第54話 観衆
ましゅまろスマイル・オペレーター室。
シキの戦いを見守るニコの表情には戸惑いがあった。
「シキ……コイツ、できる奴とは思っていたけど、これ程とはね……」
単独で4チームを撃破し、最上級者レベルのツバサとは互角の戦い。プレイ日数10日程の人間が成す功績ではない。
ニコは特にシキの戦いを見た時間が少ない。ゆえにその驚きも大きなものだった。
「ツバサさんが跳弾を使うところは初めて見ました」
アイギスを使った跳弾。それは元チームメイトのシーナにとっても初見であり、ゆえに対策をすることもできなかった。
「盾とサブマシンガンを同期させて盾に弾が反射するよう設定したんだね。普通、初見でアレをくらったら落ちるけども、シキっちょは良く直撃を避けれたね」
「はい。素晴らしい反射神経――いや、視野の広さ、ですかね」
ニコはシキの超反応を見て、ある少女を重ねる。
(重なる……梓羽と、どこか……)
いいやそんなはずない。とニコは首を横に振る。
「だけどこの距離はツバサさんの間合い……」
「シキっちょは接近戦もできるよ」
「さすがにその分野ではツバサが上でしょ。唯一、突破口があるとすれば……」
勝負の鍵を握るのは、1撃必殺の弾丸。
「でも性能が割れた状態でアレを当てるのは無理ね。ツバサは反応も1流よ。相当引きつけないと当たらない」
「だけど、ツバサさんが無策で必中距離まで近づくわけがない」
「だから釣りだすんしょ。極上の策でさ」
チャチャは含みのある笑みをする。
「チャチャさん……?」
「なによ、その妙な笑い」
チャチャは画面の先のシキを見つめ、
「――恐ろしい子だねェ。まったく」
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紅蓮の翼・オペレーター室。
紅蓮の翼にオペレーターはいない。オペレーター室にはクレナイとレンの2人だけがいる。
2人は最終決戦を立ち見していた。
「オレ達の大将とここまでサシでやれたのは、シーナ以来か」
「シーナはバランサーだからまだわかる。けど、こやつは狙撃手だぞ。あの間合いでなぜツバサと互角でやれる?」
「同じ狙撃手としては信じられないか?」
「あっっったりまえじゃ!」
紅蓮の翼の2人は自分たちの大将を見つめる。
「負けると思うか。この勝負」
「それはないじゃろう。ツバサは負けん。呆れるほどのバカで、天才じゃ。いずれこのゲームの頂点に立つ女じゃ。ゆえにワシらはついてきた。そうじゃろう?」
「違いない」
2人の瞳に不安や心配は一切無かった。
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高層マンション『ムーンライト』・最上階。
シキとツバサの戦いを見守っていた星架は、席を立った。
「ん? どうした星架」
「……∞バーストは、起きない。もうこれ以上勝負を見守る必要は無い」
「起きない? このシキって子が、器じゃ無かったってことか?」
星架は「違う」と否定する。
「相手の格が低い。そのせいで、シキの限界以上を引き出せない」
「ふむ?」
「∞バーストは現状の力じゃどうしようもない敵を前にしないと発現することはない。2度目以降はともかく、1度目――最初の∞バーストには強敵との戦い、あるいは絶体絶命のピンチが必要」
星架は珍しく饒舌に話す。
「だけど今回、シキはそこまで追い込まれることはない。現状の力で勝てるのに、わざわざ限界以上を引き出すことは無い」
星架は流し目気味に映像を見る。
「……この子、シキの手のひらの上で踊ってる」
星架は口角を僅かに上げ、部屋を出た。
星架の母親は1人、スクリーンに向かい、クスりと笑う。
「楽しそうだね、星架。お前にそんな顔をさせるなんて、ちょっとこの子に嫉妬しちゃうな」
星架母はシキを集中して見る。
「技術、反応、戦術。どれも素晴らしく恐ろしいが、彼女の中で一番恐ろしいのは……」
星架母はシキの眼光を見る。
「……狙ったターゲットは逃がさない、餓狼の如き獲物への執着心だ。いいね、星架じゃなく……私がこの子を貰っちゃおうかな♪ 初心そうだし、色々と仕込み甲斐がありそうだ」
星架母は右手で銃を作り、その細く白い指先をスクリーンの先のシキに合わせる。
「やっぱり、母娘だと好みも似るのかな」




