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第79話 焔の衣

 警察署の表、僕が壁に背を預け座っていると、


「は~い。お嬢さん」

「?」


 パーカーのフードを深く被った女の子に声を掛けられた。

 フードのせいで顔は良く見えない。けど、鎖骨まで伸びた水色の髪は見える。


「どうしました?」

「道をお聞きしたいんだけど、武器屋『ワイズ』ってどこかな?」

「それなら、この先の道を右に曲がって真っすぐ行けば着きますよ。看板に大きく『W』って書いているので、それを目印にしてください」

「オッケー。せんきゅ~」


 女の子は去っていく。


「あれ?」


 おかしいな。僕が初対面の相手に緊張せずに話せるなんて……。


「もしかして僕、成長してる!?」

「すみません~」

「うひゃあ!?」


 また見知らぬ女性に話しかけられた。


「道をお尋ねしたいのですが……アンパッチ通りってどこですかね?」

「ああ、えっと、みち……ミチってなんでしたっけぇ!?」

「え?」


「回れ右だよお姉さん。あそこの橋を渡ればそこがアンパッチだ」


 横に停まった軽トラの運転手が、窓を開けてお姉さんに道を教えてくれた。


「うわ! 通り過ぎてた! ありがとうございます!」


 お姉さんは頭を下げて、教えられた道を行く。


「お前さん、ほんっと人見知りだな」

「イヴさん……助かりました」


 や、やっぱり初対面の相手はダメだ。

 なんでさっきの女の子は大丈夫だったんだろ。年齢の問題かな。最初の子は多分、同世代ぐらいだったけど、2度目の人は明らかに成人の見た目と声だったから……。


「ほれ。早く乗りな」


 イヴさんが持ってきたのはさっきと同じ軽トラだ。だけど、さっきは荷台が空っぽだったのに今は何かを積んで上からグリーンシートを被せている。


「グリーンシート……この形、もしかして」


 グリーンシート越しに見える輪郭から、僕は荷台の物がなんなのかを察する。


「怪盗ってのはすばしっこいもんだろ。だからとっておきを持ってきた」


 僕は助手席に入る。


「アレに乗るの、楽しみですね」

「楽しむ余裕がありゃいいけどな」


 軽トラが発進する。


「ビーンスタークの調子はどうだ?」

「射程は3.3kmまで伸びました。それに名前が変化しましたね。ビーンスタークV1がビーンスタークV2になりました」

「ビーンスタークのVはversionの略だけど、まぁレベルって考えりゃいい」

「最高でどこまでいくんですかね?」

「グロウメタルは色んな奴に売り捌いたが、V5で全員止まってたな」

「……まだ3段階上があるんですね。驚きました。最終的には射程10kmぐらいまでいきそうですね」

「射程なんてそんな必要か? 1kmありゃ十分だろうよ」

「なにを言うんですか! 射程は長ければ長いほどいいんですよ! 車だって、最高速は速いに越したことないでしょう?」

「……違いねぇ。なるほどねぇ、狙撃手にとっての射程はドライバーにとっての最高速か。うんうん、すんげー良く理解できた」


 軽トラは砂漠に入る。大都市エレクトラを目指して。



 --- 



 20分近く軽トラックに乗って、イヴさんと2人で居て気づいた。イヴさん相手だとあまり緊張せず喋れる。


 イヴさんは別に僕の得意なタイプであるクール系ではない。言葉数も少なくないし、陽気とまでは言わないけど陰気なタイプでもない。だけど言葉の節々に配慮があって、僕が言葉に詰まると上手く言葉を引き出してくれる。僕が無言になると自然と話しやすい話題を振ってくれる。


 誰かに似てると思ったけど、そう、お母さんにちょっと似てるんだ。お母さんもラフな性格だったから。


「お前さんはもうオークションの狙いは決めたのか?」

「はい! 悩んだんですけど、これにしました」


 僕はその商品が映った電磁スクリーンをイヴさんに向ける。


「それは……特殊外套か」


 紅色の外套で、マントの先はなぜかズタズタだ。ダメージ加工? とでも言うのだろうか。ちょっと中二病っぽいけど、正直かなり好き。

 デザインも好みだけど、1番はやはりその性能。


「名前は『緋威(ひおどし)』。装備中ステルス性を常時1.5倍にする」

「そこまでは普通の特殊外套だな」

「このマントの面白い所は『炎纏(えんてん)』という特殊モードを搭載している所です」

「なんだそりゃ」

「脳波で炎纏モードに移行(スイッチ)できて、なんと炎纏モードになると緋色のエネルギー体を纏うのです! 緋色のエネルギー体は灼熱で、マントに触れる物を溶かして破壊するのです!」


 マントの内側はエネルギーを纏わないので、うっかり外側を触らない限り自爆の心配はない。


「炎纏状態で突進して相手を破壊することもできるし、咄嗟の際には盾にもできるってわけか。レーザー系も溶かせるのか?」

「はい! 『溶かす』というより、エネルギー体を流動させてレーザーを『弾く』そうです。炎纏の持続時間は僅か10秒ですが、大金をはたく価値はあるかと。特殊外套は一般に流通してませんし、癖のあるものが多い」


 ダストミラージュみたいに環境依存だったりするのがほとんどだ。どの時間帯、どのフィールド、どの相手にも有効な特殊外套なんて見たことが無い。


「その点、緋威は場所も相手も選ばない」

「……恐ろしいな」

「ですよね! 恐ろしい性能です!」

「いや、そのマントじゃなくてな」


 イヴさんは僕をチラッと見て、


「お前さんがだよ。今でも十分強いのに、武装もステータスもまだまだ上があるんだもんな」

「えへへ……僕はもっともっと強くなりますよ」


 まだまだ! 月上さんに勝つためには足りない物ばかりだ。


「イヴさんはなにを落札するつもりなんですか?」

「コアエンジン『フェニックス』」


 不死鳥。またシンプルな名前だ。

 だけどこういうシンプルな名前のアイテム程強力だったりする。


「コアエンジンってのはメカの動力源にできるもんでな、とりわけこのフェニックスは条件さえ揃えれば高出力・無尽蔵のエネルギーを持つ。まさに不滅のコアエンジンさ」


 無尽蔵のエネルギー……それは確かに凄いなぁ。


「これをエンジンに使えば宇宙戦艦だって動かせるぜ!」

「す、凄いです! ロマンですね!」

「ああ! ロマンだ!」


 僕とイヴさんは顔を突き合わせて笑う。


「楽しみですねぇ、オークション♪」

「楽しみだなぁ、オークション♪」


 いつの間にか怪盗の方がついでになっていた。

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怪盗さんとエンカウントしてたんじゃないかな?しきっちょ大丈夫?
>「これをエンジンに使えば宇宙戦艦だって動かせるぜ!」 ベースとなる船体には心当たりがあります!
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