第63話 家……家!?
「なんか、すでに疲労困憊なんですけど……」
「シキっちょといると色んな事が起きて飽きないねぇ~」
「今日が特別なんです。普段はもっと平穏です」
僕とチャチャさんは列車を降りて、エレベーターで地上に上がる。エレベーターから降りた先は真っ白な部屋だった。天井が高い。内装から察するに恐らく塔だ。外に出て振り返ってみると、灯台のような真っ白な塔がそこにはあった。
僕は視線を正面に戻す。
「ここが『ジョリー・ロジャー』ですか」
港街『ジョリー・ロジャー』。カモメが空を飛び、潮風が頬を撫でる。
街中に川が通っており、小舟が川を移動している。イメージとしてはヴェネツィアが近いかな。美しい街だ。しかし、
「……気のせいでしょうか。銃声がいっぱい聞こえるんですけど」
「この街のBGMだね」
ガンマニアとしては嬉しいことだね。小心者としてはツラいものだ。
(住んでいるスペースガールも異色だなぁ……)
スペースステーションとかに居るスペースガールはきゃぴきゃぴしていて、なんというか女の子~って感じだったけど、ここにいる人たちは厳ついというか大人っぽいというか。刺青入れている人いっぱいだし、20歳以上の見た目にしている人が多い。スペース『ガール』というより、スペース『ウーマン』だ。
「こっちの道だよ」
チャチャさんは建物と建物の間の細い道を通る。
(どんな家かなぁ。楽しみだなぁ~!)
外観はシンプルなのがいいな。自分でカスタイマイズできる余地があるからね。
大事なのは敷地の広さ。最悪めちゃくちゃ無骨な家でも敷地さえあればいくらでも改造・増築できる。
チャチャさんは目利きだし、きっと良い家を用意してくれている。ワクワクが止まらないよ。
「もうすぐだよ~」
なんか、『売地』って看板を立てた家が大量にある場所に出た。人気がない。
(そっか。僕が静かな場所を要求したから……)
チャチャさんはその売地ばかりの場所も抜け、さらに廃材置き場を通る。
その先にはもう、桟橋と海しかない。チャチャさんは桟橋を歩いていき、ある『巨大な物体』の前で立ち止まった。
まさか。まさかね。いやいやそんなはずがない。これが目的地なわけがない。
「ここがシキっちょに推薦したい家だよ」
「……確認しますが、これは『家』ですか?」
「もちのろん」
「そうですか。僕にはこれが――戦艦に見えるんですけど!?」
案内された場所にあったのは中型船。それも武装した中型戦艦だ。1部隊ぐらいなら収容できるであろう大きさだ。
「いやぁ~、前にさ、依頼されてミサイル艦作ったんだけど、その依頼人が規約違反でBAN喰らってさ。ただ虚しく、一隻のミサイル艦が残っちゃったんだよねぇ。処分するにもすんごくお金かかるし、どうしようかなって思ってたんよ。そんな時にシキっちょから家が欲しいときたから……」
「これを押し付けようと思ったわけですね」
「そのとーり!」
桟橋の上から何度も眺める。しかし、どこからどう見ても戦艦でしかない。
「いりませんよ! 僕は家が欲しいんです家が!」
「家代わりになるよ。ブリッジ、工房、格納庫、倉庫、食堂、寝室完備! 欲しいなら寝室に窓を付けてあげよう。作業場はあるし、戦艦だからセキュリティも強いし、この停泊場は穴場だから騒がしくもない。値段は100万ぽっきり! 海に向かって試し撃ちもできる! こーんないい条件の家、他にどこもないっしょ?」
ぐっ……僕の要望を見事に叶えている……!
確かに設備だけ見れば極上だけども!
「それにシキっちょ、ミサイル艦とか好きっしょ?」
「それは……模型作るぐらいには好きですけど」
「戦艦の中で生活できるなんてミリオタ大歓喜だよぉ~。シキっちょの好きに改造してもいいしね」
「改造……僕が?」
「そりゃそうよ。オリジナルのレシプロエンジンを積んだり、サテライトキャノンを積んだり、地の果てまで届く電波装置を付けたり、シキっちょの自由さ」
チャチャさんは電磁スクリーンを操作し、僕に電磁スクリーンを飛ばす。スクリーンにはビッシリ契約の内容が書いてあり、サインの部分だけ空欄になっている。
「契約書ですか……」
「そう。そこにシキっちょの名前を書けば契約成立ってわけさ」
僕が迷っていると、チャチャさんは僕の耳に唇を寄せて、
「……主砲はなにがいいかにゃー? 波動砲? 粒子砲? リアルに寄せて実弾砲でもいいよね。対艦戦に向けて魚雷とか、対空用の高角砲とかも欲しいよねぇ。好きに戦艦をカスタマイズできるとかゾクゾクするよねぇ?」
「……(汗)」
「……格納庫もあるから戦闘機とかも収納できるよ。戦艦から戦闘機で出撃なんて、ロマンだよね~。憧れだよね~。格納庫の上がぱかーって空いてさ、甲板にそのまま格納庫が上昇するようになってるんだよ。あの演出は熱いよ~」
「………(汗)(汗)」
「……ここを逃したらもうこんな破格の条件で戦艦を手に入れるのは無理だろうね。1000万積んでもムリだ。うん」
悪魔のささやきだ……的確に僕のオタクポイントをつついてくる。
(家が欲しい……けど戦艦って……戦艦で寝泊まりするなんて……そんなの……そんなの……!)
最高だ……!
(待て待て! それでいいのか僕! 女の子らしく! 可愛い家を探すんだ!! 普通の女の子と違う趣味を持ったせいで今までどれだけ苦労した! 戦艦で寝泊まりするなんて、いくらこの世界観でも普通じゃない! よくない! ――よし! 断ろう!!)
僕は契約書にサインを――書いた。
「まいどあり♪」
ここで断れる人間なら、僕はボッチになんてなってない……僕ってホントに、バカ。
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陽が沈む。
僕は甲板で仰向けになって、夜空を見上げていた。
「……なんだかんだ良い買い物だったかな」
静かだし、近所付き合いとかも考えなくていい。水平線に向かって銃を撃って、試し撃ちもできる。
海に漬からない部分には窓を付けてもらったから閉塞感も無い。倉庫も格納庫も十分な大きさ。ゲームの中だから船酔いもしない。
「すぅ~……はぁ~……やばい。結構気に入っちゃってる」
良くないよなぁ~。もっと女の子らしく、可愛くてちっちゃい家に憧れたりとかしないとなぁ。普通の女子高生が戦艦気に入っちゃダメだよなぁ。戦艦を家にして満足してちゃダメだよなぁ~。
戦艦で寝そべって、魚雷の誘導方式を何にするか悩んでいる女子高生――一体誰が好きになると言うのか。僕、一生お嫁に行ける気がしないよ。
「おーい」
桟橋の方から女性の声が聞こえる。
僕以外の人がいるわけも無いし、間違いなく僕を呼んでいる。
「おーい」
やばいなぁ。この桟橋の責任者とかかな。その辺りのことは上手くやっているとチャチャさんは言ってたけど。
「はーい。なんでしょう……」
僕は船の上から桟橋を見下ろす。
桟橋に立っていたのは白い髪のポニーテールで、厚手のコートを羽織った人。小柄だけど、どこか大人びた雰囲気を持つスペースガールだ。口にはタバコを咥えている。し、知らない人だ……。
「探したぜ『シキ』」
僕を見るとスペースガールは嬉しそうに笑い、そして、
「え!?」
なぜか綺麗な土下座をした。
「頼む! あたしの仕事を手伝ってくれぇ!!」
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