「早くとどめ刺しな~」


 僕は拘束を解き、立ち上がる。


「って、あれ? どったのシキちゃん」


 ラビちゃんも立ち上がる。


「とどめはささないよ。トライアドは取り返したし、勝負も決めれた。僕は満足だよ」

「えぇ!? 大怪盗を捕まえた名誉とかいらないわけ!? 軍警からもきっといっぱい報酬出るよ!」

「いらない。それよりも、ラビちゃんとまた再戦できる方がありがたいよ。また強くなって、また戦おう。ラビちゃん」


 ラビちゃんは口をパクパクとさせて、最後には呆れたように肩を竦めた。


「……シキちゃん、怪盗よりよっぽど頭おかしいね。そういうとこ、大好きだけど――」


 ラビちゃんの表情が変わる。

 僕は何か違和感を抱くも、脳疲労のせいか違和感の出所を掴めず、次の展開に一歩出遅れる。


「シキちゃん!!」


 ラビちゃんが体当たりしてきた。

 けどこれは、攻撃じゃない。きっと――


「そんな……!?」


 僕は吹っ飛ばされ、ラビちゃんは――その胸の中心を撃ち抜かれた。


(狙撃!?)


 ラビちゃんは僕の方を見て、ニヤッと笑う。


「ははっ。愛する人のためなら、自然と体が動くってね」


 ラビちゃんはポリゴンとなって散る。


「ラビちゃん……!」


 苛立ちが僕に再びスイッチを入れる。


(一体誰が……!)


 狙撃の方向を見る暇は無かった。

 僕の頭上に、影が落ちたからだ。


(上!!)


 僕は後ろに飛びのく。僕の立っていた地面に、双剣を向けて落下する人影。地面に深々と双剣が突き刺さる。


「速い……いや、それよりも……」


 人影の正体はスペースガールでは無かった。


「……ヒューマノイド……!」


 白銀の、のっぺり顔のヒューマノイド。


 背には6枚の(ウィング)。金色のエネルギー体で出来たウィングだ。

 両手には剣。剣はレーザーサーベルではなく、実体の、機械の剣。


(来る!)


 ヒューマノイドは一歩で距離を詰め、双剣で攻め立ててくる。


(キレのある剣戟だ! 一太刀一太刀が鋭く変則的!!)


 剣は次第に僕を捉え始める。肩を、頬を、削られる。


(よ、避けきれないっ!? ただのヒューマノイドの攻撃を!?)


 脳が疲れていることを差し引いても、この強さは……!


(無類の強さだ。歯が立たない……!)


 一体、誰のアビリティデータを!!


「あれ?」


 ダブる。誰かとダブる。この動き、誰かと……。

 双剣を使う人で、ウィングを使う人。それでいて、強い人。


 そうだ……この動きは……!


「月上……さん!?」


 動揺が足を止める。

 瞬間、双剣に僕は両腕を斬り落とされる。


「くっ……!?」


 ヒューマノイドは僕の服をまさぐって、トライアドを奪う。


「目的はそれですか」

『……』

「聞こえていますか? この玩具を動かしている人」


 負け犬の遠吠えということは自覚している。それでも、言わずにはいられない。


「――この貸しは高く付きますよ。あの人のコピーを使うなんて、タダじゃおかない……!」


 僕の首はヒューマノイドに切断された。まるで、はじめて月上さんに斬られたあの瞬間を再現するかのように。


 形容しがたい屈辱……月上さんを倒すと言ったのに、こんな出来の悪いコピーにやられるなんて……。


 悔しい……悔しい。


(絶対に倒してやる。この白銀のヒューマノイドだけは、僕の手で……!!)


 視界が暗転し、僕はデリートされた。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 うわ~…完全にハイエナされましたね(怒) 勝負の余韻を汚され、トライアドもパクられ、それをやって来た相手がコピー人形という、三重に屈辱を味わされるとは……この借りは某ガンダムパイ…
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