第89話 トリックスターの力
Red-Lieの威力は実弾銃らしく非常に低い。G-AGEのように貫通能力も無いため、簡単に弾ける。
だけど体のどこかにぶつかるとナノマシンを埋め込まれ、ラビちゃんを認識できなくなる。
速度は通常のワルサーより速く、近距離で反応するのは困難。
かなり強力な武器。きっとG-AGEと同じ、特殊なミッションをクリアすることで手に入る武器なんだと思う。
対策として僕が出す手札はこの火炎放射器とマントの緋威。
ワルサーの弾丸じゃこの火炎に触れるだけで溶かされる。さらに火炎放射器でワイヤーを燃やすこともできる。燃えたワイヤーの処理は手間だ。すぐに再展開はできない。
たとえ奇策で不意を衝かれても、緋威なら特殊モードを使いノーモーションで弾丸を防げる。この2手でどれだけ詰められるかが勝負……!
「ファイヤー!」
火炎放射器から火炎を放射し、ラビちゃんを狙う。ラビちゃんは火炎を避けるが、伸ばしていたワイヤーは燃える。ラビちゃんはワイヤーをナイフで断ち切り、ワルサーで僕を狙う。僕は火炎の渦で弾丸を溶かし、そのままラビちゃんも燃やしにかかる。
「うぎゃあっ!? 厄介大将軍!!」
ラビちゃんは左手のトリックアームからワイヤーを射出し、ビルの窓に引っ掛けてワイヤーを縮め移動。火炎を躱す。
(想像よりも効いてる。これなら……!)
火炎を放射して相手の行動を制限しつつ、バレットピースで四方から攻撃する。ラビちゃんはスラスターを噴かして四方からのレーザー弾を躱すも左手のワイヤーを撃ち抜かれる。
「これはまずっぽい……!」
ビルとビルの間を飛んでいたラビちゃんだったが、ワイヤーを止められスラスターも切らしたことで飛行手段を失い、落下を始める。
ラビちゃんは道路を走る自動車の上に着地。僕もラビちゃんとは別の自動車の上に着地し、ラビちゃんを追う。
今度は車上から車上へ移動しつつ、攻防を繰り広げる。
さすがに車が行き交うこの場所で火炎放射器を使うわけにもいかず、スタークとバレットピースで応戦する。ラビちゃんはRed-Lie一丁で僕と撃ち合う。
(弾幕の張りにくいシチュエーションとはいえ、バレットピースと僕の狙撃をシールドピースも使わずに凌ぐのか!)
堅守のツバサさんとはタイプが違う。回避特化のプレイヤー!
(車の数が減った)
繁華街を抜けたからか。車が少ない。
大都市にしては寂れた道に出る。
ラビちゃんと僕は同車線の車に乗っている。前がラビちゃんで、すぐ後ろの車に僕は乗っている。ラビちゃんが乗っている車と、僕の乗っている車の間の距離は10mほど。
ラビちゃんは僕に背を向け、車上から自身の乗っている車の前に飛び降りた。車の陰でラビちゃんの姿を見失う。
(衝突音は無かった。轢かれてはいない)
1秒で考える。
僕らのいる車線には一定間隔でマンホールがある。
ラビちゃんが飛び降りる直前、ラビちゃんの車の斜め前にはマンホールがあった。
僕の乗っている車はあっという間にそのマンホールを通り過ぎる。
(そこ以外に、隠れられる場所はない!)
僕はG-AGEを右手に持ち、左脇下をくぐらせ背後に銃口を通す。そして、マンホールから頭を出したラビちゃんに向けて弾丸を放つ。
(あの一瞬でマンホールに逃げ込んで、僕の車が通り過ぎるのを待ってから背後を狙うなんて、とんでもない早業だ。だけど、ギリギリ反応できた)
違和感。
(傷……?)
マンホールの蓋に、槍にでも突かれたような傷がついていた。
――違和感。
弾丸はラビちゃんの額を撃ち抜く、だけど、ラビちゃんの額から噴き出したのはネジでもエネルギーでも無く、空気。
「ダミー人形!?」
僕は正面を見る。車の背に、ラビちゃんは立っていた。
(マンホールにダミーだけ入れて、自分は車の下にでも張り付いていたのか! マンホールの蓋はワイヤーを引っかけて開閉させた。蓋の傷はその時に付いたもの……!)
ラビちゃんは手にワルサーを持っている。この距離、この足場、この体勢。避けるのは無理!
「燃えろ緋威!!」
特殊外套『緋威』。10秒間『炎纏』モードにすることができ、その間、マントに触れた物体を溶かし破壊する。僕は『炎纏』を使用し、紅蓮のエネルギーをマントに纏う。
(反射回避は不可能! マントでカバーできない部分はシールドピースで埋める!!)
放たれるワルサーの1撃。狙われたのは顔面だったけど、シールドピースがそれを防ぐ。
炎纏終了まで残り7秒。僕は思い切って飛び、ラビちゃんと同じ車の上へいく。
「大胆だねぇ♪」
「一気に決めるよ。ラビちゃん!」
G-AGEとバレットピースで接近戦を仕掛ける。
あと数秒の間はワルサーは効かない。シールドピースと緋威で体の全面積をカバーできる。
まず僕は炎纏による体当たりをするが、それは上に飛んで躱される。予想通りの運びだ。空中に飛んだラビちゃんに向けてバレットピース6基による包囲射撃を行う。しかしそれもスラスターの加速で躱され、ラビちゃんはまた僕のいる車の上に着地する。着地の硬直をG-AGEで狙うけど上体を逸らして躱された。
(体勢崩れた……! 追撃で――)
ラビちゃんはわざと足を滑らせ、車から転げ落ちる。
「上手いな……!」
ラビちゃんは空中で体勢を直し、上手く道路に着地。僕も追いかけ、車を降りた瞬間――ラビちゃんはスラスター全開で距離を詰めてきた。同時に炎纏も時間切れとなり、マントは塵となる。
(炎纏が切れる瞬間を狙って……!)
ラビちゃんはブラックライトのレーザーダガーを逆手に持って振ってくる。僕はダガーを持つラビちゃんの右手首を左手で掴む。
「にゃっ!?」
「甘いよ」
そのまま腕と襟を引っ張り、背負って投げ、地面に叩きつける。
倒れたラビちゃんの胸に膝を落とそうとするけど、ラビちゃんは左手の中心に空いた穴からワイヤーを射出した。僕は体を捻ってワイヤーを回避するも、その隙を衝かれ左膝の裏を蹴られて怯んでしまう。ラビちゃんは拘束から逃れ、僕から距離を取る。
すぐに距離を詰めようと駆け出すと、ラビちゃんは顔面に向けて蹴りを繰り出してきた。その初撃は半歩下がって避けるも、続く連撃――足技主体の格闘術に押され、最後は腕のガードごと蹴り飛ばされた。
「キックボクシング……!?」
「違うよ。これはサバットさ」
サバット。フランス由来の護身術。なんで女子高生がそんなの使えるのさ!
「君のは柔道? いや……柔道にしては冷徹。シキちゃんの趣味から察するに、軍隊式格闘術かな?」
「当たりだよ。えへへ……前に見たミリタリー映画の主人公が使っててさ、憧れて動画見て練習したんだ。見様見真似だよ」
コマンドサンボはロシア由来の軍隊式格闘術。打撃、投げ、締め技、関節技、なんでもアリ。とにかく相手を戦闘不能にすることに徹した合理的な武術だ。
……よく創作物の軍人キャラが使う武術でもある。憧れて練習してしまった。仮想空間を使えばいくらでもダメージ無く練習できるし、CPU相手に実践&実戦もできる。ゲーム嫌いの梓羽ちゃんも、ゲームじゃなく格闘術の練習だから相手してくれたしね。
「……私はガチで習っていたんだけどなぁ。なんで互角なのさ」
「それよりラビちゃん。怪盗なら、もう少しお宝に気を配った方がいいんじゃないかな」
僕は右手に持った宝珠トライアドを見せる。
「げっ!」
ラビちゃんはポケットを探り、トライアドが無いことを確認すると悔しそうに唇を噛みしめた。
「格闘戦の時に盗ませてもらったよ。怪盗さん」
「……やってくれたねぇ、シキちゃん……!」
「これで、僕を置いて逃げるという選択肢は無くなったね」
距離7m。
月が彩る夜空の下、人気のない十字路の上。僕は腰のホルスターに掛けたG-AGEに手を伸ばし、ラビちゃんはストッキングに差したRed-Lieに手を伸ばす。
「早撃ち勝負……だね」
「結果は明白だよ。勝負にはならない。わかるでしょシキちゃん」
「さぁ、なにもわからないかな」
バン! と、銃声が重なる。
僕の放った弾丸は躱され、そして、ラビちゃんの放った弾丸は僕の右胸に当たり、服に穴を空けた。
「私の勝ちだね。シキちゃん」
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




