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【書籍化決定】スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
殺し屋シキ編

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第68話 裏切り

 僕はトラックから降りて盗賊の残骸に近づき、マントを引っぺがす。


「スペースガールじゃない……」


 顔がのっぺりの人型兵器(ヒューマノイド)だ。


(道理で反応は良くても動きがパターン化されていたんだ。武装が少なかったのもそのため……)


 スペースガールなら武装を8つ持てる。にもかかわらず、盗賊たちが使った武装は6つ以下だった。ポーチを持たないため、ヒューマノイドは武装全て手荷物になる。重量を考え武装を絞るのは当たり前だ。


(これだけのヒューマノイド、かなりの財力と技術力が要る。それこそ……)

『シキ。悪いが早めに戻ってきてくれ。そろそろ出ないと時間に間に合わない』

「わかりました」


 僕は残骸の1つをトランクにある金属のボックスに隠し、またトランクの上に行き、座り込む。


「……イヴさん。イヴさんの他に運搬屋はいるのですか?」

『もちろんだ』

「他の方も同様の被害に?」

『ああ。まぁあたしほど不幸ではないけどな。百発百中で邪魔されているのはあたしだけだよ。ああいや、1回だけ(まぬが)れたことはあったか』


 あの盗賊たちはヒューマノイドだった。つまり、操っていた誰かがいる。

 その誰かはきっと――


「詳しく聞いてもいいですか?」

『構わないよ。アレは突発的な依頼でさ、頼まれたその日に運んだんだ。その時は盗賊に襲われることはなかった』

「配達の予定とかって誰かに話したりしてます?」

『してないよ。予定を知っているのはあたしと、あたしの家のPCぐらいだな』

「……」


 それから砂原を走り抜け、ナドラ研究所へ。

 巨大な施設だ。背の高い城壁の中、病院のような6階建ての建物がある。

 玄関に入ると、白衣を羽織った背の高い女性が迎えに来てくれた。


「YA! 待っていたよイヴちゃん」

「すみません、ピッタリの時間になってしまって」


 この声……この人がナドラさんか。


「遅れてもいないのになぜ謝るんだい。さぁ、早速荷物を回収しよう。君たち、頼むよ」


 ナドラさんの背後から助手と思われるスペースガールが飛び出て、トランクから荷物を引き取っていく。


「どうだいイヴちゃん、コーヒーでも」

「カフェインは好きだけど、この世界で飲むコーヒーはノンカフェインと変わらない。さっきは断り損ねましたが遠慮しときます」

「そうかい? 残念だねぇ。そんじゃ報酬はいつもの口座に振り込んでおくから」

「はい。よろしくお願いします。ではまた御贔屓に」


 イヴさんは頭を下げて、研究所を出る。僕も頭を下げて、イヴさんの後をついて出ようとするが、


「待ちなさい」


 ナドラさんに呼び止められた。


「なな、なんですか……?」

「いや、見ない顔だと思ってね。名前は?」

「名前とレベルならメニューから見れると思いますが……」

「おやおや感じが悪いね」


 ナドラさんは突然右手を挙げ、


「へーい!」

「え?」


 ハイタッチ? を求めてるのかな。初対面の僕に……? なんで……??


「……はぁ。君、日本人だろ?」

「は、はい。そうです」

「やっぱりねぇ。日本人ってのはみんなそうだ。人見知りで、初対面の相手に対し必要以上に距離を作る。もっと明るく生きようよ。相手がハイテンションで話しかけてきたらハイテンションで返す。ジョークを言ってきたらジョークで返す。ハイタッチを求めてきたらハイタッチをする。日本人が大好きなマナーってやつさ」


 うわぁ……無自覚に差別するタイプだ。

 コミュ障の僕にとってもっとも苦手なタイプと言って過言ではない……。


「わ、わかりました。気を付けます……えへへ」

「その愛想笑いがザ・ナードっていうか。まぁいいや。ところでさ、軽トラも君も傷が目立つけど、何かあったのかな?」


 傷……目立つかな。掠り傷程度しかないけど。


「……道中に、例の盗賊団に絡まれてしまったんです」

「ああ。あのイヴちゃんが絡まれているとかいう。そりゃ災難だったね。手強かったろ」


 あ~、なるほど。


(この人が求めている言葉はわかる。けれど)


 僕は笑顔を作り、


「いいえ全然。とんだ()()()()()()()でした。もう少し骨のある相手を期待していたので残念です」

「……そうかい」

「では、失礼します」


 研究所を後にする。

 帰り道、僕は荷台の上でなく助手席に乗る。


「いやぁ! これにて一件落着! どうだい、お前さんも」


 イヴさんはタバコを1本差し出してくるが、僕は右手でお断りの意を示す。


「まだ未成年ですので」


 タバコは仮想空間でも未成年は禁止だ。別に吸えても吸う気はないけど。


「なんだ、ドンマイだな。この世界のタバコは最強の嗜好品だってのに。なんせ体に害がねぇ」


 そう、仮想空間ではタバコを吸っても体にダメージは無く、それでいてゲーム内の通貨で買うことができる。

 ARが普及してから現実の禁煙率が増えたとかなんとか。


「イヴさん、残念ながら一件落着ではありません」

「ん? ああ、はいはい。言いたいことはわかる。デリートしただけで結局奴らの正体はわからずじまい。また襲われるのも時間の問題……」

「あの盗賊団はスペースガールではありません」

「ん? そうなのか?」

「はい」


 僕はその根拠を説明する。


「……なるほど。デリートされず、金にもならない。となればヒューマノイドで間違いない」

「そして恐らく、ヒューマノイドを製造し命令を出していたのはナドラさんです」

「はぁ!?」

「うわっ!?」


 イヴさんは大声を上げて急ブレーキを掛けた。


「あああ、あくまで、予想ですけど……」

「適当な予想だったら怒るぞ。とりあえず根拠を聞いてやる」

「ええと、えっとですね、まず相手は確実にイヴさんと何らかの繋がりがある人なんですよ。なぜなら盗賊団はイヴさんを狙い撃ちにしているから……」

「……狙い撃ち? あたしばかり奴らに出会うからそう思ったのか?」

「そうです。他の運搬屋の方も襲ったのはイヴさんに狙いを絞っていると悟らせないため。イヴさん以外の方々は大した被害では無かったのではないですか? 僕の予想通りなら、イヴさん以外は荷物を返却されたはず。変に遺恨を残さないために」

「……っ!」


 イヴさんはハッとした顔をする。


「で、でもみんな結構ギリギリで取り返したって言ってたぞ!」

「わざとですよ。あからさまだとイヴさん狙いがバレますから」


 冷静に、俯瞰で見ればイヴさんが狙い撃ちされていることは明らかだ。失敗続きで焦りさえしていなければ……簡単に気付けることだ。


「他の運搬屋からの恨みは余計な火種。荷物を奪ったままにしておくと必ず取り戻すべく運搬屋たちは戦力を買う。運搬屋同士で手を組んで、大きな討伐隊が出来ていてもおかしくない。だからあたし以外には荷物を返していた。そういうわけか」

「はい」


 イヴさんは口のタバコを灰皿に押し付ける。そして冷静に、俯瞰して自身の状況を見る。


「うん、納得した。相手はあたし狙い……」

「次に今回の待ち伏せ、あまりに局所的(ピンポイント)過ぎる。この広大な砂漠で、特に何もないあの一か所に的を絞っていたのはおかしい。相手はイヴさんの走行ルートを知っていて、尚且つイヴさんがいつどのタイミングであの場所を通るか知っていたに違いない」

「……」


 イヴさんが戸惑った表情をする。


「いや待て。お前の言いたいことはわかる。けどな、あたしはナドラさん以外への配達も邪魔されているんだ。いくらナドラさんが相手でも、他の顧客の情報も、配達する時間も教えていない。待ち伏せは無理だ」

「イヴさんの家のPCから情報を盗んだのでしょう。ナドラさんは配達を依頼することで好きなタイミングでイヴさんをあの家から剥がすことができる。イヴさんが自分の元へ来ている途中に、部下かヒューマノイドをあの場所へ送り込めばいい。あれだけ大きな研究所を構えられるのだから、ハッキングできるだけの技術はあるでしょうし」

「――っ!?」

「だから突発的な仕事には対応できなかった。PCに配達の詳細を入力する時間すらなかった仕事には」

「だ、だけど……あの人は……! あの人に、何の得がある! 賠償金狙いだって言うのか? 研究所の近くまで荷物を運ばせた上で賠償金まで払わせる。確かにそこに利はあるがちっちぇえ話だ。あの人はチップなら大量に持っている。そんなあぶく銭は拾わない!」


 うっ……怖い。けど、ここで黙り込んだらイヴさんはもっと搾取されてしまう。

 頑張れ僕。ここで引いちゃコミュ障どころか人でなしだ。


「それらはあくまで副産物。ナドラさんの狙いは、鉱山の採掘権じゃないでしょうか?」

「グロウメタルか……!?」

「もしもイヴさんが犯罪者になれば、イヴさんは逮捕されるかコロニー外へ逃げる。そうなれば鉱山の採掘権は宙ぶらりんになる」

「その採掘権を抽選で……」

「いや、もしイヴさんがナドラさんに恩を感じたままだったのなら、ナドラさんに鉱山を譲っていた可能性だってあったのではないですか?」

「そ、それは……」

「イヴさんに依頼をし続けたのは恩を売るという目的もあったのでしょう」


 イヴさんはハンドルに頭を打ち付ける。

 もう――気づいたはずだ。恐らく僕よりも深く、ナドラさんの真意に。


「……シキ。お前、あの集団を倒した後、なにか持ち帰ってたよな?」

「? はい。ヒューマノイドの残骸を手掛かりとして――」

「見せてもらってもいいか」


 トラックを砂漠の真ん中で止め、僕とイヴさんはトランクの中に行く。

 トランクのボックスを開け、中のヒューマノイドをイヴさんに見せる。


「……確定だ」

「え?」

「あの人が独占している鉱山は覚えている。コイツに使われている素材の80%はそれらの鉱山から採れる鉱石で構築されている。残りの20%は――あたしが届けた……いや、あたしが奪われた鉱石で出来ている」


 イヴさんは呆れたように笑う。


「……そうか。あの人からの信頼も、友情も、ぜーんぶ嘘だったんだな……」

【読者の皆様へ】

この小説を読んで、わずかでも

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「続きが気になる!」

「もっと頑張ってほしい!」

と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります! 

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― 新着の感想 ―
筋書き通りですね、9回も依頼に失敗してかなりの損害が出ているのに笑顔で再依頼する訳がない、奪われた荷物は自分の所に届いて損害がないからできること、依頼中に連絡が来たのだってきちんと予定のルートを通って…
更新お疲れ様です。 なんかハリウッド映画でたまに有りそうなシチュエーションですなぁ…味方と思ってたらラスボス(ないしはバリバリ繋がり有りました)系というか。 これはシキちゃんも感じた、ナドラとやらの…
なるほどなー 素材がそうってだけじゃ証拠としては弱そうだけど、どう引っくり返すのかなあ
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