第67話 砂塵の死神
トランクの中、僕は布を被ったその兵器を肩で押し、移動させる。
「おっっっっっもいっ!!!!」
スペースガールの体は現実の体より遥かに馬力も上だと思うけど、それでも重すぎる!!
『やれやれ。商品に手を付けるなんざ、運搬屋失格だな』
トランク内部の中心には円形の昇降機がある。その上に兵器を乗せ、僕は兵器の上に跨る。天井が円形に開き、昇降機が上昇。昇降機は空いた天井にピッタリハマった所で止まる。
トランクの上、僕は被せた布を引っぺがす。
現れる砲台、4基24の砲身――
『最大連射数1万3千発のTW式ガトリング砲、戦場の死神! MGL-13!! レーザー式だから弾詰まりもない。思いっきりぶちかませ!!!』
「はい!!」
僕はガトリング砲の操縦席に乗り、取っ手――操縦桿を握る。
ガトリング砲の両脇についた操縦桿、その内側にはそれぞれ4つのボタンが付いている。ちょうど親指を除く4本の指で握り込める位置にボタンはある。
(ボタンの役割は聞いている。少し試すか)
まず右手側の操縦桿に付いたボタン。ボタンは上から順に『発砲』、『高速右旋回』、『前進』、『固定』の役割を持つ。固定を押している間はガトリング砲の可動域は完全にロックされ、砲口は一切動かない。逆に固定を押していない間は操縦桿を振り回して砲口の向きを調整可能。
中指を押し込み、高速右旋回を試してみる。するとキャタピラーより上、ガトリング砲・操縦席を乗せた砲台が右に旋回し、ガトリング砲と操縦席も当然の如く右を向いた。ガトリング砲の可動域は全方向60度ほどなので、右に回り込まれたら旋回するしかない。
前進のボタンを押し込むと砲台のキャタピラーが動き前進した。
左手側もほとんど役割は同じ。『発砲』、『高速左旋回』、『後退』、『リセット』。リセットはキャタピラーの向きと砲台の向きを揃える役割を持つ。リセットを押すと砲台が回り、キャタピラーと同じ方向を向くわけだ。
手札の確認完了。
「いきます!!」
発砲ボタンを押し、射撃を始める。
音は凄いし震度2~3程度の地震のような揺れが体を襲ってくる。けれど砲口のブレは僅かで、狙いはちゃんとつく。それにしてもまぁ――
「すっごい……!」
赤いレーザーの弾丸が数えきれないほど発射される。レーザーの雨だ。盗賊は1機また1機と数を減らす。
(1発1発の威力が高い。相手がシールドで防御しても構わず貫いている!!!)
勘違いされがちだけど、ガトリング砲は全ての砲身から一斉に弾が発射されているわけじゃない。
束ねられた砲身を回転させ、順番に正位置から発砲している。射撃を終えた砲身は他の5本の砲身が発砲している間に排莢・装填・冷却を行い、順番が来たら発砲しまた排莢・装填・冷却を完了させる。これを繰り返す。
だけどレーザー式の場合、排莢・装填の手間はない。クールタイムは文字通り冷却に全てを注いでいる。
レーザーは熱の塊と言っていい。威力が高いレーザーほどまた温度も高いと見ていい。つまり、威力を求めれば求めるほどレーザーの熱は強くなり、1撃で砲身は強い熱を持つ。高威力を維持しつつ連射すれば、あっという間に砲身は溶けてしまうだろう。
しかしガトリング砲は砲身を交代させるため、冷却の間を作れるわけだ。高い威力を保ちながら、高速で弾を連射することができる。
僕がなにを言いたいかって? 決まっているじゃないか。このガトリング砲で弾をばら撒くのはさいっっっっこうに楽しいってことだよっ!!
「……面白いなぁ! このゲーム!!」
狙撃の快感とはまた別の快感がガトリングにはある!
それにしても、
(……やっぱり、おかしいな)
盗賊たちのおかしな点……それは撃破されても消えないこと。僕の所持金も増えていない。
通常スペースガールは破壊されれば跡形も無く消え、倒した者にチップの半分が入るはず。
考えられる可能性は破壊されたように見せてなんらかの武装で生き延びていること。あるいはスペースガールではないという可能性。きっと後者がドンピシャだ。
(凄く良い動きだ。そこらのスペースガールなら20秒で全滅している)
残り17機のスペースガールは『慣れた』と言わんばかりにガトリング砲を避けはじめ、左右に散ってトラックを挟み込んできた。
(動きが機械的過ぎる。それぞれに『個性』を感じない。照準の定め方、避ける際の動作、バイクの乗り方、どれも共通している)
僕は高速右旋回と左旋回を使いこなし、なんとか牽制するも敵機の数を減らせない。やがて相手も撃ち始めてくる。僕とイヴさんはシールドピースでなんとか射撃を弾く。
「イヴさん! もっと全速で、思いっきりハンドルを切ってもらって大丈夫です!」
『いいのか? あたしが自由にやったら車体のブレは半端じゃないぞ。とても照準を合わせるなんてできない!』
「問題ありません! どっちみちこのままじゃジリ貧です!」
『了解だ相棒! 一緒に地獄に行ってやらぁ!!』
トラックが速度を上げる。イヴさんはそのハンドル捌きで上手く敵陣営から距離を作った後、Uターンして集団の中央を突破。2機を撥ね飛ばす。でもまだその2機は健在、トラックに轢かれた程度じゃ死なない。けれど、
『2匹浮いたぞ!』
「……良い腕です、イヴさん! ――バレットピース!!」
僕はバレットピース6基で空に撃ち上がった2機を集中して射撃し撃破。激しく揺れる車体の上でなんとか照準を合わせ、ガトリング砲でさらに地上の2機を撃破。
「凄いですねこのトラック。これだけ大きな車体なのに小回りが利く」
『あたしの自慢のトラックだからな』
よし、これなら……。
「イヴさん! 次囲まれた時、トラックを回転させることはできますか!?」
『はぁ!? ――まったく、お前さんはとんでもないことばっかり言いやがるな。いいぜ、乗った!』
残り13。ガトリング砲でさらに1機落とすも、トラックは囲まれ始める。
(誘導上手い。砂漠という不安定な足場でよくもここまで――口だけじゃない。イヴさん、あなたは1流のドライバーだ)
完全に包囲網が完成する。
「今です!」
『よっしゃあ!』
ここだ。ここで決める。
(横Gきた。回旋る!!)
トラックが回転を始める。
(トラックの右回転にさらに砲台の右回転を合わせて高速スピン。全方位を時差無く撃つ!!)
高速スピンしながら敵機それぞれに照準を合わせる。トラックが1回転を終えると同時に、4機を撃破。
(このトラックの馬力ならもう1回転いけるはず……頼むイヴさん!!)
『いっけぇ!!!』
さらにトラックが回転。
最初の一回転で巻き上がった砂が敵機の視界を妨げる。もちろん、こっちの視界も砂で埋まる。
(見えない。けれど、全機の位置は記憶している)
見えない位置からの射撃はさすがに防げないでしょ!
「踊れ、雑兵!!」
――二回転を終え、トラックは止まる。
巻き上げた砂が散り、周囲の風景が明らかになる。
そこにあったのは砂に埋まる人型メカの群れだけ。
――全機撃破。
「寸分狂いなし」
「……やれやれ。ブラボーだよ、サムライスナイパー」
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