第57話 海のコロニー
第3人工惑星・『オケアノス』。
81%を海が占める『海のコロニー』である。
水の惑星と呼ばれる地球ですら海の割合は71%。宇宙から見たその青さは地球をも超える。
コロニー全体が熱帯地帯であり、常に夏。ジャングルや山岳が多く、環境モデルは実在する国タイではないかと言われている。
首都を含む大都市が3つ、中都市が12、小都市が58。プレイヤー人口284万人、NPC189万人、合計473万人のスペースガール及びヒューマノイドが住んでいる。
鉱物や海洋物が採れるコロニーであり、豊富な資源を持つ。スペースガールの体なら暑さはさして問題ではないため好まれており、人口も5つあるコロニーの中で2番目に多い。国籍の縛りは無いため、世界中の色々な人種が揃う自由なコロニーだ。
そんなオケアノスの中都市の1つ、『ジョリー・ロジャー』。荒くれ者が集う街。その一介の酒場『バッド・ジョーク』で死んだ目をしたスペースガールが居た。
「あ~……もうやってらんねぇ。あーあ、やってらんねぇ」
数日はシャワーを浴びて無さそうなボサボサ白髪のポニーテール、砂色のコートにホットパンツを穿いた彼女は『イヴァン』。しがない運び屋である。
「あら~? どうしたのイヴちゃん、またお仕事失敗?」
酒場のマスターが聞くと、イヴァンは死んだ魚のような目を起こし、
「また例の盗賊共だよ。一体あたしに何の恨みがあるってんだ」
「あらあら。もう別の仕事したら~? ウチ、バイト募集してるけど~?」
「あたしにそんな胸元空いた格好しろって? 誰得だよ。背はちいせぇ、胸はちいせぇ、そんで目つきはクソ悪いと来た。自分で言うのもなんだが、あたしが飯を運んで来たら飯が不味くならぁ」
ハスキーな声でそう言い切るとイヴァンはジョッキを左右に振った。
確かにイヴァンは女性らしさというのが希薄だ。見た目は少年っぽく、声も中性的で、ガラは悪い。しかしこの世界は女性しかいないため、そのまんまの性格で接客すればある種のファンは付きそうではある。
「そういうキャラクリしたのあなたでしょうに~」
「あんまりリアルから乖離した姿にしても虚しいだけだろうよ。つーか、たとえあたしが絶世の美女だったとしてもバーじゃ働かねぇさ。あたしはハンドル握るためにこの世界に来てんだ。今の仕事を辞めるぐらいならゲームを辞めるよ」
イヴァンは出されたジョッキを一気飲みする。味は酒だが、一応ゲームの名目は『ガソリン』だ。
「テメェ! イワン!!」
褐色肌のスペースガールが鬼の形相でイヴァンに近づいてくる。
「イワンじゃないイヴァンだ。発音気を付けろい」
「どっちでもいい。アンタ、私が頼んだツインレッグいつになったら納品するんだよ!」
「あ~、それならついさっき砂漠の塵になったというか……どこぞのカラスに啄まれたというか~……」
「なっ……!? ふっざけんな! 安いからアンタに頼んだけど、もう頼まないからなぁ! 軍にも通報するから覚悟しな! 賠償金もしっかりもらうからね!」
褐色肌のスペースガールはズガズガと足音を鳴らしながら退出した。
「これ以上ペケが重なるとヤバいんじゃないの~? クラス『犯罪者』にされるわよ~」
「わかってるよ。もう後がねぇ」
「せっかく抽選で超レア鉱山独占できたのに、泡になりそうね~」
「まったくだ。でも、あたしにはハンドルしかねぇんだ。ここで退けねぇよ」
イヴァンはタバコに火を点け、口に咥える。
「こうなったら用心棒を雇うしかないか……」
「用心棒ねぇ~。そう何人も雇えるお金、もうないでしょ?」
「ああ。1人だ。腕の立つ1人を雇う」
イヴァンは酒棚に置かれた分厚いテレビに視線を移す。そのテレビにはとあるランクマッチの風景が映っていた。
「マスター、アレはいつのやつだ?」
「ああ~。この前のC級ランクマッチ戦よ~」
「なんでC級なんて映してんだよ。しょっぺぇ。A級映せよ、A級!」
「でもこのランクマッチ、元ユグドラシルのシーナちゃんとツバサちゃんが出てるのよ~」
「マジ? そりゃ、ちと面白そうだな」
イヴァンはランクマッチの映像を見ている内に、とある少女に目を惹かれるようになる。
「おい、コイツなんだ?」
「誰のこと?」
「コイツだよ! このスナイパー! ツバサの腕を取ったぞ!」
「あらホント~。ダークホースってやつねぇ」
イヴァンが騒いだことで、酒場の面々がチラチラとテレビを見るようになった。やがてチラ見はガン見に変わり、テーブル席からカウンター席に客が殺到。映像に釘付けになる。
「あらあらこの子、1対12を覆したわよ」
「単独で10キルを超えた……! まさかこのままツバサを倒すんじゃないか?」
そのイヴァンの予感は的中する。
最終決戦、1対1の戦い。燃え上がる戦場、盛り上がる酒場。激戦の末、無名の狙撃手は遂に、あの鉄壁――ツバサを討ち取った。酒場で『うおおおおおっっっ~~~~!!!!』と歓声が上がる。
「プレイヤーネーム・シキ。ダメね~。調べてみても情報は無いわ」
「あっれぇ? 私この子、街で見たわよ」
来たばかりの客、刈り上げのスペースガールが言う。
「マジか! そいつ、どこへ向かったかわかるか!?」
「えっと、廃屋街の方へ行ったわね」
「よっしゃ! マスター、これ代金ね!」
イヴァンは勘定を払い、外へ出た。用心棒――無名の狙撃手を求めて。
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