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第91話 片鱗

 瓶の手は読めた。


 だから私は姿を消した後、ダミーを残して破片と液体を被らない位置まで退き、ダミーにシキちゃんが気を取られている間に背中側に周ってダガーで背を狙った。


 私の武装の中に銃はワルサーだけ。武装を入れ替えるにはメニューを開き、5~6秒の操作時間が必要。シキちゃん相手にこの時間、目を離すのは危険すぎる。


 だから私はダガーでのとどめを狙った。誤算だったのは、地面に散らばった瓶の欠片。


――ジャリ。


 その音が、私の心臓に冷たい水滴を垂らした。


(スラスターを使えば音でバレる。背後から急襲するには地面を蹴るしかない。それを見越しての瓶の破片による防犯砂利!)


 ただの瓶の破片じゃない。壊れやすく音がよく鳴る……!

 こんな簡単な罠に掛かるなんて……私としたことが勝負を焦った。


 銃口がシキちゃんの首の横からこっちを覗く。体を翻すも間に合わない。左肩を撃ち抜かれ、破壊される。ダガーを握っていた左腕が落ちる。


「くぅ……!?」


 わざと声を漏らし、姿も一時的に表す。意識を完全にこっちに向かせる。


 もう腕はない。私は落ちるダガーの柄を右足で蹴り上げ、口でキャッチする。ダガーの刃をシキちゃんに向ける。

 シキちゃんはとどめの1発をくれようとこっちを見る。


 意識が完全に私に集中し、ダミーから意識が外れる。


(リモコン式じゃなくて時限式にしておいて良かった。今の状態じゃ、スイッチは押せないからね)


 私は笑う。同時に、ダミーの中に入れていた消費アイテム――時限爆弾が炸裂する。


「なっ!?」


 ジャミングを解いたのはたまたまじゃないよ。こっちに注目させてダミーから意識を逸らされるためさ。

 ダミー人形に爆弾を仕込むなんて至極単純な罠だ。冷静な君なら気づく罠。君も私と同じ……勝負を焦ったねシキちゃん!


(最高のタイミングだ!)


 偶然撃たれることのないように爆弾は小型にしたため、規模はそこまで。距離2~3mでも撃破に至るダメージは与えられない。けど、その爆風に背を押され、シキちゃんは体勢を崩した。銃を持った右腕は開き、銃口は真横を向いた。バレットピースは爆風で乱され上手く飛べていない。


 後はこっちに押されてくるシキちゃんの首を、この口のダガーで掻っ切るだけ! さらにジャミングを再起動! すでに私の位置は知られているけど、見えない攻撃のタイミングは測れないでしょ!


(さすがにこれは、どうしようもないはず! それでも最後まで気は抜かない。君が消えてなくなるまで、私は一瞬たりとも気は抜かないっ!!)


 近づく。4m、3m、2――


「……!?」


 もう手は無いはず。自由なのは左手だけ。でもその左手で何ができると言う?

 武装を新たに展開する時間はない。そしてあのコルトガバメント以外に武装は無い。詰んでいる……はず。なのに、


(この威圧感はなんだ……!? 今までで1番、深く、底知れないものをシキちゃんから感じる……!?)


 シキちゃんの右眼が、私を見る。

 私は思わず目を見開いた。シキちゃんの右眼には、薄っすらと――『(むげん)』の紋章が浮かんでいた。


(無限……? いや、気にするな。振り切れ!!)


 私は頭を振って、ダガーでシキちゃんの首を狙った。


――恐ろしい。


(まったくもって恐ろしい。私と同じ女子高生に、こんなことができるなんて……)


 ダガーの1撃は、思わぬ手で弾かれた。

 シキちゃんは、左手に持った宝珠(トライアド)で、私の攻撃を弾いた。見えない攻撃を、ドンピシャで。


(音か、匂いか、それとも空間の僅かな歪みを見られたか、あるいは勘か読みか。なんにせよ、この土壇場で、視認できない攻撃をジャストガードとは恐れ入るよ)


 他のゲームで何でもパリィする人とか、1万以上のあらゆるゲームをクリアした人とか、バグを使う人とかと戦った事あるけど、彼らの誰もこんな芸当はできまい。コレだ。コレなんだよ……本物は人の性能を超えた『力』を持っている。コレこそ『本物』。コレに勝つことに意味がある……!


(まだだ……)


 まだ、勝負は終わってない!


(蹴りで距離を!)


 蹴りを放とうと右足に力を入れる。だけど、力を入れた瞬間に右足のつま先をシキちゃんに踏まれた。


(そんな!? まだRed-Lieで私の姿は見えていないはず!?)


 怯むな。攻撃の手を止めるな!


(この距離なら口のダガーで!!)


 私は首を振り、口のダガーでシキちゃんを狙う。


「――かはっ!?」


 ダガーの攻撃は届かない。

 シキちゃんの右の掌底に顎を突き上げられ、ダガーを口から離してしまった。


(さっきより、体術のキレが……!?)


 仰け反った私をシキちゃんは体術で組み伏せ、額に銃口を押し付けてくる。

 勝敗は決した。

 私はジャミングを解いて姿を現す。


「シキちゃん……」

「……ギリギリだった!」


 初めてゲームをクリアした子供のような瞳で、彼女は言う。


「スレスレだった! 策は出尽くしてた! 最後の爆弾は完全に予想外だった!! ……ありがとうラビちゃん。僕、さいっこうに楽しかったぁ!!」


 私に馬乗りになって、(とろ)けた顔でシキちゃんは言う。


「……ほんとシキちゃんは……えっろいなぁ……」


 まだ届かないか。

 自分の中に眠る色んな才能を解明して、いっぱい努力して、いっぱい対策したのにな。


――この迷宮を攻略するには、まだまだ準備が必要らしい。


 解けないパズルがあるっていうのは、とてもステキな事だね。シキちゃん。

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