第64話 シキと豆の木
とりあえず、僕は客人を食堂に案内した。
「あたしはイヴァン。イヴって呼んでくれ」
幼い顔立ちで、小柄で、白い髪のポニーテール。部類としては『ロリ』なんだろうけど……伏しがちな瞳と丸まった背中、落ち着いた雰囲気のせいでそこまで幼い印象は受けない。その小さな口にはタバコを咥えている。中学1年生ぐらいの見た目でタバコを吸っているから違和感が凄いなぁ。
「ぼ、僕はシキです……よよ、よろしくお願いします」
「よろしく」
声も女性にしては低めだ。
「驚かせて悪かったな。しかし日本ではアレがベターな挨拶だと聞いていたんだがな」
「ど、どこ情報ですか! アレは最上位レベルの頼みごとをする時にする行為というか、魂から謝罪する時にする行為というか……」
「ん? それなら間違いでは無かったな。シキ、お前さんに頼みがある。最上位の頼みだ」
「僕に頼み……ですか。というか、僕のことを知っているのですか?」
「前回のランクマッチ、お前とツバサの戦いを見た。お前さんの腕は間違いなく1級品だ。あたしが見てきた中でも最高レベルだね」
六仙さん然り、イヴさん然り、あのランクマッチから僕はほんの少し有名人になってしまったようだ。
ランクマッチは中継されているらしいけど、C級のランクマッチなんてほとんど誰も見ないと聞いていた。けれど、あのランクマッチは特別視聴者が多かったらしい。原因は恐らくツバサさんとシーナさん、元トップチームの2人が参加していたせいだろう。
「頼む! 1度でいい。お前にあたしの仕事の護衛を頼みたい」
「イヴさんの仕事って……」
「運搬屋だ。基本的にTWとかのポーチに収まらないブツを運んでいる」
「TW?」
そういえば六仙さんもTWって単語を口にしていた。なんだろう、TWって。
「アレだけの腕を持っていてTWを知らないのか?」
「は、はい」
「そうか。まぁランクマッチに専念しているなら知らなくてもおかしくないな。TWはTacticsWeaponの略だ。戦術兵器だよ。ツインレッグや固定砲台、戦闘機とかも含まれるな」
あ~、もう完全に対個人じゃなくて対軍の兵器ってことか。
「このコロニー外から運ばれた規定以上の大きさのブツは首都のアシアの倉庫に収められる。それらのブツは軍の検閲を受けた後、『アシア』付近にあるこのジョリー・ロジャー含む4つの都市に運ばれる。そこまでで軍の仕事は終わり。そこからさらに遠くの都市に運ぶのは運搬屋の仕事なわけだ」
「ではイヴさんはここに運ばれたTWとかを別の都市まで運んでいるわけですね」
「それが基本だけど、普通にこの街で作られた兵器とかを他の都市に運んだりもする。問題は、最近ここの近くの砂漠に盗賊団がいることなんだ。あたしは今、9連続でその盗賊団に荷物を奪われている」
「うわぁ……」
「信頼は地まで低下。弁償で金もカツカツ。レアな鉱山の採掘権を持っているから何とか生活を繋げてはいるが、これ以上失敗したらクラスを犯罪者にされてゲームオーバ―だ」
話は大体わかった。
「つまり、また盗賊が邪魔しに来た時に、僕にその盗賊を撃ち払って欲しいと」
「そういうこと」
「すみませんが――」
「待て。結論はまだ待て。ちゃんとこっちも報酬は考えてある。それを見てから結論を出してくれ」
ふと窓から光が差し込んできた。どうやら夜が明けたようだ。
「あたしの工房に来てほしい。おもしれーモンがある」
「?」
桟橋から廃材置き場へ。廃材置き場から空き家だらけの通りに入り、そこから表通りに行く。
「つーか、お前さんなんであんな辺鄙な所に、それも戦艦に居たんだ?」
「それは色々と事情がございまして……」
「まさかテロリストとかじゃないよな?」
「違います違います! ただの一般人です!」
「ただの一般人があんなとこに居るかね。まぁいいけどさ。ほら、これがあたしの愛車だ」
トラックだ。基本色は緑で、荷台は白。恐らく盗賊に付けられたであろう傷や凹みが目立つ。
「悪いね。今はちと怪我が目立つ。まったくこんなカワイコちゃんに傷を付けるなんて無粋な奴らだ」
助手席に入り、街道を走る。
走ること3分ほどで目的地に着いた。
「ここがあたしの家だ」
鉄骨造り、二階建ての建物だ。イメージとしては町工場かな。1階が工房で、2階は住居っぽい。イヴさんがリモコンを操作すると1階のシャッターが上がる。僕らはシャッターの下から工房に入る。
「おぉ~」
中は外観と違い近未来的。電磁スクリーンがあって、PCが幾つもあって、自律して動いているマシンが幾つもある。
イヴさんは機器の1つを操作する。すると床がスライドし、地下に続く階段が現れた。
「こっちだ」
警戒心は持ちつつ、後ろをついていく。
地下――そこには大量の兵器と大量の武器があった。武器は札の付いたものと付いていないものがあり、プレートには住所のようなものが見えるからあれらはきっと配送物だ。
僕はプレートの掛かったある武器に目を奪われる。
(すっごい。あれ、設置型のガトリング砲だ)
戦車のキャタピラーが砲台に付いたガトリング砲。砲台には操縦席も付属している。あの椅子に座ってガトリング砲を操縦するんだろうね。
(砲身が6つ、砲口が1つの砲が4基。相当な破壊力だぞ、あれ)
砲身も長いし、硬そうな材質。それだけ強い反動、衝撃があるってことだ。
構造を見るに弾込めるスペースが無いし、間違いなくレーザー式。装填と排莢の機構をパスできるなら威力を意識した強気の設計にできるはず。うぅ……触ってみたい。けど商品だから無理だよなぁ。
「さっきもちょろっと言ったけど、あたしは良い鉱山の独占採掘権を持っていてね」
イヴさんは金属の箱――金庫のセキュリティを1つ、また1つと解いていく。
「その鉱山じゃ『グロウメタル』っつー、超希少な金属が採掘できる。その鉱石を使って作った武器は……スペースガールと同じように成長する」
「カスタムウエポンとは違うんですか?」
「違う。強化パーツは必要ない。必要なのは獲物の命だけさ。機世獣でもスペースガールでもいい。強い奴を撃てば弾の威力、速度、射程、諸々が成長する。ただあたしも仕組みを完全に理解しているわけじゃなくてな。戦意を喪失した奴や無抵抗な奴は撃っても成長しないっぽい」
レベリングする武器! 上限にもよるけど便利な武器だ。
「あった」
イヴさんが取り出したのは長方形の箱。
見た目でわかる。アレは銃専用収納箱だ。
「ほれ。これが報酬だ。もし護衛を完遂してくれたらこれをやる」
イヴさんが箱を開ける。
中にはスナイパーライフルが納められていた。上部が緑、下部が黒の独特な配色のライフル。
「あたしがグロウメタルを使って作った銃だ。名は『BeanStalk V1』、意味は豆の木さ」
「由来はジャックと豆の木ですか?」
「そう。成長するって言えばアレだろ? あたしはあの童話が大好きでね。色々なバージョンがあるが、結局手元に何も残らなかったバージョンが好きだ。『努力無くして成果なし』という教訓をくれる」
ジャックと豆の木。ジャックという少年と際限なく成長する豆の木を中心として展開される童話だ。
この成長する銃にビーンスタークという名は相応しいかもね。でも日本語で豆の木……というのはちょっとダサいとも思うけど。
「簡単にスタークとでも呼ぼうか。頼む! こいつをやるから護衛をしてくれ!」
「少し、触っても良いですか?」
「もちろん!」
僕はスタークを手に持ち、構える。
「最大チャージで12発。チャージタイム6秒。リコイルはほとんど無い。セミオート式。最大射程1.2km」
(射程はもっと欲しいけど成長すれば伸びるだろうから問題はないか。スコープは可変倍率3-9。可変はいいけど最大倍率はもう少し欲しい。あ、でもスコープは外付けだ。自分の好きに替えられるじゃん。グリップの質感、長さ、いい。重量もちょうどいい。重心が欲しい所にある。指に掛かる引き金の位置、長さ――ベスト)
「銃声もほとんどないし、レーザーはブラックライト。隠密射撃にも向くぞ」
「ブラックライト? どういう意味です?」
「レーザーの色が黒いんだ。レーザー式だと発砲の瞬間にピカッと光るだろ? アレがブラックライトだと起こらない。しかも夜だと闇に弾丸が溶け込んで見えづらい」
射撃の際の発光。僕がレーザー式で1番鬱陶しいと思っていた部分だ。
「イヴさん、ハッキリ言いましょう」
「なんだい?」
僕はライフルの銃身で、自分の額を小突く。
「……一目惚れです。僕はこのライフルと旅をしたい」
「よっしゃ! つまりは――」
「はい。依頼、受けます。盗賊だろうが隕石だろうが、あなたの道を妨げる物は僕が撃ち払います」
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




