第90話 十字路の差し合い
ラビちゃんは軽い身のこなしで右へ移動する。僕の正面から逃げる。僕の視界から消えていると勘違いして。
(あぁ、楽しいなぁ……)
昔を思い出す。
あの頃も結局周りが相手にならなくて、君といっぱい戦ったね。
(この時間がずっと続けばいいのに)
落ち着け。高揚するな。動揺を装え。
見えていないフリをするんだ。
(耳を澄ましている、フリをする)
悟られてはいけない。
ワンオフ式サーベルの端末を左腰、ベルトに挟んである。
ラビちゃんが右に周ったら、左手で端末を手に取る。それで――
(え?)
視界の端。
ラビちゃんは、なぜか僕にRed-Lieを向けた。もうRed-Lieの術中に落ちているはずの僕に。
僕はつい、眼球をラビちゃんに合わせてしまった。
「やっぱり、見えてるね」
(しまった……!!)
Red-Lieの1撃を屈んで避け、ワンオフ式サーベルを拡張させて横に薙ぐも、伸びたサーベルは飛んで躱された。ワンオフ式サーベルは光を失い、使用不可となる。
「どうやって防いだの? ――って、大体わかってるけどねぇ」
「……」
「シールドピースでしょ。服の下にシールドピースを忍ばせていた。違う?」
正解。僕は服の下から10基のシールドピースを出す。
Red-Lieの弱点は威力がとにかく低いこと。シールドピース1枚で容易に防げる。広範囲にシールドピースを張ることが簡単な対策になる。けれど見える所に盾を置いても躱されるだけ。だから服の下に張っていた。
やってみてわかったけど、あまり良い手ではない。なんと言っても――肌の表面を硬い物体が這っていく感覚、ゾワッとする! 集中力も使うし、バレてしまえば露出した肌を狙うなり対策もできる手だ。もうこの手はやめとこ。
「もう! おっぱいにシールドピースを張るなんて、シキちゃんのエッチ!!」
(気にしちゃダメ。ラビちゃんの狙いは僕の集中を乱すことだ)
「でもそれっておっぱい小さい子しかできないよねぇ~。私みたいに大きいと、シールドピースで胸を防御したらすぐわかっちゃう。揺れとか不自然になっちゃうもん♪ 胸がピースの移動の邪魔にもなるし」
(むかっ)
平常心、平常心……。
「そっちはどうして僕が見えているとわかったの?」
「演技に少し乱れがあったし、シールドピースの量も少なくなってたしね。でも1番は……シキちゃんにしては無策過ぎた。君があんな簡単に銃弾を受けるはずがない。君の強さを私は信用している」
これだ。これが厄介。
油断や慢心が一切ない。僕に対し、過大とも言える評価を抱いている。
(僕の戦術が悉く看破される……!)
ラビちゃんは赤いシールドピースをスカートの下から出す。
その数はぱっと見80程。通常のシールドピースと同じ大きさなのに、その数は少ない。シールドピースは通常1セット50、2セットで100だからね。何か特殊な力があるのかな。通常より硬いとか。
「このシールドピース、そこまで警戒しなくていいさ。タダのシールドピースより……」
「!?」
あの赤いシールドピース、通常のシールドピースと違って半透明じゃない! シールドピースの先が見えない。不透明になっている!!
「見えないだけだから」
たかが見えるか見えないかの差かと思うかもしれない。シールドピースを20個も削ってまで欲しい性能ではないと、そう普通の人は思うかもしれない。
否だ。簡単に死角を作れるということがどれだけ恐ろしいことか。TPSやFPSを少しでもかじったことのある人間なら、あの武装の厭らしさがわかるはず……!
「イリュージョン♪」
80のシールドピースがラビちゃんの前を横切った。同時に、ラビちゃんの姿が消えた。
(動揺しちゃダメ! シールドの陰で見えなくなった瞬間に、僕の死角へ飛び込んだだけだ!)
シールドピースを目隠しに使うなんて……まったくもう、次々と目新しいことをしてくる……!
(視界をフルに開け!! 隠れられる場所なんて限られている!)
全力で視界を広げれば、真後ろ以外は見える。なのに視界内に彼女の姿はない。ならば、
「後ろ!」
背後を振り返る。距離にして10mほどの所に、人影はあった。手には赤いワルサーを構えている。
僕はG-AGEの銃口を向けるけど、思わず指を止めた。止めてしまった。
「なっ!?」
そこに居たのは、月に居るはずの姫。指の力が――抜ける。
「白い……流星」
しかも、なぜかビキニ水着だ! 黒のビキニ! 面積が小さい!!
「……違う!」
月上さんの姿に電流が走り、プツンと姿が消え、代わりにラビちゃんが現れた。
(3D映像を纏い、変装する武装か!!)
1歩。僕が手を止めた時、1歩距離を詰めてきた。
たった1歩。しかし、大きな1歩だ。僕が反射で避けきれない位置。ここじゃ、Red-Lieは躱せない。
――負ける。
(避けきれない。ならばいっそ!!)
僕は防御を捨て、前に出る。
「!?」
(どうせ喰らうなら、こっちの必中距離まで近づく!)
「いいよ! それでこそ私の――!」
銃声が鳴り響く。互いに5発の弾丸を放つ。
Red-Lieの弾丸――最初の3発はシールドピースで弾けた。続く1発はこっちの弾丸で撃ち落とした。だけど最後の1発は首筋を掠めた。
G-AGEの弾丸――最初の3発は躱されたけど、4発目はワルサーの弾を撃ち落とし、シールドピースを貫き、ラビちゃんの脇を掠めた。脇を掠めたその1撃が僅かな動揺・隙を生んだ。続く5発目がシールドピースを貫き、Red-Lieを破壊し、そのままラビちゃんの右肩に命中。弾丸は右肩を捻り潰した。ラビちゃんの右腕が落ちる。
「っ!? 馬鹿破壊力の弾丸……!! その銃も特別みたいだね。でも!」
赤い稲妻が視界に走る。
彼女が、視界から消える。
「嘘塗れの世界へようこそ」
今度こそ正真正銘、嘘の世界に落ちる。
(もうこれを使うしかない! ジョーカーの手に落ちた僕を救う、スペードの3!!)
僕はアイテムポーチを開き、瓶を8本取り出す。
両手の指に瓶を挟んで上に投げる。バレットピースで1本の瓶を破壊。熱光線を受けた瓶は弾け、爆発する。その爆発によって他の7本も容器を破壊され、中身を飛び散らせる。
(燃料を入れたのは1本だけ。残りはただのオレンジジュース)
撒かれたオレンジジュースは11時の方向、距離2m地点で弾けた。瓶の破片もその地点でだけ落下の軌道を変えた。
オレンジの雨と破片の雨で、敵の位置を特定することに成功する。
「そこだ!」
僕はオレンジジュースの弾けた方向に向かってG-AGEを向け、発砲する。
(捉えた……)
プシュー。と、空気の抜ける音が聞こえる。
「な……に……!?」
僕がいま撃ち抜いた物体が、姿を現す。
それは、ラビちゃんと同じ姿をした、風船。
「……そんな!?」
完全に、見失った……!
(いやまだだ!)
僕はG-AGEをリロードさせ、右手に握り、正面に向ける。
まだ次善の策がある。
――ジャリ。
(音……背後……5時……3m……!)
右肘を曲げ、首の横から銃口を背後に通す。
背後を見ず、ノールックで僕は引き金を引く。後ろで、弾丸が炸裂する音がする。
「くぅ……!?」
振り返る。そこには左腕を破壊され、仰け反るラビちゃんの姿があった。
(ショックでRed-Lieのジャミングが解けたのか! ――いける!!)
僕は体の向きを反転させ、ラビちゃんと向かい合い、G-AGEを持つ右手を上げる。
――その瞬間、背後で爆発音が鳴り響いた。
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