第74話 裁きの光
研究所から5km地点。
僕はツインレッグの上で、あるTWを装備していた。
それは――巨大なスナイパーライフル。
銃身の長さは10mを超え、重さは800kgを超える。腕では支えきれないのでバイポッドのような5本の支柱に支えられている。さらに僕の背後にある巨大な筐体からは無数の導線がライフルに繋がれている。
「これこそ! チャチャさんとイヴりんの共作! 超長距離スナイパーライフル、『レイ・オブ・サンクション』!! 射程19.5km! 1発毎に30分のチャージと42個の部品交換が必要な最悪燃費品だけども、その弾速と破壊力は流星の如く!!!」
僕の左に立ってチャチャさんは言う。
「1発きりって、やっぱりきつくないか。高速で動く宇宙船を、こんなロングレンジで撃ち抜くなんて馬鹿げてるぞ。試し撃ちもしてないしな」
僕の右横からイヴさんは言う。
「問題ありません。必ずやり遂げます」
僕が言うと、チャチャさんはイヴさんの背中を叩き、
「ささ! チャチャさん達は退散、退散」
「なんで? 近くでサポートした方がいいだろ」
「ダメだよ。いいかいイヴりん、シキっちょはね。ボッチスナイパーなんだよ。1人で居る時が1番強いのさ。チャチャさん達が近くにいると十分な力を発揮できない」
「うっ……ボッチスナイパーと言われるのはアレですけど、仰る通りではあります。すみません、イヴさん。ここは1人にしてください」
これだけの長距離狙撃、少しでも集中力は高めたい。
「わ、わかった。後は任せるぞ、シキ」
「はい!」
イヴさんとチャチャさんの気配が消える。
(こんなロングレンジの狙撃はしたことない。シミュレーションは何度もしたけど、実際に持つとやはり感覚も違う。銃口を1mm動かすだけで狙いが大きくズレるんだ。扱い、難しい。けど、外す気はしない)
少し残念な気持ちはある。
ニコさんとクレナイさん、レンさんで何の苦戦も無く研究所を押さえられた。つまり、その程度ということだ。
(……ヒューマノイドにインストールされたアビリティデータ、アレの元となった人はきっと研究所にはいなかった。居たらここまで簡単に制圧されていない)
アビリティデータはどこかで買ったのかな。
心のどこかで僕は、僕らの作戦を上回る強い人が出てくることを望んでいた。でも残念ながら『予想外』は起きなかった。
まぁいいや。超長距離射撃ができるなら僕は十分に満足できる。これまでの労力の見返りは十分に得られる。
(ナドラさん。あなたはイヴさんを馬鹿にしていたけれど、それだけの規模の研究所を作ってる時点で、あなたもかなりこのゲームにのめり込んでいる)
いま、あなたは焦っているはずだ。積み上げた物がゼロになろうとしているのだから。それだけの力を手に入れるのに半年、下手したら数年かかったはず。
「……せめてもの情けです。完膚なきまでに、撃ち滅ぼしてあげますよ」
あなたの、理解の及ばない力でね。
(来た)
宇宙船が研究所から打ち上がる。
サイズが大きい。スペースガールだけでなく、大量の荷物を入れているに違いない。ロケットタイプの宇宙船だ。
(耳から音が消える。見なくとも、聞かずとも、周囲の景色が頭に浮かぶ。指先の感覚が尖り、口角に僅かに涎が溜まる。体が瞬きを忘れて、遥か先が目の前に見える……)
宇宙船は数分で宇宙まで到達するだろうね。つまり30秒と待たず射程外へ消える。
(熱源ロック、主電源サーチ完了。照準操作を手動誘導から脳波誘導に移行。飛行ルート予測確定。全機関フルオープン、オールグリーン。高度7.6――)
僕は引き金を引く。
「さよなら」
ライフルから青白い光が放たれ、まるで流星の如く飛び、宇宙船を高度7.6km地点で貫く。
主電源を撃ち抜かれた宇宙船は爆発し、空に黒煙をまき散らす。
「寸分狂いなし」
こうして、ナドラさんは監獄へと送還された。ついでに僕の懐にナドラさんの手持ちチップの半分であろう――3億チップが入った。
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