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【書籍化決定】スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
殺し屋シキ編

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第69話 八方塞がり

「よぉし! そうと決まれば復讐だ! あんにゃろうのケツに火つけてやるぜ……!」

「切り替え早いですね……」


 イヴさんは燃えに燃えている。

 ここで沈み込むような人じゃなくて良かった。


(……さて、僕はどうしようか)


 すでにイヴさんからの任務は完遂している。これ以上付き合う義理はない。


(気になるのは、あのヒューマノイド)


 以前、ニコさんとチャチャさんがヒューマノイドについて話していたのを覚えている。


『最近ヒューマノイドに絡まれること多いんだけどさ、製造者によって動きにめっちゃ差があるのよね。なんで?』

『そりゃそうだよ。ヒューマノイドは基本的にスペースガールの動きをトレースさせているからね。モデルにしたスペースガール次第でスキルは大きく変わるよ』


 ヒューマノイドはプレイヤーの能力情報(アビリティデータ)をベースに動いている。強いプレイヤーをモデルにすれば強くなり、弱いプレイヤーをモデルにしたら弱くなる。

 僕達を追撃してきたあのヒューマノイドはかなり良い動きをしていた。原型となった人物がそれだけ強いってことだ。


 もしもモデルがナドラ研究所にいるなら、戦ってみたい。


「……イヴさん、その復讐劇、僕も手伝いますよ」

「いいのか? 正直、お前さんをどう引き込むかに頭を使っていた所だ」

「無償で結構です。スタークはあの1度の護衛程度で貰って良い武装じゃないですから。ただ問題はどうやってナドラさんのクラスを犯罪者にするかですね」


 クラスを犯罪者にできればデスペナルティが変更になる。ナドラさんを撃破すると同時に、ナドラさんは牢獄に送られるようになる。 


 だけどそれをせずにキルすればただチップ半損になるだけで終わる。しかもそうした場合はナドラさんをキルした僕らが処罰の対象になる可能性が高い。


「ジョリー・ロジャーには警察はいないのですか? とりあえず警察に相談すべき事態だと思いますけど」

「……警察はいる。が、いないに等しい」


 イヴさんは気だるそうに後ろ頭を掻く。


「一応、話は通しておくか」



 --- 



 ジョリー・ロジャーに戻り、向かったのは街の警察署。


「ここだ」


 警察署はコンビニ程度の小さな建物だった。

 中に入ると、カウンターが1つ。そこに軍帽と軍服に身を包んだスペースガールが頬杖をついていた。


「はい、らっしゃい~」


 なんとまぁ、やる気のなさそうな人だ。

 糸目で濃いグリーンの髪、見た目の年齢は20代後半といったところ。


「フーリン、仕事だ。ナドラってやつのクラスを犯罪者に変えて欲しい」

「オッケー。やっとくやっとく」


 これほど見事な空返事もない。


「いいか。今から詳しく説明するからちゃんと聞けよ」


 イヴさんはわかりやすく現状を説明する。それに対するフーリンさんの返事は、


「オッケー。やっとくやっとく」


 何もする気はない。そう態度で示している。


「ざっとこんなもんだ。コイツがまともに働いている所なんて1度や2度ぐらいしか見たことが無い。何もやらない『やっとくさん』だよ」


 さすがは無法地帯の警察……。


「他の街の軍警に手を借りるのは……」

「無理だな。基本的に街の警備隊は管轄外に手は出さないし、本部はこんなちんけなことに(かん)さない」


 そうなると、結構手詰まりかも。


「そもそもナドラが黒だっていう証拠も無いしな。あの残骸だって奴があたしを襲ってきた証拠にはなりえない」

「PCのハッキング履歴を探っても、さすがに痕跡は残してないでしょうね」


 できることと言えば……そうだなぁ、あまり使いたくない手だけど、


「本部に1人、知り合いがいます。相談してみましょう」


 僕は警察署から出て、フレンドリストを開く。


「誰だいそいつは」

「ネス、という方です」

「ネス? まさか、あの補佐官の?」

「はい」

「すっげービックネームだな……なんでお前さん、そんなやつとフレンドなんだ?」

「えっと、成り行きです」


 僕はネスさんに通話を掛ける。


「ももも、もしもしも!」


 噛んだ。

 まだネスさん相手は緊張するぅ……。


『どうかしましたか、シキ様』

「そ、その、いまお時間は大丈夫ですか? 少し長い話になりますが」

『資料の整理をしながらで良ければ大丈夫です』

「すみませんお忙しい所……あのですね」


 僕は先ほどのイヴさんの説明に倣って、ネスさんに現状を説明する。


『ナドラ……聞いたことある名ですね』

「なんだい、有名人なのか。あの人」


 イヴさんが問う。


『いえ。ただとある重罪人を追っていた際にその名を見たことがあるというだけです。その時は結局関係性を確定できませんでしたが』


 元々きな臭い人ではあったわけだ。


『残念ながら犯罪の確たる証拠も無く、クラスを犯罪者にすることは私でも不可能です。犯罪者クラスへの変更は慎重に行わなければならない。ただの疑惑の段階で行使すれば、いわゆる炎上とやらになりかねないですから』

「そんなら結局ダメってコトか」

『いえ、手はあります。シキ様、ナドラは巨大な囲いで施設を隠し、中の施設も厳重だったんですよね?』

「はい。玄関から見ただけですが、警備ロボットの数が異常に多かったです」


 それに見える部屋全ての扉に電子端末が付いていた。きっとアレはパスワードを入力するためのものだ。全ての部屋にパスワードでロックを掛けているに違いない。


『それに大量の兵器を購入しているとか』

「はい」

『他者を騙すことを(いと)わず、罪を平気で犯し、それでいて過去には重罪人との関係性があると疑われていた人物。そんな人物が大量の兵装を購入し、城壁まで建てている。きっと、隠したい物がそこにはあるのでしょう。それならば、2級召喚状でチェックメイトにできます』

「ああ! その手があったか!」


 ポン。とイヴさんは手を叩く。


「えーっと……?」


 説明を求めてイヴさんを見る。


「2級召喚状を受け取ったスペースガールは軍警本部に行かないとダメなんだ。召喚状には1級から4級まであって、それぞれ意味が大きく異なる。2級は『審問』の意味を持つ。2級召喚状の内容を要約すると……『お前怪しいから本部に来て話を聞かせろ』、だ」

「え? でもそれで呼んだところで適当なこと言うだけじゃないですか?」

『もしも召喚状に乗って来たなら、ナドラが研究所を離れている内に軍警に研究所を調べさせます。だけど恐らく、ナドラは召喚状には応じない』

「そこに禁断の箱(パンドラ)があるのなら、軍警に疑われた状態で研究所を離れることはしないだろう」

『ですが乗らないなら乗らないで、それを口実にクラスを変えられる』

「2級召喚状を無視することは重罪だからな」

『クラスを犯罪者にした後なら軍警を動員することができます』


 うん。何となく理解できた。


「……どっちを選んでもアウト、ってことですか。それならコロニーの外にリスポーンとかで逃げるとか? 召喚状を受けてすぐにクラスが犯罪者に変わるわけではないですよね?」

「まぁな。だがコロニーから外へワープなどはできない。1度コロニーに入った時点で外のリスポーン地点は全て白紙に戻り、自動的に軍警が設定した場所にリスポーン地点を設定される」


 死に戻りで逃げるのは不可能ってことか。


「召喚状を受けたあの女はきっと宇宙船でのコロニー脱出を狙うはずだ」

『でも、召喚状を受け取った時点でクラスは『不審者』に代わり、その状態で宇宙船に乗ればクラスは自動で『犯罪者』になります』

「けどよ、軍警が対応を始めるのは返答が出た後だろ。『返答待ち』の間に宇宙船で脱出を図られた場合は対応は間に合わない。その場合はこっちで何とかするしかないわけだ」

『そうですね』


 召喚に応じる→軍警がガサ入れし、悪事を暴く。

 召喚に応じない→違反行為と見なし、犯罪者にした後、軍警が研究所を制圧(僕らも手伝う?)。

 返答待ちの間に宇宙船で脱出→逃亡犯と見なし、僕らが狙撃して落とす。


 う~ん……良い手だけど、ちょっと面倒というか、ややこしいな。


「ナドラに時間を与えたくないし、ややこしいのは嫌いだ。シンプルにいこうぜ」


 イヴさんはタバコを右手で握り潰す。


「返答なんて待たなくていいだろ。召喚状を出した後であたし達が攻め込む。追い詰めれば奴は宇宙船に乗るさ。乗ったらぶっ飛ばして監獄送り! 宇宙船を使わないなら拘束して、研究所を丸裸にしてパンドラを掴めばいい」


 つい笑みが零れる。

 強引だけど、イヴさんの言ったルートの方が好みだな。


『やり方は任せます。問題はどうやって宇宙船をコロニー内で落とすかですね。ナドラが宇宙船に乗り、発射する前に落とす。というのが理想ですが難しいでしょう。速度のついた後の宇宙船をどうやって――』

「僕が狙撃します」

『あの、シキ様。宇宙船はスペースガールなんかより遥かに速いのですよ』

「いいですね~」

『……発射からコロニー外に脱出するまで、撃てて1か2。それを外したらナドラを捕まえることはほぼ不可能になるのですよ。それでも、手動による狙撃でいくつもりですか?』

「? はい! ――あ、すみません……他の方もこの役やりたいですよね。で、でもできれば、この作戦のメインディッシュは僕にくださいませんか?」


 あれ? 2人共、黙ってしまった。


「あ、あの?」

「……おいおい。どうも話がかみ合ってないぞコイツ」

『……わかりました。あなたに譲りますよ。シキ様』

「ありがとうございます!」


 宇宙船の狙撃、必要なのはそれを成すための――


『念のため言っておきますが、これまでの話はあくまでナドラが『黒』ということを前提にしています。もしもナドラが『白』だった場合、攻め込んだあなた達に罪が乗ります』

「そん時はあたしが全ての責任を背負うさ。牢に繋ぐなり自由にしてくれ。ま! 無用な心配だと思うがな」


 ネスさんは数秒間を置き、


『2日後。8月11日、ゲーム内時間で60時に召喚状を送信します』


 2日……それだけあれば十分だ。


「それにしてもネスさんよぉ、やけに懇意にしてくれるじゃないか。アンタがそこまでこっちに力を貸す理由がどこにある?」


 確かに、そこは気になるところだ。


『六仙様より、なるべくシキ様には『貸し』を作っておくようにと言われていますので』

「え、なんか怖いんですけど……」

『慈善で私は動きません。それでは』


 通話が切れる。最後に不穏なこと言い残したな、ネスさん。


「まぁ、もしも今回の一件のせいで何か面倒事を頼まれたらあたしも手伝うよ。とりあえず戦力を整えよう。お前のチーム、ましゅまろスマイルだったか? アイツら猛者ぞろいだったけど、力は借りられないか?」

「僕らだけじゃ無理ですかね?」

「アイツの部下とヒューマノイド、全部合わせたら何機いると思う? 10や20じゃないぞ。100は軽く超える。兵装もあのガトリング砲をはじめとして馬鹿げたのが幾つもあるんだぞ」

「うっ……さすがにきついですね」


 スペースガールやヒューマノイドだけならいざ知らず、TWも加わると単独では無理だ。僕自身、レベルだって十分じゃないしね。


「実は僕、もうチームは脱退してまして……」

「そうなのか。でも繋がりが切れたわけじゃないだろ? グロウメタルを餌にしていいから、声だけ掛けてみてくれないか? 頼む!」


 イヴさんは両手を合わせて頼み込んでくる。


「うぅ~……わかりました。き、聞いてみます……」


 適度に連絡は取ってるし、大丈夫。聞くぐらいなんでもない。

 それにシーナさんには他に聞きたいこともある。

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