第82話 真っ赤な嘘
空を飛ぶラビリンスのワイバーンに向けて、狙撃銃の引き金を引く。
スタークから発射された黒いレーザー光線がワイバーンを撃ち抜いた。ワイバーンは爆発し、ラビリンスは空に投げ出される。
ラビリンスにとって予想外の1撃だったのか、ラビリンスは手足をパタパタさせながら落下していく。
(空中で狩る!!)
自由の利かない空中。
それでいて街灯が届かない上空。スタークの黒い弾丸は夜の闇に溶け躱しにくくなっているはずだ。
僕はさらに3回ライフルの引き金を引く。1発目の弾丸はスラスター加速で避けられ、2発目もまたスラスターで躱されたけど、スラスターが切れた瞬間を狙った3発目はラビリンスの腰部に当たった。
「あれ?」
当たったはずだけど、レーザーはなぜか弾かれた。マントは貫いている。穴の空いたマントから、しずく型の宝珠が零れた。それによって僕はレーザーが弾かれた理由を察した。
(マントの内ポケットにでも入れていた宝珠に、レーザー弾が弾かれたのか)
どうせあの着弾位置じゃ致命傷にはなりえない。これは幸運と取るべきだ。
(トライアドはスタークの攻撃じゃ一切傷は付かないみたいだ。それなら……!)
ラビリンスは電柱のてっぺんに1度着地し、最低限スラスターを回復させた後で跳躍。落ちるトライアドに手を伸ばす。僕はトライアドを狙撃し、トライアドを弾いて動かし、ラビリンスの手にトライアドが渡らないようにする。何度も狙撃を繰り返す内に、互いの距離は縮まっていく。
(よし、誘導完了)
アサルトライフルとバレットピースで狙える距離!
ラビリンスは僕がアサルトライフルを取り出すのを見て手を引っ込め、付近の建物の屋根上に退避した。トライアドが道路に落ちる。
「まずは宝珠の回収だ!」
「はい!」
道路を走る障害物を避け、トライアドの元へ。僕が手を伸ばしてトライアドを拾う。
「本物か?」
「どうですかね……」
「ちょい貸してくれ」
イヴさんは宝珠を握り、ひとしきり眺めると、
「間違いなく本物だな」
イヴさんはその職業柄、多くの貴重品を見てきたことだ。イヴさんの目利きは信じていい。
200m程先の低層ビルの上。ラビリンスはこっちを見て、小さく笑った後に背中を見せて逃走を始めた。
「さてと、あとは怪盗をとっ捕まえるだけだ。宝だけ持って帰るか、追跡するか。判断は任せるぞ、シキ」
「追います。怪盗との距離を100mまで詰められたら、イヴさんは宝珠と一緒に離脱してください」
「了解だ相棒」
イヴさんはなぜかカジノの壁に向かってバイクを走らせる。
「イヴさん!?」
「つかまってろよ!!」
イヴさんはバイクの前輪を浮かせ、壁に前輪→後輪の順番で着かせ駆け上がる。
「壁を走るなんて……!? どうやって壁に引っ付いているんですか!?」
「磁力だ! ホイールからハンドル、車体の至る部品に磁気核を組み込んで、指向性のある磁力を発し内部で反発させてバイクを壁に押し付けている!!」
「なに言ってるかよくわかりませんがわかりました!」
バイクはカジノの電子看板の上に上がり、看板を滑走路に飛び、ビルの上に飛び乗る。
「見えるか?」
スコープを覗く。
(なんで……)
ラビリンスは300m先のビルの上で立ち止まっていた。
そしてなぜかこっちを振り返って、またニヤッと笑うと逃走を始めた。
(挑発しているのかな?)
なにか罠があるかもしれないけど、乗らない手はない。
「2時の方向です!」
「オーライ!」
イヴさんはバイクのスラスターを使い、屋上から屋上へ飛んで移動する。
ラビリンスは手から出すワイヤーと背中のスラスターを使って建物の上を器用に移動する。
僕が狙撃するも、ラビリンスは簡単に躱す。
(ワイヤーとスラスターを使った空中機動! 変則的で動きが読みづらい上に、ラビリンス自体の反射神経も良いから狙撃が当たらない。もっと弾速があれば……!)
ない物ねだりをしても仕方ない。
牽制は効いている。狙撃する度にラビリンスの逃走速度は緩やかになっている。
もう少しで追いつく!
「うおっ!?」
あと建物4つ分と迫った所でバイクの動きが狂う。
(しまった……!?)
いま通り過ぎた場所を見て、過ちに気づく。
僕らがいるビルの屋上にはまきびしが撒いてあった。それもご丁寧にまきびしの色は保護色にしている。僕らは気づかずまきびしをタイヤで踏み、パンクさせてしまった。タイヤの歪みが全体のバランスを崩してしまう。スピードがついていたせいで、車体のバランスを立て直す時間がない。
バイクは横転しながら屋上の柵を突き破り、僕らは道路の上空に投げ出される。
「シキ!! あたしはここで離脱する! お前は奴を追え!」
イヴさんは僕の腕を掴み、バイクから剥がして宙に投げる。
「ありがとうございます!」
僕はスラスターを使って正面のビルの屋上へ着地。イヴさんはバイクと共に道路に落下していく。
(スラスターを使えば致命傷は避けれるはず。今はとにかく、ラビリンスを追うことが最優先!)
イヴさんへの心配は振り切り、ラビリンスの追跡を続行する。
ラビリンスを追って夜の街を駆けていく。狙撃で上手く足を止めさせることで、なんとかついていく。
ラビリンスは一際高いビル――摩天楼の屋上で唐突に足を止めた。
「いやぁ、ようやく2人きりになれたね」
距離15m。G-AGEを使える間合い。
(この距離なら狙撃銃よりこっちだ。バレットピースで防御を固めさせて、G-AGEで仕留める)
僕の必勝パターンに持ち込んでやる。
「まったく、怖い顔しないでよ。そうだ! 面白い物を見せてあげるね。きっと、気に入ると思うよ」
ラビリンスはスカートを軽くたくし上げる。その行為によって、ラビリンスがスカートの下に隠していたある武装が露わになる。
太ももまである黒ストッキング――そこには拳銃が差し込んであった。
「とっておきだよ♪」
そして彼女は、ストッキングに差し込んでいたその拳銃を手に取る。
「そ、れは……!?」
驚かざるを得なかった。
見慣れた拳銃だ……ショートリコイル式の撃発システム、ダブルアクション機構。ドイツ生まれの自動式拳銃――しかしその色は、僕の知っているものと違う。
「赤い……ワルサー……!?」
「そうだよ。この銃の名は」
雲が動き、月光が漏れる。まるでスポットライトのように、ラビリンスの頭上に月光が降りる。
「ワルサーP38――“Red-Lie”」
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