第59話 招集命令
コロニーは莫大なチップを費やすことで製造することができる。
どういうコロニーにするかは製作者次第であり、どういう国を作るかも製作者次第。もちろん、1人の財力で作ることは不可能で、5万~10万人規模のプレイヤーが協力して作ることがほとんど。
労力はすんごくかかるけど、その分ロマンはある。なんせ世界を作れるのだ。僕なら世紀末的な世界観のコロニーを作るかな。言うまでもなく、僕のようなボッチ属性が何万って人と協力するなんて無理だけどね。
「ここから遠いから3分はかかるよ~」
「はい!」
ロケットタイプの宇宙船にチャチャさんと一緒に乗る。操作はチャチャさんがしてくれる。
「さて、それじゃシキっちょに超基本的なことを説明しておこうか」
「お、お願いします!」
「コロニーの1番の特徴はね、コロニーに入った全てのプレイヤーに『クラス』が与えられること」
「クラス……?」
「階級ってやつだよ。役と言ってもいいかな。どういうクラスを設定するかはそのコロニーの王様次第なんだけど、基本的に『警察』、『市民』、『犯罪者』、『侵略者』の4種類はあるね。オケアノスもこの4種をベースにしてる。コロニーを守る役割を持つのが警察、コロニーに住んでいる一般人が市民、犯罪者は犯罪を犯した人、侵略者は不法にコロニーに入った人」
「そのままですね」
「そだね~。じゃあここで問題! クラスが変わると何が変わるでしょうか?」
能力値が変化するとかかな。犯罪者はステータスにデバフがかかる、ってすれば身勝手なことはしづらくなるよね。でも王様次第で能力値に変化を起こすとゲームバランスに支障が生まれそうだ。となると、
「権利、ですかね」
警察は買い物をする際に割引がかかるとか、色々な施設に入れるとか。逆に犯罪者はコロニー内で買い物できないとか、立ち入り禁止の場所があるとか。そういう権利の差はアリだよね。
「権利も確かに変わるね。たとえば警察は市民のクラスを犯罪者に変える権利を持ってるし。けど肝はそこじゃない。正解はね、クラスが変わるとデスペナルティが変わるんだよ」
「デスぺナ……意外ですね」
「たとえば警察や市民は通常と同じ、最小限デスペナのチップ半損と1時間のステータス低下、後はマイハウスや拠点に持ち帰れなかったアイテムのロストだね。でーも、犯罪者や侵略者はキルされると牢屋に強制リスポーンされる。その後、コロニーの裁定で裁かれる。どんな無理な罰を下されても文句は言えない。逮捕された瞬間アカウントを消す人も多いね」
それは予想外。でも良い仕組みだ。
所持アイテムの強制没収とか、チップの全額没収、数か月単位の拘留とかできるなら相当の抑止力になる。
「だからこそ安心、ってことですね」
「そういうこと! コロニーじゃカプセルベッドに寝ている相手を撃ち殺すことが可能。だけどそれはオケアノスでは重罪なんじゃあ。もしその犯罪が露見すればクラスは犯罪者へと変えられる」
法によって安眠は守られるってわけだね。その辺りは現実と変わらないな。
(だけど、それって罪を犯してもコロニー外に脱出できれば問題ないってことだよね)
どんな重罪を犯しても逃げ切れれば問題なし。あくまでクラスはコロニー内で適用されるシステムなのだから。実力に自信がある人ほど、犯罪者に堕ちやすいとも言える。
「お。着いたよ」
透明な膜に囲まれた球体の星だ。地球に、ガチャガチャのカプセルを被せたような感じ。アレが第3コロニー『オケアノス』。
オケアノスの真上には巨大なガラス玉がある。ガラス玉は赤く発光している。アレは、太陽光かな?
「あのガラス玉はなんでしょうか?」
「うーん、短縮版とフルサイズ版、どっちがいい?」
「えっとぉ?」
「あのガラス玉の説明だよ。かいつまんで言うか、詳しく言うか」
「詳しくお願いします!」
SF大好きっ子なので!
「アレは太陽代わりのミラーボールさ。正式名称は『ソーラーディフューザー』だったかな。アレに太陽光を集めて太陽代わりにしているのだよ。太陽は幾つかあるんだけど、太陽近くには惑星がいっぱいあるからね。コロニーを太陽近くに作るのは難しい。だから太陽周辺に20個ぐらいの太陽光集積機を作るのさ。太陽光を集める装置だね。ソーラーコレクターから太陽光を濃縮させたビームをあのミラーボールに照射して」
「あの中で拡散して、太陽代わりにしているわけですか」
ほっそい光のビームが遥か彼方からあのミラーボールに届いている。アレがコレクターから持ってきた太陽光なんだろうね。
「そゆこと。コロニーは地球とかに比べたら遥かに小さいからね。あれぐらいのミラーボールで十分照らせるってわけ」
電球みたいだなぁ。太陽からコレクター引いて、ディフューザーに繋いでいるわけだ。
「さ、レセプションセンターに入るよ」
レセプション、受付ってことかな。
「ほら、コロニーに連結して球体の施設があるでしょ。あそこがレセプションセンター。レセプションで市民登録しないでコロニーに入るとクラスが侵略者になっちゃうんだよ。チャチャさんはすでに市民登録しているけど、シキっちょはまだだからね」
宇宙船はレセプションセンターの格納庫に入る。宇宙船から降り、格納庫からレセプションエリアへ移動する。
区役所みたいな雰囲気……番号札を持って待つこと数分、番号を呼ばれたので窓口へ行く。ガイドガールが窓口で対応してくれる。
『アカウントコード、プレイヤーネーム、コロニーに来た目的をこちらに入力してくだサイ』
タブレットを渡されたので席に座り必要な情報を入力する。
項目の1つに『推薦者』の欄があったので、チャチャさんの名前を入力する。
『受理しまシタ。暫くお待ちくだサイ』
「これで3日のビザ(入国許可証)が貰えるはずだよ」
チャチャさんが隣で説明してくれる。
「ビザが切れたらやっぱりクラスが変わるのですか?」
「そ。侵略者になる。けれど3日以内にコロニー内にマイハウスを持つと半年のビザが貰えるから安心してっちょ」
「なるほど~」
ゲームとは思えないほどキッチリしてるなぁ~。
僕はこういう細かさは好きだけど、苦手な人もいるだろうなぁ。
『お待たせしまシタ』
ガイドガールが金属製のカードを渡してくる。
『これがビザになりマス。有効期限は3日デス』
「ありがとうございます」
「アイテムポーチに入れていても効果発揮するから、データ化してOKよ」
僕はカードをデータ化して収納する。
『申し訳ございませんがシキ様、通常のゲートは使ワズ、こちらの軌道エレベーターでマザーベースに向かってくだサイ』
「まざーべーす?」
「本拠地だね。国の中心、王様と主力軍が居る場所だよ」
「コロニーに初めて来た人はみんなそこを経由するんですか?」
チャチャさんは肩を竦める。
「まっさか。むしろ初来航者なんて絶対入れない。中枢だよ? 重要機密情報の塊だよ? 情報の少ない、得体の知れないプレイヤーを入れるわけがない」
え? じゃあなんで……。
「シキっちょを呼んでるのは誰なのさ。ガイドちゃん」
『六仙様です』
「うえ!? うっそーん!!」
チャチャさんは驚きのあまり立ち上がった。
「え? え?? 誰ですか?」
六仙? 初耳だ。
「六仙さんはオケアノスの三代目国王さ。それでいてシーナっちやツバサっちが元々所属していた最強チーム、『ユグドラシル』のリーダーだった人だよ」
あの∞アーツをゲットしてチームを辞めたって人か。
「シキっちょからするとライバルにもなるのかな」
「ライバル? な、なぜですか?」
チャチャさんは愉快気に、
「だってあの人は――このゲーム最強のスナイパーだからね」
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