第58話 ボッチ、家を買う。
「あっつ~……」
目が覚めると、胸から足首にかけて自分とは別の体温を感じた。タオルケットに潜っている右手から、艶やか髪の感触がある。
タオルケットをペロッと捲ると、梓羽ちゃんが僕の胸に顔を埋めて眠っていた。
「梓羽ちゃん……また僕のベッドにぃ……」
週に1回ぐらいの頻度で梓羽ちゃんは寝惚けて僕の布団に潜ってくる。春夏秋冬の内、春秋冬はいいさ。でも夏だけは勘弁してほしい。互いの汗で服がべちゃっとしてる。
頭を撫でると、梓羽ちゃんは薄く瞼を開いた。
「あ、おはよ。お姉ちゃん」
梓羽ちゃんはそう言うとまた僕を抱くようにして眠ってしまった。まったくもって可愛い可愛い妹だね。だけど、
「あづぃよ~!」
僕は枕横にあるリモコンを使って冷房を付ける。
「あれ?」
なんか、梓羽ちゃんの胸の感触が柔らかくなっているような?
梓羽ちゃんも僕と同じで胸は小さい方だ。でもしかし、いや、確かに……膨らみを感じるぞ!
(ま、まさか、ついに妹にまで負けたの僕……!?)
改めて妹の胸をまさぐってみる。
うん。いや、まだ同程度だ。しかし、この勢いのまま成長したら……。
考えるのはやめよう。未来は誰にもわからないのだから。
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8月9日――
C級ランクマッチ、ツバサさんを倒したあの日から3日が過ぎた。
ましゅまろスマイルを脱退した僕は、特別なことは何もせず、レベリングを進めた。レベルは50に到達。するとそこでレベルの上昇は止まり、経験値が『オーバーボックス』という所に貯まるようになった。
ネットで検索してみると、どうやらレベルを51以上にするにはレベル51以上の機世獣を倒さないとならないらしい。それも雑魚ではなく司令機、前に倒したあの大ムカデのようなボス級を倒す必要がある。
50レベル毎に同じ作業が必要らしく、つまり100レベル、150レベルになった時も同じように100レベル以上のコマンダー、150レベル以上のコマンダーの撃破が必要となる。現在の最大レベルは200らしいが、100レベルを超えれば上澄みだそう。
ログインしてすぐに僕は『灼熱の惑星』と呼ばれる地面が全部溶岩の惑星にて、レベル70のコマンダー・『灼熱のルプス』と対峙した。全身に赤いエネルギーを走らせた漆黒の巨大狼型機世獣。レベル差はあったが無傷で討伐した。
両肩に火炎放射器、四本脚全てにスラスターが付いていて高速移動・広範囲火炎放射を繰り返してきたけど、ツバサさんとかクレナイさんに比べたら全然鈍くて余裕で対応できた。
この戦いでわかったのはG-AGEはこのレベル帯の機世獣には使えないということ。なんせ耐久値が1部位30000、急所(頭部と胴体)は60000あった。G-AGEが1発160ダメージだから何百発と当てなくちゃ破壊できない。普通にアサルトライフルで削った方が速いし楽だ。
あくまでG-AGEはスペースガール特効。機世獣には使えないということ。
(まぁどんな敵にも通用したら強すぎるよね)
ルプスを倒したらレベルが62になった。
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PN:シキ
LV:62
ROLE:スナイパー
TIP:1108600
装甲:20×1.5(30)
スラスター出力:40×2.5(100)
スラスター容量:80×3(240)
精密性:80×2.5(200)
レーダー:100×3(300)
ステルス性:60×2(120)
EN容量:60×1.65(96)
武装
スロット1:RS-45(スナイパーライフル)
スロット2:M1911 G-AGE (ハンドガン)
スロット3:ダストミラージュ(特殊外套)
スロット4:SCH-100+FullCustom (サーベル)
スロット5:PT-8(シールドピース)
スロット6:PBE-1(バレットピース)
スロット7:ARR-21(アサルトライフル)
スロット8:ARR-28(アサルトライフル)
拡張パーツ
スロット1&2:強化レーダー
スロット3:精密レーダー
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やっぱり機世獣を相手にするとなると大事なのはスラスター……EN容量はEN瓶を買い込めばカバーできる、とはいえ消費アイテムを使うにはいちいちメニューを開かないとダメだから隙が多い。そろそろENにも振った方がいいかな。
さてさて、次はお楽しみのドロップアイテムだけど……。
・FL-13(バーナー)
・フレイムライト鉱石×3
・ルプス・オマージュ装甲(ヒューマノイド専用装備)
・105500チップ
バーナー……火炎放射器。
「い、いらなぁ……」
サーベルも、ハンドガンも、アサルトライフルも、あるいはミサイルポッド、シールド、どれもそれなりに使いこなせる自信はあるけれど、フレイムバーナーばかりは使いこなせない。いや、使いこなした所で大した成果を得られる気がしない。これをメインウェポンにしている人とか居るのかな?
「お金、結構貯まったな」
TIP:1108600
チップが100万を超えた。これなら……そろそろ持てるかもしれない。
「夢のマイハウス♪」
僕にとって結構なストレスだったのがベッドルームで起きること。
あそこは無料で使えるけれど……人が多い! 起きる度あの人口密度に晒される僕の気持ちといったら……!
家については結構初期の頃に調べたけど、複雑。現実の不動産並に複雑。だから僕はある人物に助けを求めた。
フレンドリストを開くとちょうどログインしていて、メッセージを送ると即答でOKを貰った。
スペースステーションのシップドックで待ち合わせだ。
「シキっちょ~」
「あ、ちゃ、チャチャさん!」
ボサボサの茶髪でダボダボの作業着、活発な笑顔と口の飴玉。ましゅまろスマイルのメカニックにしてオペレーターのチャチャさんだ。
発売当初からインフェニティ・スペースを始めた人で、僕の知る限り最も幅広い知識を持っている。マイハウスについてもきっと1番詳しいだろう。
「マイハウスが欲しいって~? チャチャさんにお任せあれ~」
「えっと、あの予算で足りますか?」
チャチャさんには僕の所持チップ数を言ってある。
「場所によってはアレでいけるよ」
「さすがに立地のいい場所は無理ですか」
「そうだね。たとえば色々な惑星にある拠点内の土地は無理だね。土地の権利を買うだけで500万、さらに1か月毎に40万の維持費がかかる」
「うわぁ……それはきついですね。じゃあ僕はどこに……」
「コロニー。プレイヤーが作った人工惑星だよ。コロニーには拠点は無いけど、代わりに法があるし主要都市で無ければ土地も安い」
拠点はいわば絶対安全圏。演習場とかは除き、ダメージは入らないしカプセルベッドも壊れない。
「あれ? でも確かガイドガールがマイハウスとかも拠点に入るって……」
「あぁ~。プラネットの家とか、クエストで使うマザーシップとかは拠点化されているものもあるけど、基本的にプレイヤーの手で拠点を作ることはできないって思っていいよ」
ふむ。よくよく考えたら絶対安全圏をプレイヤーの手で自由に作れたらゲームバランスが崩壊するか。
(コロニーかぁ……憧れはあるよね)
人工惑星。SFがちょっとでも好きなら憧れて当然。
「詳しいことはチャチャさんおすすめのコロニーに移動しながら話すよ」
「なんていう名前のコロニーなんですか?」
チャチャさんは指を3本立てる。
「第3人工惑星・『オケアノス』。海のコロニーだよん♪」
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